《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》十一話
宿屋に著くと、そこは沢山の人の活気で満ち溢れていた。どうやら宿屋の一階が酒場も兼ねているみたいで、酒盛りをしている席もちらほらある。
「ここが私達の利用している宿屋「賢者の息吹」です」
「賢者の息吹?」
「さっき私達がいた森が「賢者の森」と呼ばれていて、そこから取ってるらしいですよ?」
あの森そんな名前だったのか。何か賢者にまつわる謂れでもあるんだろうか?
「一階は酒場にもなってるんで、ここに泊まると食事はそのまま酒場でとる事が出來るので便利ですよ。特にここのオイ椎茸料理は絶品なんでオススメです!」
「へ、へえ、そうなんだ」
マリーがここに泊まってる理由って、もしかしなくてもそれか?
あれ? でもマリーが森にいた理由って。
「確かマリーは、オイ椎茸をたくさん食べるために森にいたんだよな? でも、ここならそんな事しなくても、オイ椎茸を食べられるんじゃないのか?」
そう、わざわざ森にらなくても、ここならオイ椎茸に困らない筈だ。それなのに何で森の中に? まさか店のオイ椎茸だけじゃ足りないとか言わないよな?
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俺の言いたい事が伝わったのか、マリーが「それはですね」と言って説明を始めた。
「確かに、ここのオイ椎茸料理は絶品です。炒めに揚げ、グラタンやスープ、串焼き等、その幅は多岐に渡ります」
思ったより多いなオイ椎茸料理。てっきり名が一つか二つあるぐらいかと思っていたんだが。
俺がそんな事を考えていると「ですが!」と、やたら気合のったマリーの聲が聞こえてきた。
「人は誰しも思うものです! 採れたてのオイ椎茸を食べたいと!」
いや、多分誰しもは思わないです。
「私だって普通の人間。その思いは持っています。なので、自分でオイ椎茸を採るべく、森にっていた、という訳です」
「いや、だからって、前日から飯抜きで森にらなくても」
あそこにはゴブリンだっていたんだ。下手すると死んでたんじゃ。
「空腹は最高のスパイスです!」
……マリーのこのオイ椎茸にかける熱は一何なんだ?
「ほう、それで朝早くから一人で森に行っていた、と? 今日はギルドで依頼をけようと言っていたにも関わらず、私に何も言わずに? そうかそうか」
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マリーのオイ椎茸談義を聞いていたら、突然後ろからの聲が聞こえてきた。気の所為か、その聲には言いようのない怒気が含まれている気がする。
ふと見ると、マリーの視線が俺の後ろに向いている。その表は、悪戯がバレた子供の様で。
「ね、姉さん。いや、あの、それは誤解というか」
「ほう、誤解? 何が誤解なんだ?」
姉さん? それって確かマリーと一緒にパーティを組んでるっていう、あの姉さん?
後ろを振り返ると、そこには長い金髪と気の強そうな赤い瞳が目を引くが立っていた。
俺よりしだけ低い背丈に、目鼻立ちがはっきりとした顔立ち。スラッと長い手足と、出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいるその姿は、道行く野郎共がつい振り返ってしまいそうな貌を放っていた。
そして腰には、短めの剣――俗にいうショートソードといわれるを差しており、今まで武なんか見る機會がなかった俺としては、そっちも気になってしまう。
「それは、その……つまり」
「つまり?」
お姉さんは怒鳴る訳でも、攻める訳でもなく、ただ淡々とマリーを問い詰めていた。ただ、その聲には「いい訳無用」という言外の圧が含まれている。
いや、これはキツイ。いっそ怒鳴り散らしてくれた方がまだマシですらある。
この空気、マリーは一どうするつもりなのか。
「採れたて焼きたてのオイ椎茸は最高でした!」
あ、開き直った。
「言いたい事はそれだけか?」
そしてこの笑顔である。まさにニッコリ満面の笑み。いや怖っ!
「大変申し訳ありませんでした!」
そして流れるような土下座。ここまで綺麗な土下座は日本人でもなかなか出來ないのではないだろうか?
「……はぁ、もういい。みっともないからやめろ」
「許してくれるの!?」
お姉さんが溜息を吐きながららした言葉に期待の眼差しを向けるマリー。なんというか、マリーに対する認識がしだけ変わった気がする。
「次はないからな」
「は、はい!」
と、お姉さんの許しをもって、このやり取りは収束するみたいだ。良かった……のか?
そんな事を考えていると、お姉さんが今度は俺に視線を向けてきた。
「すまない、挨拶が遅れた。私はマリーの姉のフレイア・アルマークだ。君はマリーの友達か?」
どうやらマリーのお姉さんの名前はフレイアさんというらしい。
「あ、これはどうもご丁寧に。俺の名前は近衛海斗です。マリーとはついさっき知り合ったばかりでして」
「近衛海斗? もしや侍の國の者か?」
「あ、いや。実は俺、記憶喪失なんです。當てもなく賢者の森を彷徨ってた所、偶然マリーと出會いまして」
俺がそう言うと、フレイアさんはし訝し気な表になった。
「記憶喪失? 賢者の森の中で? 失禮だが、それは本當の話なのか?」
あー、やっぱりそうなるよね普通。最初から疑いなく信じてくれる、マリーの方が特殊なんだ。
「ええ、殘念ながら。今の俺は、賢者の森の中で目を覚ます前の記憶が一切無い狀態でして」
「何故賢者の森に?」
「すみません、覚えてなくて」
「名前を憶えているのは?」
「よく分かりません。覚えているのがこの名前なので、これが俺の名前なのかな、と。もしかしたら、本當は全く違う名前の可能もあります」
ふむ、と顎に手を當てて考える仕草をするフレイアさん。不味い、もしかして噓だとバレたか?
「では最後の質問だ。マリーとはどういった経緯で知り合ったのだ?」
「マリーと、ですか? 森の中で気を失ったマリーを見つけて、々話を聞きたいと思って目を覚ますのを待ってました」
「ちょっ、カイトさん!?」
突然慌てた聲を出すマリー。
え? 俺何か変な事でも言ったっけ?
「ほう、森の中で気絶。そうかそうか。時にマリー。お前確か昨日、お腹が減ってないと言って食事をとっていなかったな?」
あ、そういう事か。多分だけど、マリーはこれまでも似たような行を繰り返していたのだろう。で、今回はバレずに済みそうだったのを、俺が馬鹿正直に答えてしまったと。
うん、俺悪くねえなコレ。マリーの自業自得だわ。
「姉さん違うの! これは誤解で!」
「ほう、誤解? 何が誤解なんだ?」
あれデジャヴ?
その後最終的にマリーが開き直り、流れる様な土下座まで、綺麗に再現された。
うん、多分この景は日常茶飯事なんだろうな。
「うぅ、カイトさんのバカ」
「いや、俺は悪くなくない?」
現在、フレイアさんから説教されて疲れ顔のマリーと、同じくマリーを説教して疲れた顔をしているフレイアさんの二人と共に、俺は酒場の一席に座っている。
フレイアさんから、場所を移そうと言われたからだ。
「そうだぞマリー。お前の自業自得だ」
「はい。仰る通りです、お姉さま」
マリー、すっかりキャラが変わってしまって。
「すまない、カイト君。みっともない所を見せてしまったな」
「いえいえ、気にしないで下さいフレイアさん」
「君はマリーの友達だろう? それなら、良かったらフレイアじゃなくて、フーリと呼んでくれないか? 出來れば敬語もやめてしいのだが」
俺がマリーの友達だと判斷したであろうフーリからの提案。これを斷る理由は無い。
「あ、そう? 分かったよ、フーリ。これでいいか?」
「ああ、それでいい。それと、さっきは疑って悪かったな」
あれ? 誤解が(誤解じゃないけど)解けてる?
「俺が記憶喪失だって信じてくれたのか?」
「いや、信じるというより、どうでもいいと言った方が正しいか。もし君が噓を吐いていたとしても、それが悪意ある噓じゃなければ、別段気にする程の事でもない。人には誰しも、話したくない事というものがあるだろうしな」
うわぁ、男前な事を言うな、フーリは。
「何よりも、カイト君の目を見れば分かるさ。君の目は、悪人のそれとは違う。今はそれだけ分かれば充分だ」
目を見ればって、この死んだ魚の様な目(友人談)を?
「あ、それ私も分かる。カイトさんってすごく優しい目をしてるんですよね」
マリーまでもそんな事を言い始めた。いやいや、二人共その目、節じゃない? そんな目してないって俺。
なんか恥ずかしいな。俺がそんな事を考えていると。
「ところで姉さん」
「何だ?」
「カイトさんって十九歳らしいから、姉さんより一つ年上だよ?」
マリーがニヤニヤしながらそう言うと、途端にフーリの表が固まった。一つ上って事は、フーリは十八歳か。
「……え? カイトく……いや、カイトさんは私より年上、なのか?……いや、なのですか?」
そして目に見えて狼狽え始めた。あ、ちょっとマリーと似てる。
「あー、気にしないでいいって。俺別に年齢とか気にしないからさ」
「いや、しかし、そういう訳には」
「いいっていいって。それに、逆に今から敬語使われても気持ち悪いだけだから」
俺がそう言うと、フーリはしばらく考える様に頭を唸らせてから、溜息を吐き、諦めたような表をした。
「分かった。それじゃあこれまで通りでいかせて貰う。ありがとうカイト君」
いえ、お禮を言うのは俺の方です。
フーリはめっちゃ騎士ってイメージがあるから、正直この喋り方を変えてしくなかった。だからお禮を言うのは俺の方なんだよな。
「さあ、折角酒場にったのだ。何か食べようか。適當に頼んでいいか?」
「ああ、俺は構わないぞ」
「私も、姉さんに任せる。あ、オイ椎茸のグラタンだけは頼んでね!」
「分かった分かった。すいませーん!」
「はーい、ただいま!」
店員さんを呼び、注文をするフーリ。窓の外を見ると、既に日は落ち始めている。
今日はこのままこの宿に泊まる事になりそうだけど、宿代っていくらだろう?
そんな事をぼんやりと考えていた。
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