《魔王様は學校にいきたい!》大混

ここはアルテミア正教會、大聖堂の裏手。

人目につかないに、一臺の豪華な馬車が停まっていた。教主専用に作られた特別製の馬車だ。馬車のすぐ傍には二人の神が、真剣な表で立っている。

「それにしても教主様の馬車は立派だよな、流石は特別製の馬車だ」

「とんでもない速度で走れるらしいぞ、それに乗り心地も最高らしい。一度は乗ってみたいよな」

「まあな……しかし俺達のような下位の神では、絶対に乗ることなんて出來ないよな……」

チラリチラリと橫目で馬車を見つつも、二人の神は真剣な表を崩さない。二人とも真面目な神のようだ──かと思いきや。

「……なあ? ちょっとだけ乗ってみないか?」

「おいおい……奇遇だな、実は俺も同じことを思っていた」

どうやら二人とも不真面目な神だったようだ。コソコソと周囲に目を配らせながら、神達は馬車の扉に手をかける。その時──。

「……クオォ……」

「ん? 今の音はなんだ?」

「空に……赤い點?」

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「赤い點……じゃないぞ、あれは!」

「グオォォッ!」

「「ドラゴンだーっ!?」」

不真面目な神二人の元へ、ドラゴンという名の天罰が訪れる。

✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡

時はし遡り、こちらは大聖堂の正面。

次々と飛びう魔法のに、空は眩く埋めつくされていた。絶え間ない閃音の中を、赤い影がグネグネと飛び回っている。レッサードラゴンのアグニスである。

「頑張れアグニス! 頑張るんだ!!」

「グルオォッ! グルオォッ!」

をひねり翼を羽ばたかせ、アグニスは必死で魔法を避け続けている。一方アグニスの背中に乗るシャルロット達は、アグニス以上に必死な狀況だ。

「きゃぁっ! きゃあぁっ!!」

「うおぉっ! うおぉぉっ!!」

「すやぁ……すやぁ……」

「ウルリカ様ー! 起きてくださいよぉー!!」

飛び回るアグニスから振り落とされないよう、全力でアグニスにしがみつかなければならない。

特に必死なのはオリヴィアだ。眠ったままのウルリカ様を抱えながら、死にそうな顔でアグニスにしがみついている。

「ここにいては危険だ! 大聖堂の裏手に回り込もう!」

「分かった! 頼むぞアグニス!」

「待ってくださいですの、大きな魔力をじますわ!」

魔力の気配をじ、シャルロットは慌てて地上へと目を向ける。その目に映ったものは、多重構造の巨大な魔法陣だ。複數人の魔法使いから魔力を注がれ、輝きを増していく魔法陣。そして──。

「「「「「放てぇっ!!」」」」」

魔法使い達のかけ聲にあわせて、巨大な魔力が空へと放たれる。放たれた魔力はの球を形作り、アグニスへと襲いかかる。

「避けろアグニス!」

「グルオォッ!」

の球を回避するため、アグニスは空中で一回転しようとする。

そこで困るのはアグニスの背中にしがみつくシャルロット達だ。空中で一回転するということは、その間シャルロット達は上下逆さまになってしまうからである。

「うおぉぉーっ!?」

「きゃあぁぁーっ!?」

落っこちてしまわないよう、必死でアグニスにしがみつくシャルロット達。

そんな中──。

「ニャォッ!」

「えっ……カーミラちゃん!?」

なんとオリヴィアの服の裾から、吸貓のカーミラがピョンッと飛び出してきたのだ。

「どこに隠れて……それよりも今は出てきちゃダメです!」

「ニャォ?」

「ダメーッ!!」

空中に飛び出したカーミラを、オリヴィアは片手をばして捕まえる。もう片方の手でアグニスの背中にしがみついたまま、強引にカーミラを元へと引き寄せる。

一方アグニスはというと、見事な宙返りで魔法の回避に功していた。そのまま大聖堂の裏手に回り込んだことで、ようやく魔法の雨あられから解放される。

「はぁ……はぁ……死ぬかと思いましたわ……」

「自分も……走馬燈を見た……」

「なんとか逃げ切れたな……しかし悠長にしている時間はないぞ、これからどうする?」

「撤退した方がいいかもしれないな……ん? んん?」

「あらシャルル、突然どうしましたの?」

「いや……ウルリカ嬢はどこへ?」

「ウルリカ様でしたらここに……あれ?」

スッポリと空いた元を見て、キョトンと首を傾げるオリヴィア。先ほどまでウルリカ様を抱えていたはずなのに、気づけば誰も抱えていないのだ。

狀況を飲み込むにつれて、オリヴィアの顔は真っ青に染まっていく。

「大変です! ウルリカ様を落としてしまいました!!」

「「「落とした!?」」」

「私はなんてことを! ウルリカ様を落としてしまうなんて!」

なんとオリヴィアはウルリカ様を落っことしてしまったらしい。カーミラを抱き寄せた時に、ウルリカ様から手を放してしまったのだろう。

顔面蒼白でボロボロと涙を流すオリヴィア。あまりにも想定外の事態に、シャルロットとシャルルも冷靜さを欠いてしまっている。

そんな中ベッポだけは、落ちついた様子で聲をあげる。

「こうなったら俺とアグニスで、ウルリカを回収してくる。三人は教會へり、ナターシャを連れ戻してきてくれ」

「「「なっ!?」」」

「俺とアグニスなら空を飛んでウルリカを探せる、逆にの大きなアグニスは教會の中までれない。つまりこれは適材適所ってわけさ」

「確かにそうかもしれませんわ、でも……っ」

「せっかくここまで來たのですから、ナターシャを連れ戻しましょう。ウルリカのことは俺とアグニスに任せてください。だよなアグニス!」

「グオォォッ!」と激しく咆哮をあげるアグニス、まるで「任せろ」と返事をしているかのようだ。

ズシンッと音を立て地上に降り立つと、背中に乗せていたシャルロット達を地上へと降ろす。

「さあ! 早く行ってください!」

「分かりましたわ! ウルリカを頼みますわよ!」

「もちろんです! ナターシャを頼みましたよ!」

再び空へと飛び立つベッポとアグニス。そして大聖堂へと向かうシャルロット、オリヴィア、シャルルの三人。

果たしてシャルロット達はナターシャを連れ戻せるのだろうか。そしてベッポとアグニスはウルリカ様を回収出來るのだろうか。

大混はまだまだ続く。

✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡

教會裏手に舞い降りる、真紅の巨大なレッサードラゴン。

羽ばたく翼は風を巻きあげ、激しい竜巻を発生させる。に停まっていた豪華な馬車は、木の葉のように吹き飛ばされてしまう。

そしてどこからか聞こえてくる「教主様の馬車ー……」という斷末魔のような聲。

不真面目な神二人に訪れた天罰、それを知る者は誰もいない。

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