《魔王様は學校にいきたい!》崩壊の音
艦首は全損、船は傾き、檣樓は炎に包まれる。いつ火の海に沈むとも知れない、それほどに陸上艦ロイヤルエリッサは損壊していた。
「その場しのぎで構わない、とにかく力を復舊させろ! 船首の消火は後回しだ、先に──」
艦橋は半壊しており、今にも崩れ落ちてしまいそう。しかしハミルカルは艦橋に殘り、命の危険を顧みず指揮を執り続ける。
兵士達もまた逃げようとはせず、船の修繕、消火活に力を盡くす。
「想定を超える損壊だ、魔人の力を見誤ったか……」
対してアブドゥーラは未だ健在、むしろ力を増してすらいた。より激しく、より大きく、その熾烈さは留まるところを知らない。
「だが、例え刺し違えようとも必ず……ん?」
アブドゥーラは火の海にを沈め、上をたわませ、全に猛火を纏う。構えを見るに狙いは明らか、真正面からの突撃であろう。
「マズいぞ、急ぎ旋回だ!」
「ダメです、まだ力が復舊していません!」
「くそっ」
次の瞬間、ロイヤルエリッサは炎に飲まれ──。
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一方そのころ、ロムルス王國、アルテミア正教國、南ディナール王國連合の本陣は ガレウス邪教団の強襲をけていた。
「「「「「ウオオオオッ!!」」」」」
「赤熱魔法……グロリオッサブレイス……! 灼熱魔法……メイプルフレイム……!」
兵士達は元よりクリスティーナまで戦線へ、総力をあげてガレウス邪教団を迎え撃つ。しかし相手は魔、吸鬼、悪魔の大軍勢、圧倒的な量に押されるばかり。
「はぁ……はぁ……、もう……キリがない……」
「……ようやく隙を見せましたね」
「あっ……!?」
戦いの最中どういうわけか、一人の兵士がクリスティーナを襲撃。杖を奪い取った上、組み伏せてきを封じてしまう。
「何を……するの……?」
「クフフッ、ようやく捕らえました」
「その……笑い方……、まさか……魔人……!?」
「おやおや確か、私の魔力はドブ臭いはずでは? どうして私の接近に気づけなかったのでしょう?」
「はぁ……はぁ……くうっ……」
「ははぁ、なるほど隨分とお疲れのようで」
高威力の魔法を連発したことにより、クリスティーナの力は底をついていた。そのためラドックスの接近に気づけず、襲撃への反応が遅れたのである。
「これは大変に好都合です、さて……」
「うっ……」
ラドックスの魔手が迫る、だがもはやクリスティーナに抵抗する力は殘っておらず──。
「クフフッ……をしてエリッサ王を守るとは、いやはや勇敢な王様です」
「くそっ、油斷した……」
「おのれ魔人、父上を解放しろ!」
時を同じくしてラドックスは、ロームルス城、謁見の間でも猛威を振るっていた。悪辣なことにラドックスは、ゼノン王を捕らえて人質にしたのである。
「ですが自分が人質になってしまうとは、まったく間抜けな王様です」
「俺に構うな、早く魔人を始末しろ!」
「しかし父上……っ」
人質をとられている以上、アルフレッドは下手にけない。一方のラドックスは全方位を兵士に囲まれており、こちらも下手にけない。
つまりは完全に膠著狀態、にもかかわらずラドックスはどこか悠長に構えている。
「魔人よ、このままでは埒が明かんぞ」
「ええ、私は一向に構いません。王都ロームルスの陥落を、気長に待つといたします」
「王都の陥落? まさか貴様、王都に何かしたのか!?」
「私は何もしていませんよ、私は……」
「どういう意味だ?」
「ところでパラテノ森林に潛ませていた魔は、王都へなだれ込んでいるしょうか? 潛伏させていた吸鬼達は、町中で暴れ回っているでしょうか?」
「なんだと……!?」
「クフフッ、クフフフフッ……」
戦線は崩壊する間際、王都は陥落の危機に瀕す。
もはや狀況は絶的だ、そして──。
──パキッ──
暗雲を超えた遙か先、月に手が屆きそうな高空。
夜空に走った奇妙な亀裂を、この時はまだ誰も気づいていなかった──。
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