《魔王様は學校にいきたい!》深夜の執務室

深夜。

鬼も寢靜まる時刻。

ロームルス城、ゼノン國王の執務室に小さな明かりが燈っていた。

豪華なソファに腰かけ、酒をあおるゼノン王。

向かいのソファには、ゼノン王よりやや年上の、細の男が腰かけている。

「魔王の襲來……知らせを聞いた時は驚きましたよ」

カランッと音をさせ、氷のったグラスを傾ける男。

ロムルス王國を支える大臣の一人、ルードルフだ。

「しかも、その魔王を學園に學させる……まったく陛下はなにを考えているのやら……」

「悪かったな、相談もせずに」

「攻めているのではありません、心配をしているのですよ」

ルードルフの話し方は、國王が相手とは思えないほど無遠慮なものだ。

しかしその口調と態度が、信頼関係の強さを表しているともいえる。

「しかし魔王とは……本なのでしょうか?」

「さあな、真偽は確認のしようがない。しかし……」

カランッと音をさせ、一気に酒を飲みほすゼノン王。

「俺は本だと思っている」

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拠を聞いても?」

「二つある。まず一つ、戦闘における能力がずば抜けている。ウルリカに適う者はロムルス王國には一人もいないかもしれん」

ゼノン王の言葉に、ルードルフは目を見開いて驚く。

「國に一人も? 流石にそれは言い過ぎでは?」

「言い過ぎではない、むしろ控えめに言ったつもりだ。ゴーヴァンを一蹴した実力は凄まじいものだった、聖騎士が文字通り片手間だったからな」

「あのゴーヴァンが片手間とは、未だに信じられませんよ……」

靜かな執務室に、氷の揺れるカランッという音が鳴り響く。

「では、もう一つの拠は?」

「俺の直勘だ」

「直勘ですか……」

「直勘というより“畏れ”に近いな」

ギョッと驚くルードルフ。

その反応を見て、ゼノン王はニヤリと笑みを浮かべる。

まるでルードルフの反応を楽しんでいるようだ。

「畏れ? 賢王で知られるゼノン王が畏れとは、どういう冗談ですか?」

「冗談ではない。ウルリカからじる気配や圧力、あれは王として遙か高みにいる者の覇気だ。なくとも俺では足元にも及ばないだろうな……」

「陛下がそこまで言うとは……」

「學校に通いたいなどと言っておったがな、俺の方がウルリカから學びたいくらいだ」

カチカチと時計の針の進む音が、執務室に響く。

靜かに流れていく時間の中で、ゼノン王とルードルフはゆっくりと酒をあおり続ける。

「しかし、よりによってロームルス學園……あそこは一筋縄ではいきませんよ」

學園の話になり、明らかに顔をしかめるゼノン王。

難しそうな表でルードルフの話に耳を傾ける。

「ロームルス學園は王政から完全獨立した教育機関です。”學問と政まつりごとは分けて然るべし“の理念に基づき、王家の権力も跳ね返してしまいます」

「分かっている、ウルリカの學試験も無理やり許可を取ったからな。學長に直接頼み込んだのだぞ」

「そこまでやって、それでも魔王が學出來なかった場合はどうするのですか?」

「うむ、その時は……」

「その時は……?」

目を閉じてグラスを傾けるゼノン王。

カランッ、という氷の音が響く。

「國ごと滅ぶ覚悟を決めるか?」

「陛下!?」

「ハッハッハッ、冗談だ」

軽い調子で笑うゼノン王。

対してルードルフは怒りの表を隠さない。

「そう怒るなルードルフ。冷靜に考えてみろ、現実に國が滅びないとも限らないだろう?」

「それはまあ……相手が本の魔王であれば可能はありますが……」

「だろう? まあ心配するな、それを見越してウルリカと友達になったのだからな」

「友達ですか……」

「ああ、この際ウルリカが本の魔王か偽の魔王かはどちらでもよい。親しくしておくに越したことはない」

「……なるほど……」

を落ち著かせたルードルフを見て、ゼノン王はふぅっと息を吐く。

「仮に本の魔王であれば、敵対すること自があり得ない。國が滅ぼされないために懇意にしておく必要がある。偽であろうと聖騎士を一蹴するほどの戦力に変わりはない、味方に引きれておいて損はないだろう?」

「それはその通りですね、ただし……」

カチリッ、と時計の針が深夜零時を指し示す。

「魔王が邪悪な存在ではない、ということが前提條件です」

「ハッハッハッ! それなら心配ない、邪悪でないことは俺が保証する!」

「それも勘ですか?」

「ああ、勘だ!」

靜かな執務室に、ルードルフの深いため息が響く。

「では私も覚悟を決めますか、自稱魔王をれる覚悟を」

「ああ、ついでに俺の執務を減らしておいてくれ。ウルリカの相手で時間が──」

「それはダメです、執務はきっちりこなしてもらいます」

恨めしそうなゼノン王。

飄々と酒をあおり続けるルードルフ。

「ぐうぅ……ルードルフめ……」

執務室に響く、ゼノン王の嘆きの聲。

こうして、ロームルス城の夜は更けていく。

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