《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》20話 オスカー・シルフォード

「ふふ。私のおいをけていただき、ありがとうございます。イザベラ殿」

「いえ……」

オスカーが微笑む。

私は、彼からのいをけることにしたのだ。

これがそこらの貴族からのおいであれば、斷ることも可能だ。

侯爵家令嬢である私はかなり分が高い方だしね。

斷りづらい相手としては、侯爵家よりも分が高い者。

つまり、王族や公爵家あたりだね。

後、家格の面以外でも斷りづらい要素はある。

「これほどしく會場を彩られるなんて。シルフォード伯爵家の氷魔法は素晴らしいですね」

今回のパーティの主催はシルフォード伯爵家だ。

氷魔法に高い適を持つ家系である彼らは、パーティ會場に見事な氷細工を飾っていた。

彼らはアディントン侯爵家よりも家格が下ではあるが、さすがに主催の者を立てないわけにはいかない。

彼からのいを無下にすると、シルフォード伯爵家の顔に泥を塗ることになる。

アディントン侯爵家とシルフォード伯爵家の関係の悪化に繋がりかねない。

「はははっ。お褒めに預かり栄です。氷魔法も得意ではありますが、他の魔法も使えるようになれたらと思っていますよ。せっかく魔力があるのですから」

オスカー・シルフォード。

彼は伯爵家の跡取り息子であり、氷魔法士として高い実力を持つ。

「では、私と一曲踴ってくださいませ。イザベラ殿」

彼は微笑みながら、私に向かって手を差し出した。

その笑顔を見て、一瞬、脳裏にフラッシュバックする映像があった。

それは、彼が冷たく濁った目で私を見下し、氷魔法で私を拘束したシーンだった。

「どうかされましたか?」

「い、いえ。何でもありませんわ。踴りましょう、シルフォード様」

私はハッと我に返る。

そうだ。

この世界は『ドララ』に準拠しているが、全てが丸っ切り同じというわけではない。

あんなバッドエンドは繰り返さないはずだ。

いや、何としても繰り返させない。

私は自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、オスカーの手を取った。

冷たく儚げな印象を與える外見とは異なり、しっかりと握られたオスカーの手にドキリとする。

そんな私の揺に気付くことなく、彼は優雅にステップを踏み始めた。

オスカーのリードは巧みで、ダンス初心者の私でも何とかついていけた。

アディントン侯爵家でもダンスの稽古はあったけど、ポーションの作や畑仕事を優先して、し蔑ろにしてしまっていたんだよね。

「お上手です、イザベラ殿」

「ありがとうございます、シルフォード様も素敵ですよ」

私達は互いに社辭令をわし合う。

「ふふ。こうして一緒に踴るのは初めてなのに、以前から知っていたような気がします」

「まあ、奇遇ですわね。実は私も同じことを思っていたところです」

「これは運命でしょうか? イザベラ殿」

「え? ……そうかもしれませんね」

私が肯定の言葉を口にすると、オスカーはさらに笑みを深めて言った。

「イザベラ殿。私は貴方に興味があります。よろしければ、二人きりになれる場所へ參りませんか?」

會場の外へとわれる。

二人きりになって大丈夫だろうか。

誰かに見られて誤解されたりしないかな。

でも、斷るのもそれはそれで難しい。

しだけなら……」

私はオスカーにそう返答し、彼に連れられて歩き始めたのだった。

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