《魔王様は學校にいきたい!》悪魔

「さあ聖よ、命を捧げる時間だ……」

深夜を知らせる鐘の鳴る中、アルベンス伯爵は正を現す。全を黒い模様で覆い、捻じ曲がった角を生やし、禍々しい姿へと変貌する。

人間とはかけ離れたその姿こそ、恐ろしい悪魔の姿だ。

「クククッ……聖の命を捧げれば、あのお方の復活も近づくはず……」

「あのお方? まさか……」

「あのお方」という言葉に反応したオリヴィアの顔を、アルベンス伯爵は探るように覗き込む。

「もしや貴様、あのお方を知っているのか?」

「王都に現れた吸鬼も、同じようなことを言っていました。もしかして伯爵も、吸鬼の仲間……?」

「吸鬼だと……?」

アルベンス伯爵は不愉快そうに眉をひそめ、ギロリとオリヴィアを睨みつける。

「この我を、吸鬼のような卑しい連中と一緒にするな! 我は悪魔よ、吸鬼など遙かに凌駕した、崇高なる存在なのだよ!」

そう聲高にぶと、アルベンス伯爵は両腕を空高く広げる。立ちのぼる黒い魔力は、空中に巨大な魔方陣を描いてく。

Advertisement

「見せてやろう、悪魔の力の一端を……」

現れた魔方陣は、バラ園を覆うほどの大きさだ。闇夜に怪しく浮かぶ魔法陣に、黒い魔力が集まり──。

「──召喚魔法、サモンゲート──!」

集まった魔力はドロドロの黒い雫となって、バラ園に降り注ぐ。黒い雫はグチュグチュと音を立て、蠢く黒いへと姿を変えていく。

「ひっ、これは一……!?」

現れたのは、人の子供と同じ背丈の、小さな生きである。しかしその見た目は、人の子供とはかけ離れたものだ。

は黒く、目は真っ赤に走り、頭には小さな角が二本。まるでこの世のものとは思えない、恐ろしい見た目をした生きである。

「クククッ……どうだ、恐ろしかろう? こいつらは“インプ”と呼ばれる、低級の悪魔だ」

次々と降り注ぐ黒い雫、そして現れるインプ達。バラ園はあっという間に、數十ものインプの大群で埋め盡くされてしまう。

「さあインプよ、狩りの時間だ! あの娘を捕えよ!!」

「「「「「ギィッ! ギギイィッ!!」」」」」

軋む金屬ような鈍い鳴き聲をあげ、インプの群れはオリヴィアへと襲いかかる。

カーミラを抱え、慌てて逃げるオリヴィア。しかし、バラ園を埋め盡くすインプの群れからは、そう簡単には逃れられない。

逃げるオリヴィアのを、インプ鋭い爪が襲う。

「「「「「ギギィッ! ギギィッ!」」」」」

「くぅっ……デモヒール!」

片手に黒貓カーミラを、片手に星杖ウラノスを持ち、走りながら治癒魔法を発するオリヴィア。治癒魔法のを散らせながら、必死にバラ園を逃げ回る。

「ほう、自らの傷を癒しながら逃げ続けるとは、なかなか楽しませてくれるな」

「デモヒール! はぁ……はぁ……デモヒール!」

「クククッ……このバラ園は、我々悪魔の支配する魔の庭園だ。どこにも逃げ場はないぞ」

バラの生け垣を壁にしながら、オリヴィアはインプから逃れ続けている。

しかし、いつまでも逃れ続けることは出來ない。次第に逃げる場所もなくなり、いよいよバラ園の端に追い詰められてしまう。

「さて、そろそろ狩りも終わりにしようか……やれ! 我がしもべよ!!」

「フシャアァッ!」

「きゃあぁっ!?」

オリヴィアは悲鳴をあげ、バッタリとその場に倒れてしまう。手元から離れた星杖ウラノスは、カラカラと音を立て地面を転がっていく。

倒れるオリヴィアの片腕には、カーミラが鋭い牙で噛みついていたのだ。

「うぅ……カーミラちゃん……どうして……」

「クククッ、殘念だったな聖よ。その小は貴様を監視するために送り込んだ、我のしもべだったのだよ」

「そんな……」

「悪魔と吸鬼のを移植した実験でな、魔力によって意のままにかせるのだ。さらに、見聞きした報を我に屆けることも出來るのだ」

「フゥーッ! フゥーッ!」

「貴様は我のしもべを、大事に抱えて連れて來てしまったということなのだよ。クククッ、まったくご苦労だったな」

悪魔の蠢くバラ園に、アルベンス伯爵の邪悪な笑い聲が響き渡る。そんな中、オリヴィアの腕に噛みついていたカーミラは、グッタリと力を失っていく。

「フシャッ……フシャッ……」

「カーミラちゃん!?」

「なんだ、もう限界か? やはり小は長持ちしないものだな……」

「限界?」

「我の魔力を送り込み、無理やりっているのだ。そのような小で、耐えられるはずもなかろう。その小は間もなく死ぬ」

「なんて……なんて酷いことを……」

もはや完全に力を失い、ピクピクと痙攣するだけとなったカーミラ。オリヴィアは地面に倒れたまま、そっとカーミラを元に抱き寄せる。

「しっかりして……カーミラちゃん、死んじゃダメ……」

「ふんっ、そんな小の心配をしている場合ではないだろう?」

パチンッと指を鳴らし、アルベンス伯爵はインプの群れに合図を出す。

倒れるオリヴィアとカーミラを囲んで、規則正しく円形に並ぶインプの群れ。その並びはまるで、地面に描かれた黒い魔法陣のようだ。

「さあインプ共よ! 生贄の命を、あのお方へと捧げるのだ!」

漆黒の魔力によって、バラ園は暗く満たされていく。

その時──。

「そこまでなのじゃ……」

突如として上空に現れる、強大な魔力の波

それはまるで深海のように、重く、暗く、冷たい魔力。そして吹きあがる火山のように、激しく燃える怒りの魔力だ。

空中の魔法陣も、バラ園を満たしていた漆黒の魔力も、一瞬にしてかき消してしまう。

「なっ、なんだこの魔力は!?」

「「「「「ギィ……ギギィッ!?」」」」」

あまりにも強大な魔力の波けて、低級悪魔であるインプはを保つことも出來ない。バタバタもがき苦しんだかと思うと、黒い雫となって消えていく。

インプの悲鳴が響き渡る中、輝く月を背景に、ゆっくりと降りてくる小さな影。

「妾のリヴィを酷い目にあわせて……絶対に許さんのじゃ……」

そして、悪魔の支配する庭園に、怒れる魔王が降臨する。

    人が読んでいる<魔王様は學校にいきたい!>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください