《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》6話 快復 【イザベラ八歳】

フレッドの母親の病気について調べ始めて、四か月が経過した。

私が例の予知夢を見てから數えると、ちょうど一年ほどだ。

今の私は八歳になっている。

「イザベラ、話とはなんだね? 何もこんなところでなくてもいいと思うのだが……。もっと相応しい場所もあるだろう?」

目の前にいる男はアディントン侯爵家の當主であり、私の父親でもあるアルフォンス・アディントンだ。

立派な口ひげを蓄えており、格もいい。

顔立ちは整っているものの、厳めしさの方が先に出てしまうタイプの人間だ。

「申し訳ありません。ですが、これはカティ様のご病気に関することですので……」

私はそう言う。

カティとは、フレッドの母親のことだ。

私の父アルフォンスの側室でもある。

私との繋がりはないが、一応は義理の母親という関係だ。

ここは彼の寢室。

この一年で病狀が進行した彼は、寢たきり狀態となっている。

今もベッドで苦しそうに寢ている。

「……イザベラ。以前にも説明したが、カティは【魔乏病】だ。治療法など存在しない。仮に奇跡的に治ったとしても、再発するだけだ。だから、諦めなさい。お前がこれ以上無理をする必要は……」

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「お言葉ですが、お父様。私は自分の目で確かめるまで納得できません。それに、この話は私だけの問題ではありません。フレッドやカティ様にも関わる重要なことですので」

「…………」

私の言葉に、父は押し黙る。

私には分かっている。

父が、私のを案じて言っているのだということが。

でも、このままでは駄目なのだ。

私はこの世界に來て、々なことを知った。

だからこそ、今の狀況を変えなければならないと思っている。

しなければならない。

「父上。僕と姉上で、魔乏病に効くはずの薬を作ったのです。一度試していただきたいのです」

父の無言の圧力に負けず、フレッドが頭を下げる。

「……イザベラとフレッドが最近仲良くなって喜ばしいとは思っていた。カティの病名を聞いてきたことについては、ただの興味本位だと思っていた。まさか、自分達で治療法を考えるとは……。正直、驚いたよ」

父は驚きと喜びがり混じったような表を浮かべている。

「では……!」

「お前達の気持ちは嬉しいのだが、現実はそう甘くない。子供が考えたポーションで治るほど、魔乏病は簡単な病気ではないのだよ」

父は難しい顔をする。

やはり、ダメか。

だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「ですが、お父様。私はこの一年で、様々なポーションを作って參りました。街の商會に卸しているのもご存知のはずです。子供のおままごとのように思われるのは心外です」

「しかし、さすがに魔乏病はな……」

「父上、僕からもお願いします。分から考えて、なくとも毒にはなりません。効果の程については実際に飲んでみなければ分かりませんが、毒でないことは保証いたします。どうか、一度だけでも試していただけないでしょうか?」

「フレッドまで……」

私とフレッドの説得をけ、父が一考する素振りを見せる。

そんな中、ベッドで苦しそうに寢ていたカティさんが目を覚ました。

「……ふふ。よろしいではありませんか」

「カティ、起きても大丈夫なのか?」

「えぇ、今日はしだけ調がいいようです。そのポーションを飲むぐらいはできますよ」

「だが、お前のに何かあったら……」

「あなた。フレッドが一生懸命作ってくれたでしょう? 信じてあげたいじゃないですか。それに……ふふ。まさかイザベラさんがフレッドとそんなに仲良くなっていたなんて。母としては、ちょっと嫉妬しちゃいますね」

カティさんはそう言って笑う。

「……分かった。試しに飲んでみるぐらいは許そう。ただし、最後に主治醫の判斷を仰ぐ。それからだぞ」

「ありがとうございます! お父様!」

「ありがとうございます!!」

私とフレッドは同時に頭を下げた。

その後、主治醫が部屋にやって來た。

私とフレッドで原材料や調合法などを説明する。

「なんと……。そのような組み合わせが……。さほど貴重な材料は使っていないにも関わらず、お互いの効能が高めあって……」

主治醫が嘆の聲をらす。

「どうなのだ? やはり危険か?」

「いえ、危険はないように思います。それどころか、確かにこれなら試す価値はあるでしょう。いやはや、イザベラ様とフレッド様はとんでもなく優秀であらせられる。わずか八歳と七歳でこれほどの知識と発想力をにつけるとは。この老骨、恐れりました」

主治醫が頭を下げる。

「お前がそこまで言うとはな。分かった。飲ませてやってもいいだろう」

お父様がそう許可を出す。

フレッドがカティさんにポーションを差し出す。

「母上、これを。ゆっくり、しずつ飲んでください」

「はい、わかりました。……ゴクッ。…………んっ!?」

カティさんがポーションを飲み干す。

すると、彼の顔に生気が戻ったように見えた。

「これは……。が熱く……。なんだか力が湧いてきますわ。気分もよくなってきたようにじます」

「本當か!? カティ!」

「えぇ、噓偽りなく。イザベラさんとフレッドのおかげですね。二人とも本當にすごい子達です」

「良かった……!」

父がカティを優しく抱きしめる。

「やりましたね、姉上!」

フレッドが嬉しさを隠さず、私の手を握ってくる。

「ええ、功して良かったわ」

私は笑顔で返す。

『ドララ』の知識をフル員した上で、この四か月間試行錯誤してきた甲斐があった。

「イザベラ、フレッド。お前達のおかげだ。よく頑張ってくれた。禮を言う」

「本當に……。よくできた子供達です。おかげさまで、すっかり元気になりましたよ」

お父様とカティさんがそう言う。

「ほほ。主治醫の私としても、カティ様の容態が改善したのは喜ばしい限りです。しかし念のため、あと一週間は様子を見ましょう。調に変化がなければ、ポーションの効果が出たと判斷して良いと思います」

「うむ、そうだな。よし、では油斷なく経過観察を頼むぞ」

お父様がそう締めくくる。

こうして、フレッドの母親であるカティさんの難病は劇的に改善したのだった。

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