「吸鬼！　覚悟なさい!!」

ブラムへ向けて杖を構えるシャルロット。

対するブラムは、ゆっくりと起きあがり勢を立て直す。

「ヒヒヒッ！　覚悟するのは貴様等の方だ!!」

黒い霧に変化したブラムは、ドロリと夜の闇に溶ける。

警戒するシャルロットの背後で、黒い霧が渦巻いていく。

「王族の命、いただいたぁ！」

実化したブラムは、シャルロットへと襲いかかる。

それに一早く気づいたナターシャは、素早く反応して剣を抜く。

「させません！」

鋭く風を切る音。そして宙を舞うブラムの片腕。

目にも止まらぬナターシャの剣は、見事ブラムの腕を切り飛ばしたのだ。

「ほう……なかなかやるな……」

腕を切り飛ばされたにもかかわらず、余裕な態度のブラム。

を霧に変化させ、切られた腕を元通りに修復してしまう。

「ヒヒヒッ、し本気を見せてやろう」

修復されたブラムの手に、濃な魔力が集まっていく。

指先に集まった魔力は、黒く長い爪を形作る。

「くらえ！　魔爪まそう!!」

魔爪と呼ばれる、吸鬼特有の戦闘技法である。

突き出された魔爪は、槍のように鋭くナターシャへと迫る。

「てやあぁっ！」

しかしナターシャも負けてはいない。

繰り返される魔爪の攻撃を、的確な剣さばきで全て弾き返す。

「ちぃっ……妙だな……」

攻撃を全て防がれたブラム。

その表に疑問のが浮かぶ。

「まるで私のきを予知しているかのようだ……なぜ私のきを読める？」

「予知なんてしていません、単純にあなたのきは遅すぎるのです」

「なに？　遅すぎるだと!?」

「ウルリカさんと比べたら、止まって見えるほどですよ？」

ビュンッと音を立て、剣を構えるナターシャ。

月明りに照らされた剣は、白銀の輝きを放つ。

「ぐっ……ギラギラと眩しい、なんだその剣は……」

「ウルリカさんから貰った剣、“ヨグソード”です！」

刀から柄まで白銀に染まったしい剣。

ウルリカ様からナターシャへの贈り。白銀の剣、ヨグソードである。

「絶対に折れない剣だと言われました。これで安心して、あなたの攻撃をけることが出來ます！」

「小娘がぁ……調子に乗るな！」

ブラムは再び全を霧に変化させる。

霧は辺り一面へと広がり、グルグルと渦を巻いて三人を取り囲む。

「どうだ？　これならば狙いをつけられまい！」

「いいえ、隙だらけです！」

杖を構えたオリヴィアは、霧へと向かって魔法を唱える。

構えた杖の先端から、金のが放たれる。

「治癒魔法、デモヒール!!」

「ぐぎゃあぁぁっ!?」

悲鳴をあげながら、実へと戻るブラム。

しかし、片腕は霧へと変化したまま実に戻ることはない。

オリヴィアの治癒魔法によって、消滅させられたのだ。

「ぐおぉ……今の強烈な魔法はなんだ!?」

「ウルリカ様直伝の治癒魔法、“デモヒール”です！」

「デモヒールだと!?　そんな魔法は知らんぞ！　それになぜ貴様のような小娘が、これほど強力な魔法を使えるのだ!?」

「ウルリカ様に貰った杖のおかげです！」

オリヴィアの手には、片手サイズの青紫の杖が握られている。

先端からキラキラとを放ち続ける、不思議な杖だ。

この杖こそ、ウルリカ様からオリヴィアへの贈り。星杖せいじょうウラノス。

魔法の威力を高めてくれる、特別な杖なのである。

「くうぅ……おのれぇ！　よくも私の腕を!!」

「お二人とも、私の後ろにさがってください！」

前衛のナターシャは、襲いくるブラムを迎え撃つ。

ナターシャのヨグソードと、ブラムの魔爪が激しくぶつかりあう。

繰り広げられる一進一退の攻防。

絶妙な剣さばきで、特訓の果を見せるナターシャ。

しかし、本気になったブラムの猛攻に、ジリジリと追い詰められていく。

「くうぅっ」

「どうした？　隙だらけだぞ!!」

「しまった！」

一瞬の隙を突いて、ブラムはナターシャの背後へと回り込む。

魔爪を構えようとするが、その攻撃は途中で阻止される。

「炎よ!!」

「なっ、ぐあぁっ!?」

実化したブラムへと、激しい炎が襲いかかったのだ。

シャルロットによる炎魔法の攻撃である。

炎にを焼かれ、フラフラと後退するブラム。

シャルロットはその隙を見逃さない。

「オリヴィア！　今ですわよ!!」

「お任せください！　デモヒール!!」

「いぎゃあぁっ!!」

ブラムを包む、治癒魔法の金の。

大ダメージをけて、ブラムのはグズグズと霧に溶けていく。

「ぜぇ……ぜぇ……なぜ王ごときに……きを読まれたのだ……」

「読んだのはあなたのきではありません、ナターシャとオリヴィアのきですわ」

「なん……だと？」

「二人のきを読み、隙を予測したのですわ。そして隙の生まれる場所に魔法を放ったら……フフッ、おバカな吸鬼が飛び込んできましたわ」

シャルロットは特訓中、ずっとオリヴィアとナターシャのきを観察していた。

その結果、二人のきを完璧に把握し、予測することまで出來るようになっていたのだ。

三人の見事な連攜攻撃で、ブラムのは消滅寸前である。

もはや勝負はついたかと思われた、その時──。

「くそがあぁっ！　調子に乗るなあぁっ!!」

弱っていたはずのブラムから、巨大な魔力が立ちのぼる。

渦巻く黒い霧は、ブラムの全を覆い隠す。

「なっ、一なんですの!?」

「ヒヒヒッ……まさかここまで追い詰められるとはな……」

霧の中を、不気味な笑い聲が反響する。

放たれる魔力によって、空気はビリビリと振する。

「仕方なイ……真の恐怖ヲ見せテヤろウ……」

そして、黒い霧をかき分けて、真の恐怖が姿を現す。