《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》二十話
フーリの時と同じく、ホーンラビットは俺に向かって一直線に飛び掛かってきた。
そのきをしっかりと見て、華麗にかわ……。
「うおっ、と!」
そうとしたが、思ったよりも早く、ステップを踏むつもりが、ぐるぐると奇妙な踴りを踴る羽目になってしまった。
「意外と早いだろう? だが、さっきも言った通り」
俺に喋りかけながらも、態勢を立て直したホーンラビットの攻撃をフーリは難なく躱す。
「きちんと相手のきを見ていれば、自ずとどう躱せばいいか分かってくる筈だ。そら、また來るぞ」
フーリに言われ、俺はホーンラビットのきに意識を集中する。
ホーンラビットの後ろ足が一瞬強く踏み込まれる。をし引き、力を溜める作が分かった。
地面を蹴り、力を一気に開放し、飛び掛かってくる、その瞬間……ここだ!
俺はサイドステップの要領でを左にかす。
すると、今まで俺がいた場所を、ホーンラビットのが通り抜けていった。
「か、躱せた!」
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「よし、いいぞ! 今のじを忘れるな!」
今のじだな。
敵の攻撃をよく見て、攻撃の作にる瞬間には自分も次の作にる。そうすれば余裕をもって躱せる、という事だろう。きっと。多分。
「カイトさん! 今度は今の要領で攻撃もしてみましょう!」
俺が自信なさげにしているのが分かったのか、マリーの自信を持てと言わんばかりの明るい聲が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、ホーンラビットが頭以外全てを水に包まれた狀態で宙に浮いていた。
……はい?
「あの、マリーさん? それは一?」
「あ、これですか? 放っておくとすぐ攻撃してきて面倒なので、きを止めておきました」
えぇ……? さも當たり前の事の様に言うけど、それって簡単なの?
「心配するなカイト君。君も魔法を使えるらしいが、きちんと訓練すれば、あれぐらい出來る様になるさ」
「マジで?」
俺が使える魔法って現狀ファイヤーボールだけなんだけど?
「それじゃあそろそろ放しますよ!」
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おっと、今は目の前のホーンラビットに集中だ。
「ああ、いつでもいいぞ」
棒を構え直し、マリーにホーンラビットの拘束を解いて貰う。俺の戦闘訓練は、まだ始まったばかりだ。
一時間後。
「ふぅ、疲れた」
「お疲れ様です、カイトさん」
俺は地面に大の字で寢転がり、息を整えていた。
あの後、計十匹ほどのホーンラビットが襲ってきたが、訓練がてらその全てを俺が相手した。
最初は攻撃を躱すので一杯だったが、徐々にきに慣れてきて、五匹目を相手にする頃には、攻撃を躱してすぐに反撃に移れるまでになっていた。
やっぱり実戦に勝る訓練はないという事だろう。あくまでも安全マージンを取った上での話だが。
「最後の方は大分様になっていたな。これなら何日か訓練すれば、戦闘の基礎は充分に付く筈だ」
フーリにそう言われると、そうなのかもしれないと思ってしまうから不思議だ。
「そうだといいな。早く二人の役に立てるようになりたいし」
正直そこまでいくのにどのぐらいかかるか分からないけど。
「いやいや、カイトさんは今でも充分私達の助けになってますよ」
「そうだぞカイト君。アイテムボックスを持ってるだけでなく、採取の腕もいい。その上戦闘もこなすとなると、逆に私達が足手纏いになりかねないぞ」
「いやいや、俺なんてまだまだだって」
ストレージは神様から貰ったチートだし、採取だって鑑定があってこそだ。
素のスペックは、いくら若返ったといっても、あくまでただのアラサーの一般人レベル。これじゃあまだまだだと思っても仕方がないだろう。
「向上心が高いんですね、カイトさんは」
「早く一人前になりたいからな。あ、そういえばさっき」
「はい?」
小首を傾げ、キョトンとするマリー。あ、かわいい――じゃなくて。
「さっきホーンラビットを捕まえてたアレなんだけど、あれってなんて魔法?」
「ああ、あれですか? あれは水魔法と風魔法を使って適當に作りましたけど」
「適當に? 作った? え、あれ魔法名とかないの?」
「はい、ありませんけど?」
なんて事だ。すごく難しそうな魔法だったのに、魔法名すらないとは。
「カイトさん。もしかしてですけど……魔法を使う時に、必ず魔法名を唱えないといけない、とか思ってません?」
「え? 違うの?」
まだ一回しか使った事ないけど、違うのか?
「違うという訳ではないんですけど、もしかして知らないのかなって思って」
「何を?」
魔法名を唱える以外に使い方があるとか?
するとマリーは、気まずそうにフーリに視線を向けた。
「カイト君、これは魔法に限った話ではないんだが。魔法を含む、所謂「スキル」というものは、基本的にイメージで使うものなんだ」
はい? イメージ?
「例えば、私は火魔法のスキルを持っているのだが」
そう言うと、フーリは右手を俺達と反対方向に突き出した。
次の瞬間「ボンッ」という音と共に、玉乗り用の玉かと思う程の大きさの火の玉がフーリの右手から放たれ、數メートルぐらい先で弾けて消えた。
って、でかっ!
「こういう風に、頭の中でどう使いたいかをイメージして魔力を込めると、そのイメージのままに使う事が出來る」
ええ!? 今のって、大きさはアレだけどファイヤーボールじゃん! え、何? 要はイメージさえしっかりしてれば、魔法って無詠唱でも使えるって事?
俺がフーリの無詠唱魔法に驚いていると。
「これは魔法に限った話じゃないんです。魔法を含むすべてのスキルは、イメージさえしっかりしていればんな使い方が出來ます。逆にこのイメージがあやふやだと――」
マリーの右手の平に突如水が出現するが、それはゆらゆらとんな形狀に形を変え、イマイチ安定していない。
「まともに発しないし、十全に扱えない、って事か?」
「正解です。さっきも言いましたが、全てのスキルはイメージ次第でんな使い方が出來るんです」
はー、なるほどね。つまり、俺のストレージもイメージ次第でもっといろんな事が出來るって事か。言われてみれば思い當たる節があるな。
俺がしいと思ったは、素材さえあればストレージで作れるようになった。
それはつまり、俺がしいを明確にイメージしていたからに他ならないという事だ。
まあストレージに関してはまだ斷定は出來ないが。
「で、さっきの話に戻りますけど、魔法名を詠唱して魔法を使う。これ自は別に問題ありません。むしろ、魔法名を決めておく事で、イメージを一瞬で固める事が出來るので便利です」
その言葉にほっとをで下ろす。
よかった。別に魔法名を唱えるのは間違いではない様だ。
「ただ、応用というか、必要に応じた魔法を使う場合、無詠唱の方が便利です。そして何よりも、戦闘になった場合は咄嗟にどれだけ早く魔法を出せるかが勝敗を左右したりするので、無詠唱で魔法を使える様になるのはとても重要なんです」
「ああ、それは確かにそうかも。さっきのホーンラビットも、飛び掛かってきた時に狙いを定めて「ファイヤーボール」なんて言ってても遅いもんな」
むしろ唱え終わる前に串刺しになってるだろう。
「いい機會だ。まだ街に戻るにはし早いし、今日ここでスキルの使い方の訓練もしていくか?」
フーリが尋ねてきたが、これを斷る手はないだろう。
「いいね、それ! カイトさん、そうしましょうよ!」
マリーもやる気満々といった様子だ。
スキルの訓練が出來て、ストレージをもっと使いこなせる様になれば、戦闘でも使える様になるかもしれない。
「二人さえよかったら、俺の訓練に付きあってくれないか?」
「もちろん!」
「私に出來る事なら、何でも教えてあげよう」
二人は二つ返事で引きけてくれた。本當に助かるな。
それからしばらくの間、俺は二人にスキルの使い方についてレクチャーしてもらった。
更に二時間後。
「君は不思議な男だな。普通「スキルを使うにはイメージが重要」とか急に言われても、そんなに簡単には出來ないぞ」
「そうなのか?」
俺は拳大の大きさの火の玉を、お手玉代わりにして遊んでいた。
いやあ、イメージが大事って言われてからは簡単だった。
イメージとはつまり想像力。そして妄想力だ。
この世界に転移してくる前は、その手の漫畫や小説をよく読んでいたから、こういう妄想は何度も繰り返していた。そのおかげか、スキルのイメージもしやすい。
「はい、カイトさんはかなり呑み込みが早いです。正直異常なぐらい」
マリーまで褒めてくれた。まさか妄想力で褒められる日がくるとは夢にも思わなかったな。人生何が起こるか分からないものだ。
そんな事を考えながら、俺は俺なりのスキルの訓練を続ける事にした。
そう「俺なりの」だ。
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