《魔王様は學校にいきたい!》吸鬼の正
「この部屋にもおるぞ?」
ウルリカ様の一言で、一気に凍りつく執務室の空気。
高まる張の中、扉の外から可らしい聲が飛び込んでくる。
「お二人とも! お待ちください~」
「待ってリヴィ、置いてかないで!」
オリヴィアとナターシャである。
慌ただしく執務室へとってきた二人。しかし重苦しい空気をじとり、すぐに靜かになる。
「あ……すみません……」
「構わん、お前達はじっとしていろ」
ゼノン王の言葉には、有無を言わせぬ迫力がこもっている。
「話を戻そう……ウルリカよ、この部屋に吸鬼がいる、というのは事実か?」
「うむ、間違いないのじゃ!」
「それはつまり、俺、ルードルフ、ノイマン學長、シャルロット。この四人の誰かが吸鬼である、そういうことか?」
衝撃的な會話の容に、オリヴィアとナターシャの顔面は蒼白だ。
元から執務室にいた四人も、息を飲みウルリカ様の言葉を待つ。
しかしウルリカ様は、ゼノン王の問いをあっさりと否定する。
「それは違うのじゃ」
スッと片手を天井へと向ける。
「吸鬼はここじゃ」
あげた手をふいっと振り下ろす。
次の瞬間、バキバキと天井を破り、人影が落下してくる。
落下してきたのは、黒い覆面と革鎧にを包んだ男だ。
ウルリカ様の魔力によって、天井裏から引きずりおろされたのである。
「馬鹿な! なぜ見つかった!?」
「匂いでバレバレなのじゃ」
男はギロリとウルリカ様を睨む。
食いしばった口元には、鋭い牙が二本覗いている。
「偵? まさか吸鬼に報を盜まれていたのですか!?」
「そのようだな……信じられんっ」
突然の事態に、騒然とする執務室。
その時、吸鬼のに異変が起こる。
いち早く異変に気づき、聲をあげるノイマン學長。
「いかん! 霧になって逃げる気ですぞ!」
「ハハハッ、もう遅い!」
高笑いをする吸鬼の男。
そのはぼんやりと薄まり、そして──。
「ぐぅっ!? なっ、なんだ?」
薄まっていたは、徐々に実へと戻っていく。
ビタンと床に張りついたまま、もがき苦しむ吸鬼。
まるで見えない巨大な手で、床に押さえつけられているようだ。
「ぐぎぎ……けない……霧にもなれない……なぜだ!?」
「妾の魔力で縛っておるのじゃ、逃げられるわけがないのじゃ」
口をかすことしか出來ず、ミシミシと床に押しつけられていく。
ウルリカ様の魔力によって、吸鬼のに凄まじい圧力がかかっているのだ。
「ぎぃっ……ぎぐぐっ……おのれぇ……うぐっ」
しばらく抵抗していた吸鬼だったが、やがてガックリと意識を失う。
かなくなった吸鬼の顔を、ルードルフが確認する。
「城の警備兵です……」
「警備兵が吸鬼……なんということだ……」
「信じられませんわ……城の中に吸鬼だなんて……」
シンと靜まり返る執務室。
恐る恐る手をあげたオリヴィアは、震える手で吸鬼を指差す。
「あの……その方は……吸鬼なのですか……?」
ナターシャはオリヴィアに抱きついたまま、ブルブルと震えている。
事を飲み込めていない二人は、心底怯えた様子だ。
そんな二人を見つめながら、ゼノン王は靜かに考える。
「……お前達にも事を話そう」
「お父様! 二人は関係ありませんわ!!」
「しかし見てしまったものは仕方ないだろう? 知らない方が危険ということもある」
ゼノン王にうながされ、椅子に座るオリヴィアとナターシャ。
「これから話すことは他言無用だ、分かったな?」
二人は黙ってコクリとうなずく。
「さて、どこから話したものか──」
そしてゼノン王は、事の経緯を語りはじめる──。
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