《魔王様は學校にいきたい!》しまった!

一方こちらは王都ロームルスの上空。

雲一つない青空に、小さな赤い點が浮かんでいた。

「グルオォォッ!」

赤い點の正は、真っ赤な鱗のレッサードラゴンだ。背中にウルリカ様、オリヴィア、シャルロット、シャルル、ベッポの五人を乗せて、町の上空を飛行している。

拐されたナターシャを連れ戻すべく、五人はアルテミア正教會へと向かっているのだ。

「五人も乗せて飛べるなんて、ドラゴンって凄いのですわね」

「“アグニス”は凄いでしょう? 本気を出せば八人まで乗せられますよ!」

「「「アグニス?」」」

「このレッサードラゴンの名前だよ、カッコいい名前だろ?」

そう言うとベッポは、アグニスの首元を優しくでてあげる。ベッポはアグニスのことを、とても自慢に思っているようだ。

「ところでシャルル、目的地はどこなんだ?」

「この先にある白い大きな教會だ、そこに教主様は滯在されている! もうしばらく進めば見えてくるはずだ!」

「もうしばらくか……だったら到著までの間に、アルテミア正教會のことを詳しく説明してくれよ」

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「あら? ベッポはアルテミア正教會を知りませんの?」

「俺はアルテミア正教會の信徒じゃないので、あまり詳しくないのですよ。商売人は商売の神しか信仰しないのでね」

どうやらベッポは目的地到著の前に、アルテミア正教會の報を詳しく知っておきたいようだ。説明を頼まれたシャルルは「分かった!」と大きく頷く。

「アルテミア正教會は、宗教國家“アルテミア正教國”を総本山とする巨大な宗教組織だ。大陸全土に布教されており、各國に大きな影響力を持つ。ロムルス王國の王家もアルテミア正教會の信徒だったはずだ」

「その通りですわ、ロムルス王家はアルテミア正教會の信徒ですの」

「アルテミア正教會では“勇者アルテミア様”を信仰対象としている。勇者アルテミア様とは、千年前に魔王と戦った伝説の勇者様で──」

「ちょっと待て、魔王って……」

魔王と聞かされたベッポは、思わずウルリカ様の方へと視線を移す。すると──。

「すやぁ……すやぁ……」

視線の先ではウルリカ様が、可らしく寢息を立てていた。オリヴィアにもたれかかって、ずいぶんと気持ちのよさそうな寢姿だ。

「たくさんクッキーを食べていましたから、眠たくなってしまったのですね」

「みたいですわね……到著の前に起こしてあげましょう」

「むにゃ……クッキー……」

ウルリカ様の可らしさに、ほんわかと和やかな空気が流れる。そんな中シャルルは、コホンッと咳払いをして話を元に戻す。

「あー……勇者アルテミア様は、千年前に魔王と戦った伝説の勇者様だ。アルテミア正教會の信徒にとって、唯一絶対の信仰対象なのだ。そしてアルテミア正教會の教主となるお方は、アルテミアの名とともに教主の座を引き継ぐしきたりなのだ」

「確か現在の教主様は、第十九代のアルテミア様でしたわよね」

「シャルロット様のおっしゃるとおりです。現在の教主アンナマリア・アルテミア様は、八歳の時に教主の座を引き継いだ、史上最年の教主様であらせられる」

「なるほどねぇ……その教主様に、ナターシャは連れ去られたってことか」

「そうだな……その可能は高い……」

そうしてシャルルの説明が一段落したちょうどその時、進行方向に白い大きな影が姿を現す。

「見えたぞ! あの教會に教主様は滯在されているはずだ!」

「ようやく到著しましたわね、ではこのまま地上に降りますわよ!」

「頼むぞアグニス! あの白い建の近くに降りるんだ!」

目的地を前にして、気合い十分なシャルロット、シャルル、ベッポの三人。一方オリヴィアだけは、ギョッと驚いて目を丸くする。

「えっ!? このまま地上に降りるのですか?」

「もちろんだ! 早くナターシャ嬢を救出しないといけないだろう?」

「シャルルの言う通りですわね! 早く地上に降りて、ナターシャを連れ戻しますわよ!」

「いいぞアグニス! そのまま降りろ!」

「ちょっと待っ──あぁっ」

アグニスは指示された通り、教會へ向かって勢いよく降下していく。オリヴィアは慌てて止めようとしたものの、殘念ながら間にあわず──。

「……なんだ? なにか地上で騒いでいるみたいだぞ?」

「あれはアルテミア正教會の神達ですわ、次々と教會から出てきますわね」

「教會に所屬する魔法使い達も出てきているようだ、こちらに向けて杖を構えて……?」

「……って、ちょっと待て! どうして俺達の方に杖を構えてるんだよ!?」

「マズいですわ! この狀況はどう考えてもマズいですわ!!」

一斉に杖を向けられて、慌てふためくシャルロット、シャルル、ベッポの三人。一方オリヴィアだけは、呆れたように目を細めている。

「あの……ドラゴンに乗っているからではないでしょうか……?」

「「「ドラゴン?」」」

「つまりですね……ドラゴンは兇暴な魔ですよね。そのドラゴンに乗って、私達は教會の近くに降りようとしているのですよね。そんなことをすれば教會の人達は、ドラゴンに襲われると勘違いするに決まってますよね……」

オリヴィアの説明を聞いた三人は、口を開けてポカンと呆けてしまう。かと思いきや、見る間に顔を青ざめさせ、そして──。

「「「しまったーっ!?」」」

王都ロームルスの上空に、うっかりさん達の絶がこだまするのだった。

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