「すげぇ目立つやつが來たなぁ」

後ろから低くドスの聞いた聲をかけられ、恐る恐る振り向くと、そこには――

ゴブリン？　いや、それよりも大きく見える、トロルを思わせる軀たいくの怪が立っていた。

は緑ではなく、どちらかと言えば緑寄りの淺黒さ。服は腰回りに獣の皮のようなものを巻いているだけ、上半はだ。

手には、あの有名な棒。

わぁ、あれが伝説に聞く棒なのね。初めて見た！　ふと～い！　でか～い！

…………現実が湧かなくて一瞬そんなことを考えたが、三歩ほど詰め寄られると、瞬時に思考が戻ってくる。

あ、これ死んだわ。第二の人生はここで終了ゲームオーバーだ……

「お前、人間みたいでうまそうだな。しかも子どもか。子どものはやわらかくてうまいだよ。子どもは魔界にはあんま來ねぇから貴重なんだよな～」

私は、今目前に迫っている死を自分のこととしてじていなかった。

死を目前にしても、俯瞰ふかんでいられるのはブラック企業で働いていた賜たまものだろうか？

恐怖は……しだけあるけど、まあ、もう々諦めてるのかもしれないな……

第三の人生に期待しよう！　出來ることなら痛くないように殺してください！　第二の人生始まったばかりだけど、さようなら！

「じゃあ、いただきまぁ～す！！」

勢いよく手にした棒が振りかざされ、そして降り降ろされる。

「わぁ！！」

死を覚悟しても、やっぱり死ぬのは恐い。反的にを屈めて防衛姿勢を取っていた。

ガギォンッ！！

聞いたことのない轟音が響いた。

一発でかぬ死になるかと思いきや、何も痛くない。

「くそっ！　な、なんだこのガキ！！　なんで攻げきが當たらねんだ！」

えっ？　當たらない？

音もしてるし、當たってるはあるんだけど、痛くはないな。

起き上がってみると、棒はには當たっているが、ダメージが全く無い。

タコ毆りにされてる最中だけど、試しにその場で素早くバンザイしてみた。

ビクッ

私の突然の予想外のきにトロルらしき怪がじろいだ。

ああ、なるほど……このって凄く頑丈なんだ。

そりゃまあ、 （推定）二時間も落下してきて地面に激突して、地面は凄くえぐれたのに、私無傷だったもんな。

二時間も落下してたから、重四十キログラムなら終端速度百四十キロメートルくらいで激突したことになるのにな～。

ものっすごい頑丈！

神様、こんなに産んで（転生させて）くれてありがとう！

トロルに向かってちょっといてみる。

「ひぃ！！」

おどかしたつもりもないけど、凄い速さで後ずさられた。

まあ、自分の方が巨で、明らかに目の前の相手より強いであろう自分の攻撃を、どう見ても弱々しいに鉄壁で、しかも無傷で防がれたら不気味よね。

もしかして、魔法とかも出せるかしら？

人間時代には魔法なんか當然使えなかったから、魔力コントロールとかよくわからない。

気をコントロールできる人は、中國とかに多そうなイメージだけど。

とりあえず、手をかざして魔力を放出しようと試みる。

イマイチイメージ沸かないな……

あ、そうだ、気と言えば、日本人の多くが知り、世界的にも有名なあのポーズをしてみたら放出するイメージが出せるかも！

「つ～る～か～め～…………」

その掛け聲と共に手の平にが集まる。

「波～～～！！」

イメージ通りに巨大なエネルギーが手の平から放たれた！！！

放出するにはピッタリのイメージだったみたいだ！

「ヤバッ！」

咄嗟とっさに腕をかして、魔力の方向を曲げるが時すでに遅し……

トロルの右上半と顔の四分の一が吹っ飛んだ！

ああ……トロルの上半に當たっちゃった。

死亡確認！！

これやべぇ……本當に出るとは思わなかった。が集まった時點で留めておくべきだった……今後は無闇やたらに使わないようにしよう。

もうちょっと威力低めの魔法の練習をしておかないと、モンスターに遭ったそばから死の山が築かれてしまう。

ここまでで確認出來たことが三つある。

一つ目、私は多分天使と悪魔が混ざったようなものに転生している。心は人間を引き継いでいて、は天使＋悪魔。見た目から判斷すると多分天使の方がベースっぽい。

二つ目、このは凄く頑丈に出來ている。

三つ目、この世界では魔法が使える、しかも私の魔力の強さは半端じゃない……と思う。

「これ、きっとかなりのチート能ね」

一応、死に戻りみたいな痛い目に遭う可能は低そうだ。刀すら刺さりそうもない頑丈なだ。遙か上空から落下してきて無傷だったことを考えると、多分銃で撃たれても傷すらつかないと思う。

ここの環境は見るからに過酷そうだけど……生きていくのに、このならきっと大丈夫だろう。

「そういえば、さっきこのトロル、『魔界』って言ってたような……」

魔界？　地獄じゃないのかしら？

多分、私が死んだのは紛れもない事実だと思う。そうでなければ昨日と顔や型が違うことが説明付かない。

何よりも人間に羽やツノは付いてない。

落とされてきた場所が、地獄かと思ってたけどどうやら地獄ではないらしい。

もしかして、地獄行きにならなかったから、閻魔様の判決をすっ飛ばされたのかな？

でも、地獄行きじゃなくて、魔界行きの人間って他にもいるの？　そもそも魔界に送られる人間ってどんな人間？

私の天國・地獄のイメージはこんなじなんだけど……

天國　→　善人

地獄　→　悪人

じゃあ、魔界はなに？

魔界　→　？

“魔”界って言葉の響きから、どちらかと言えば悪人っぽいイメージだけど……

もしくは地獄に行くまでの途中が魔界とか？　そうすると私はこの後地獄行きになるわけか……それはわざわざ自分の足で歩いて行きたくはないな……

疑問は出てくるものの、今これを考えていても答えは出ない。

「お腹空いたな……とりあえず何か食べたいけど――」

周囲を見回したところで、食べになりそうなものは皆無。

真っ暗でよく見えない。赤い薄明かりだけで、辛うじて壁があることくらいはわかる。

「ゲームではモンスターを食べたりするけど、今倒したアイツは……」

倒したトロルの方をチラっと見る。

人みたいな見た目だし、人語話してるし、知的生命は流石に遠慮したい。

とりあえずここから歩いてみて、木の実とか果実とかそんなのがあれば取って食べることにしよう。

最終手段は獣みたいなやつかな……狩ったこともないから食べられるように加工するまでが大変かもだけど……

再度言うけど、今倒したトロルについては、食べる選択肢には絶対にらない。

あ、そうだ魔法使えるならこういうのはどうだろう。

例えば……『エナジードレイン』。弱化も出來て、自分も回復できて一石二鳥じゃないかな？

試しにトロルの死に向かって、かけてみる。ほとんど、力減ってないから実がわからないけど、ちょっと気持ち程度回復した……気がする。

あとは……『スキルドレイン』とか『パワードレイン』とか。

この辺使えれば、魔界で夢のスローライフも実現できるかも！

「魔力で千里眼的な能力って使えるかな？　ちょっと試してみるか」

あの事故で親友がどうなったか気になって夜も眠れなさそうだし。

地球を見るイメージで。

アイの家を探す……地球を上から見下ろす。

神の視點ってこんなじかな？

何かこれインターネットで見られるＧｏｏｏｏｇｌｅゴーーグルマップみたいね。

「あった、アイの家」

………………

ああ……仏壇に彼の影ってことは……

「ああぁぁ……やっぱり死んでた……私を庇って……」

しばらくその場で泣き崩れる。

「……ごめん……ごめん…………」

◇

十分くらい傷に浸っていただろうか……

しして気付く。

私も同じ狀況だ……！！！

ちょっと軽いじもするけど、自分も同じ狀況だと考えたら、悲しさも半減してしまった。

私も死んでしまったけど、最後に庇ってくれてありがとう。

「またどこかで會えるのを楽しみにしてるよ、生まれてすぐの付き合いだったから二十七年間ありがとう……」

せめてご冥福をお祈りします……私も死んでるけど……

多分普通の人間には過酷なので、魔界や地獄こっちには來ないでください。

あ、一応さっき殺してしまったトロルにも祈っとくか。仏してください。

もう魔界ここにいる時點で冥福でも何でもないけど。

ホントの種族名とかはわからないけど、ゴブリンよりトロルっぽいし今後もこんなじの亜人に遭遇するかもしれないし、私の中では引き続き仮にトロルと呼んでおこう。

「ふぅ……しかし、ホントここ暑いわね……」

気溫は三十六度くらいかしら、猛暑日くらいの暑さがある。

空は真っ暗、両橫は巖壁で、巖壁の向こうから赤が見える。多分火が燃えてるんだと思う。

私が立っている前と後ろに道があるけど、どちらも遠くまで続いているみたいだ。

「さてどっちに行こう……」

考えてても仕方がないので、トロルの死がある方向とは逆の方向に向かうことにした。

【2021/10/06追記】

25萬km、やはり間違ってるとの指摘いただきました。

現在は終端速度140kmに訂正してあります。

【2021/07/23】

『2時間の落下が25萬kmになる』というのがちょっと自信が無いので、理に詳しい方間違ってたら指摘していただけるとありがたいですm(__)m

ただ、彼が意識を取り戻したところから2時間落下しているので、本當は何時間落下してきているかわかりませんが……

次回は7月24日の夜頃の投稿を予定しています。

第3話【vsケルベロス】