《魔王様は學校にいきたい!》嘆きの魔王様

「ウルリカ様あぁっ!」

扉を開けて、勢いよく飛び込んでくるノイマン學長。

クルクルと宙を舞い、見事な姿勢でウルリカ様の前に著地する。

「ウルリカ様! 申し訳ございません!!」

「ノイマン!」

「この度のこと、心よりお詫びを──」

「どういうことじゃ~っ! なぜ授業は中止なのじゃ~っ!!」

ウルリカ様に摑まれて、ノイマン學長はブンブンと振り回されてしまう。

「ひいぃ~! お放しくだされぇ~!?」

「ちゃんと説明するのじゃ! さもなくば世界を滅亡して──」

「ウルリカ様、手を放してください! ノイマン學長が死んでしまいますよ!!」

「む……むうぅ」

オリヴィアに宥められて、ウルリカ様はようやく大人しくなる。

しかし、ほっぺたを膨らませて非常にお怒りだ。

「ぜぇ……ぜぇ……危うく黃泉の國へと旅立ってしまうところでしたな……」

「大丈夫ですの? ナターシャ、そちら側から支えてあげて」

「はい!」

ウルリカ様に振り回されて、フラフラなノイマン學長。

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シャルロットとナターシャに支えられ、なんとか立ちあがる。

「ふぅ……すまんのう……」

「いえ、それよりもノイマン學長にお聞きしたいことがありますの」

「分かっております、きちんと説明しますでな」

呼吸を落ちつけたノイマン學長は、七人を椅子に座らせる。

ちょうど授業風景のように、ノイマン學長だけ立っている狀態だ。

「さて、突然こんなところに連れて來られて、さぞ戸っていることでしょうな」

「戸うどころではないのじゃ! 授業は中止と言われたのじゃぞ! 先生もおらんと言われたのじゃぞ! そして教室はここじゃと? これは全て事実なのか!?」

「ひぃっ!? そそ、その件は……殘念ながら全て事実なのですな」

ノイマン學長は震える聲で説明をする。

「理由は二點ありましてな。まず一點目は教師の不足ですな。例の吸鬼事件、犯人も被害者も學園の教師だったのですぞ。そのため一時的に教師が足りていないのですな」

「なるほどですわ、下級クラスに教師をつけられない理由ですわね」

「ぬうぅ……おのれぇ……吸鬼めぇ……」

「吸鬼めって……ウルリカさんも吸鬼なのに……」

恨めしそうな顔をするウルリカ様。

そんなウルリカ様に、ナターシャは呆れた聲をらしている。

「二點目の理由はなんですの?」

「二點目はかなり大きな理由なのですな。実は下級クラスの使う予定だった校舎が、倒壊してしまったのですな」

「倒壊ですの!? なぜそんなことに……?」

「吸鬼事件の翌日、下級クラスの校舎に大きなが空いていたのですな」

? どうしてなんて……」

「みなさんと吸鬼による戦闘の余波ではないですかな? 外壁から校庭、そして下級クラスの校舎まで、円形にごっそりと抉りとられていたのですな」

「ぬうぅ……許せんのじゃ……吸鬼めぇ……」

ますます恨めしそうな顔をするウルリカ様。

しかし、シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は「あれ?」と首をかしげてしまう。

「それって……もしかしてウルリカさんの仕業なのでは?」

「うむ……うむ?」

「あの時のウルリカさんの魔法、外壁を破壊して校舎の方に飛んでいきませんでしたか?」

「外壁から校舎まで、円形に抉りとられていたのよね? ウルリカの魔法は黒くて丸かったですわよ……」

「ウルリカ様……まさか……」

シンと靜まり返る小屋の中。

そしてウルリカ様は、立ちあがって大きくぶ。

「妾の滅亡魔法か!?」

「はい……ウルリカさんの魔法だと思います……」

「ですわね……他に原因は思いつきませんもの……」

「ウルリカ様……自分で自分の通う校舎を、破壊してしまったのですね……」

「そんな……犯人は妾じゃったか……」

ウルリカ様はガーンッと崩れ落ちてしまう。

落ち込むウルリカ様を見て、シャルロットはノイマン學長に質問をする。

「ノイマン學長、この狀況はなんとか出來ませんの? 空き教室を使わせていただくとか、臨時で教師を立てていただくとか……」

しかしノイマン學長は、悲しそうに首を橫に振る。

「殘念ながら、今回の決定は職員會と生徒會の総意でしてな。すでに決定は下されしまっているのですぞ」

「どうしてそんな決定を? ウルリカさんが校舎を壊しちゃったからですか?」

「そうではないのですな。下級クラスであるシャルロット王殿下に吸鬼事件を解決されてしまったことを、職員會と生徒會はよく思っていないようでしてな」

ノイマン學長の説明は続く。

「シャルロット王殿下は最近、太の天使様と呼ばれ市民から慕われておりますな。そのことについても反を抱いているようでしてな。その“當てつけ”ではないかと思いますな」

「そんなことですの!? たったそれだけのことで、こんなにも酷い仕打ちをけておりますの?」

「下級クラスに対する差別意識は、想像以上に大きいのですな……」

重苦しい沈黙が流れる。

そんな中、オリヴィアはそっと手をあげる。

「あの……ノイマン學長の権限で、決定を覆せないのでしょうか? このままではウルリカ様が可哀そうで……」

オリヴィアからの問いに対して、ノイマン學長は再び首を橫に振る。

「実は今回、ワシは意思決定から外されてしまったのですな……」

「どういうことですの? 學長を意思決定から外すなんて、おかしいですわよ!」

「ワシにもよく分からんのですな……」

そう言ってノイマン學長は、懐から一枚の紙を出す。

「これはワシへの通知書なのでしてな。“最近のノイマン學長は、突然空中を飛び跳ねる、人前で土下座しまくる、にひれ伏す、などの奇行が見られる。そのためノイマン學長を、まともな神狀態ではないと判斷する。よって今回の意思決定から外す。”と書いてありますな」

難しそうな表で、真剣に悩むノイマン學長。

一方、シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人は、「あぁ」と納得の表だ。

ノイマン學長のウルリカ様に対する態度を、思い出しているのである。

「ともかく、そういう理由で下級クラスの教室と授業は無くなってしまったのですな……」

「ううぅ~……せっかくの初登校じゃったのに~……」

話を聞いていたウルリカ様は、しくしくと泣きだしてしまう。

眉を八の字にして、もの凄く悲しそうな表だ。

「妾はちゃんと學校にいきたいのじゃ~」

ウルリカ様の嘆きの聲が、虛しくこだまするのだった。

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