王都ロームルスの夜は暗い。

月明りと、街燈の微かなが町を照らす。

ぼんやりと薄暗い夜道に、若いの姿があった。

「はぁ……遅くなっちゃったわ……んふふ……」

ほんのりと酒の匂いを漂わせ、フラフラおぼつかない足取りで歩いている。

たまに理由もなくニヤニヤと笑っている、酒に酔っているのだろう。

「ぅうん……この辺りは暗いから嫌なのよねぇ～……転んじゃうわ～」

の歩いている道は、ロームルス學園に面する大通りだ。

靜かな通りに、の靴の音だけがコツコツと響いている。

「そこの……」

微かに聞こえる、低い男の聲。

突然聞こえた聲に、は驚いて足を止める。

「えっ……？」

「そこのお嬢さん……しよろしいかな？」

男の聲は、建の影の暗がりから聞こえてくる。

「夜遅くに一人で歩いていると、危ない目にあいますよ……」

ヌルッ……と影からはい出してくる男。

黒いマントと帽子姿の、怪しい雰囲気の男である。

しかし、酔っているは強気な態度だ。

「はぁ？　なによ？　あんたの方がよっぽど危ないんじゃないのぉ？」

カツンッっと石をけっ飛ばす。

飛ばされた石は、放線を描き──。

「ヒヒヒッ……」

スルリと男のを通り抜け、道の反対側へコロコロと転がっていく。

「……なに……今の……？」

「どうやら恐怖しているな……ヒヒッ」

不気味に笑う男。

次の瞬間、男のは霧のように散ってしまう。

まるで夜の闇に溶けてしまったようだ。

「噓!?　どこに行ったのよ？」

「……後ろですよ……」

慌てて振り返る。

目の前には、先ほどの怪しい男が立っていた。

「味そうな匂いだ……」

ニヤリと笑い、「はぁ」と息を吐く男。

開いた口から、二本の鋭い牙が覗いている。

「いやっ……うぐぅっ!?」

悲鳴をあげる間もない。

男はに覆いかぶさり、素早くを押さえ込む。

けないの首筋に、二本の牙が差し込まれる。

「あ……誰……か……」

健康的だったの顔は、真っ白に染まっていく。

の気を失い、ガックリとその場に倒れる。

男の口元からは、真っ赤なが滴っている。

「ヒヒヒッ……味かったぞ……」

をその場に殘し、夜の闇に消えていく男。

王都の夜を、怪しい影がうごめく。