《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》二十八話

「明日、賢者の森の調査隊が組まれる事が決定した」

晩飯を食べ終え、ラガーを一息に飲み干したフーリが、そのままの流れで切り出した。

「そう、やっぱり」

マリーも特に驚いた様子じゃないし、予想はしていたんだろう。

俺? そんなの知る訳ないじゃん。組まれるかもって話は聞いてたけど、まさか明日とは思わないじゃん。

「何も無ければすぐに解散になるが、まずそうはならないだろう。恐らくだが、最深部にはかなり強力な魔が住み著いているとみて間違いない。調査結果次第だが、討伐隊も組まれる筈だ」

討伐隊か。それはつまり、個人や一パーティ程度ではどうしようもない強さの魔がいるって事だよな。

……良かった、最深部に転移とかさせられなくて。

もしそんな所に転移してたら、間違いなく詰んでた。

「それじゃあ、私達も招集されるよね」

「そうだな」

……そうか。もし討伐隊が組まれたら、二人も招集されるのか。それはちょっと心配だな。

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「なあ。その招集って斷ったり出來ないのか?」

出來れば二人には、危ない目にあってしくないんだけど。

俺の言葉が予想外だったのか、二人はキョトンとした顔で俺の事を見ている。

「あ、もちろんカイトさんは參加しなくていいんですよ。確かに私達とパーティを組んでますけど、それとこれとは話が違いますし」

「そうだ。もしカイト君がCランク以上の冒険者なら、私達と一緒のパーティとして招集されただろう。だが、流石にギルドもFランクの駆け出し冒険者を參加させたりはしないさ」

そして何を勘違いしたのか、俺が自分の心配をしていると思ったらしい。

いや、気持ちは嬉しいんだけどさ。勘違いしてるよ?

「俺が心配してるのは二人の事だよ。出來れば俺は、二人に危ない目にあってしくはないんだ」

俺が素直に「心配している」と言葉にすると、二人は驚いた様な、なんとも言えない表になってしまった。

「カイト君」

「カイトさん」

しの沈黙の後。

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「大丈夫ですよ。まだ討伐隊が組まれるって決まった訳じゃありませんから。それに、もし討伐隊が組まれたとしても、調査隊の方達が事前にしっかり調査してくれる筈です」

「ああ。それに、この街には幸い拳聖モーヒ殿もおられる事だし、心配は無用だ」

「けん聖!? けん聖って何!?」

え、何? あの人そんな二つ名持ってるの? しかも今のニュアンス。もしかして剣じゃなくて拳?

今までのし重い、けれど決して居心地の悪くない空気が、一瞬にして崩れ去った瞬間だった。

「モーヒ殿のランクは最高位のSランク。間違いなくこの街最強の冒険者だ。噂では、拳一つでドラゴンを倒したとか」

「ドラゴン!? マジで!?」

え、噓やん。ドラゴンって素手で倒せるの? ていうか、この世界ってドラゴンいるの?

「今でこそ、この街で初心者狩りをされてますけど、昔は王都で伝説のパーティ「世紀末」の一員として活されてたんですよ」

……あ、これ多分アレだ。ツッコみ切れないやつ。報量多すぎてどこからツッコめばいいかさえ分からない。

ただ一つ分かる事は、実力は相當なものだという事。

でも、そんなにすごい人がいるなら、確かに心配はなさそうだ。

「まあ、そういう事だ」

「討伐隊が組まれても、カイトさんは安心してこの街で待ってて下さいね!」

二人は俺に心配かけまいと、多話を盛ってくれたんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。そうだと言って!

「分かった。そういう事なら、俺も安心して待ってるよ」

でも、二人がこんなに言うのなら間違いないだろう。気になる事は山の様にあるが、今言うべきではない気がする。ていうか、聞いたら負けな気がする。

「氷炎の姫のお二人も討伐隊に參加するなら、むしろその魔の方がかわいそうな気がしますけどね」

急に後ろから聲が聞こえてきたので振り返ると、そこには仕事をひと段落させたのか、エプロン姿のアミィが立っていた。

今の話、聞いてたのか。

「拳聖モーヒに氷炎の姫。この三人を相手出來る魔なんてそうそういませんよ」

アミィの顔はニヤけており、面白そうな話を見つけた子の顔をしている。

「アミィ、あまりその二つ名を口に出さないでしい。頼むから、氷炎で止めてくれ」

「そうだよ、アミィちゃん! 姫なんて言われると、恥ずかしいんだから!」

フーリはそれほどでもないが、マリーは頬を真っ赤に染め、両目を固く瞑って抗議している。

相當その二つ名が恥ずかしいのだろう。

「まあまあ、いいじゃないですか。それより、そろそろお會計ですよね?」

「ん? ああ、そうだったな。私のせいでし遅くなってしまったし、今日は私が奢ろう。いくらだ?」

そう言って懐から財布を取り出すフーリ。

いやいや、ちょっと待った。

「流石にそれは悪いよ。俺もちゃんと出すからさ」

財布を取り出し、自分の分を払おうとするが、やんわりとフーリに制止されてしまう。

「まあまあカイト君、ここは私の顔を立てると思って」

「いや、そん「カイトさん、ちょっと」――ん?」

俺がなおも食い下がろうとすると、橫からマリーに服の袖を引っ張られ、途中で言葉が途切れてしまった。

「ありがとう、マリー。それで、いくらだ?」

「そうですね。宿代込みで、合計銀貨一枚と大銅貨五枚ですけど……しおまけして、銀貨一枚と大銅貨二枚でいいですよ」

「気前がいいな。銀貨一枚と大銅貨二枚だな……はい、丁度だ」

「ありがとうございます。部屋はそのまま同じ部屋を使って下さいね」

その隙にフーリが支払いを済ませ、アミィはまた接客に戻ってしまった。

「何するんだよマリー」

「カイトさん、姉さんはまだ報酬の事を気にしてるみたいなんで、ここは素直に奢られて下さい」

「え、そうなのか?」

てっきりもう気にしてないと思ったのに。

でも、そうか。そういう事なら、ここは敢えて何も言わない方がいいかもしれない。

「分かった。そういう事なら、ここは素直に奢られておくよ。それでフーリの気が済むならな」

ここで俺が変にお金を出すと、それはそれで面倒な事になりそうだし。

「二人とも、何を話しているんだ? 早く部屋に戻るぞ」

フーリの聲に視線を向けると、フーリは既に二階に向かっている所で、俺達は慌ててその後を追いかけた。

「ごめん姉さん、今行く」

「待ってくれよフーリ」

その後は各自部屋に戻り、俺は初めての冒険の疲れもあり、その日はそのまま泥のように眠ってしまった。

次の日、朝から酒場で軽めの朝飯を食べ、俺達はそのままギルドに向かった。だが、ギルドに著くと、そこには昨日と違い々しい雰囲気が漂っていた。

「諸君。先日から続く、生息地域外での魔の目撃報。その原因は賢者の森にあると思われる。この事態に対応するため、ギルドは諸君に、賢者の森の調査をお願いしたい。異論のある者はいるか?」

ギルドのり口に集まった十五人ほどの職員さんや冒険者。そして彼らの前で喋っているスキンヘッドのガタイのいい、むさ苦しそうなおっさん。

彼らが昨日聞いた調査隊だろうか?

「無ければ早速調査に向かってしい。くれぐれも深りはするなよ。無理もするな。安全を第一に考えろ。以上だ!」

おっさんの聲を合図に、調査隊と思われる人達は街の出り口へと向かって歩き出し、それを見屆けたおっさんは、そのまま冒険者ギルドへとっていった。

「なあマリー、今のおっさん、誰?」

「おっさんって……そういえば、カイトさんはまだ會った事ありませんでしたっけ? あの人はこの冒険者ギルドのギルド長です」

へえ、あのおっさん、ギルド長なのか。確かに、それっぽい貫祿はあったな。

「普段はあまり表に出てこないんですけど、今回の件は流石にギルド長が直接指揮を執るみたいですね」

「今回は事が事だけに、流石にな」

まあ確かに未確認の強力な魔の調査なんて、並大抵の人が指揮を執れる筈もないよな。納得の理由だ

俺達はそのまま調査隊の後姿を見送った後、昨日と同じ様な依頼をけ、俺の戦闘訓練をしながら薬草や解毒草の採取依頼をこなした。

スキルはイメージで使う、という事を意識して、出來るだけ多くのスキルを使う様にしながらの訓練は、大変だったけど有意義なものだった。

それに、魔力というのも、この數日でじ取れるようになっていた。中をとは別のが流れてる様な覚、とでも言えばいいだろうか? こればかりは口で説明しても分かりにくい。

最初は何となく使っていた魔法だが、魔力をじる様になってからは細かい調整もしやすくなった。

その甲斐もあり、一週間も経つ頃には、最初に比べて戦闘も隨分様になってきた様にじる。

それと、報酬に充分余裕があったので、いい加減ポーションの容を揃える事にした。流石に木のコップのまま、というのはあんまりだろうと思ったからだ。

幸いガラスはガンツ武店で取り扱っていたので、いくつか売って貰い、ストレージでガラス瓶を作ってそれに移し替えた。

実に充実した一週間だったと言ってもいいだろう。

「カイト君の長の速さには本當に驚かされたな」

「だね。それにしても、カイトさんって水魔法も使えたんですね。全然知りませんでしたよ」

「ああ、そういえば言ってなかったっけ?」

「言ってませんよ!」

「あはは、ごめんごめん」

と、俺達が他のない會話をしながら、付で依頼達の報告を済ませている時だった。

突然ギルドの扉が「バァン!」という大きな音をたてて開き、そこにまみれの男が倒れ込んできた。

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