《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》27話 オスカーの果
私がシルフォード伯爵領の視察を行ってから、二か月ほどが経過した。
その間、特に大きな問題もなく平和に過ごすことができていた。
夏も終わりゆくが、今年はまだし暑い。
私とフレッドも、汗を流しながら畑仕事や稽古に勵んでいた。
そんなある日のこと。
「イザベラ殿。お久しぶりです」
「あらあら、オスカーさんではありませんか。アディントン侯爵領へようこそ。しかし、予定よりもずいぶんとお早い到著ですね」
オスカー・シルフォードがアディントン侯爵領にやって來た。
元々、アディントン侯爵家とシルフォード伯爵家に深い流はない。
せいぜい、互いの夜會に出席する程度だろうか。
私は二か月前にシルフォード伯爵領を視察したが、あれはあくまで例外的なことだ。
「イザベラ殿にお會いするのが楽しみで、つい急いで來てしまいました」
オスカーが照れたように笑う。
「まあまあ、それは嬉しいことを言ってくださいますね」
社辭令だと分かっていても、やはり悪い気はしない。
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「それで、本日はどのような用件でしょうか? お手紙では何も仰っていなかったと思うのですが……」
「ええ、今回はとっておきの果をお見せしたいと思っています。きっと、喜んでもらえるでしょう」
自信満々といった様子だ。
一どんな果だろう?
「まずはこちらを! シルフォード伯爵領で収穫した新鮮な作です。イザベラ殿に進呈致します」
「ありがとうございます。ですが、新鮮? このアディントン侯爵領まで持ってくるのには時間が掛かると思いますが……。あら、これは氷を……?」
「その通りです。魔法で生した氷を利用し、作を新鮮に保つ技を開発したのです!」
オスカーがを張る。
「これは素晴らしいです。オスカーさんの果というのは、これですか」
「ふふふ。これはまだ序の口ですよ」
「まあ。他にもありますのね。気になりますわ」
「では、早速お見せしましょう。……これです!」
彼がお付きの者に指示して運ばせたのは、中型のだった。
縦橫高さがそれぞれ數十センチぐらいだろうか。
「これはいったい何なのですか?」
「ふっふっふ。聞いて驚いてください。これは、例のカキ氷を風魔法無しで作り出す裝置です!」
オスカーが得意げにを張る。
「おおっ! それはすごいです!!」
私はテンションが上がる。
オスカーが言うことが本當なら、これからは風魔法無しでもカキ氷を食べられるじゃないか。
「さすがはオスカー様ですわ。……ところで、どうやってかすのですか? まさか、魔法でかしているわけではないですよね?」
カキ氷を作るためには、氷を削るための刃が必要だ。
そして、その刃をかすための力が必要になる。
「もちろん魔法は使っていませんよ。領民でも使えるようにしないと、普及させる意味がないじゃないですか」
「な、なるほど。確かにそうですわね」
オスカーは魔法を使わずに、この機械をかせるということなのだろうか。
「それについては問題ありません。ほら、ここにレバーがあるでしょう。これをグルグルとかせばいいんです」
オスカーが実演してくれる。
彼は手慣れたじで、レバーを作した。
すると、ガガガッと音を立てて、小さなから氷の粒が出てくるではないか。
「すごい! 削られた氷が出ています!」
思わず歓聲を上げてしまう。
「そう、これがカキ氷の新しい作り方です! どうです? すごい発明だと思いませんか!?」
「はい! すごいです!! オスカーさんは天才です!!!」
興した私は、オスカーの手を握ってブンブンと上下に振った。
「そ、そんなに褒められると照れちゃいますね。あっははは……」
オスカーが頬を掻く。
「あ、申し訳ございません。私とした事が……」
「いえ、大丈夫です。むしろ、もっと褒めてくれても構いませんよ。私がこれの開発に邁進したのは、シルフォード伯爵領の未來のためですが……。イザベラ殿の笑顔が見られるならば、それ以上に嬉しいことはありませんから」
「まあまあまあまあ!」
私はオスカーの言葉を聞いて赤面する。
「こ、これでシルフォード伯爵領の経営は改善の兆しを見せるでしょう。もう私にを囁いたりせずとも、よろしくってよ?」
私は照れ隠しのために、わざとらしくツンデレ口調になる。
「ああ、それは違います。誤解を解くために、今一度伝えておきましょうか」
オスカーは姿勢を正し、真剣な表でこちらを向き直る。
「この私、オスカー・シルフォードは、イザベラ・アディントン殿を心の底からしています。數々の良質なポーションを生み出し、さらには氷魔法の新たな道を示してくれました。あなたほど立派で魅力的なを、私は知りません」
「あ、ありがとうございます」
オスカーの真摯な態度に、私は揺してしまう。
「しかし、それと同時に私は心配もしているのです」
「心配?」
「ええ。それほどの能力がありながら、あなたはどこか人と距離を置いている。まるで、自分が將來破滅してしまうことを恐れているかのように」
オスカーは私の瞳をじっと見つめてくる。
「あなたの優しさと謙虛さはとても徳だと思います。ですが、度を過ぎると、いずれ大きな過ちを犯してしまいかねない。だから、私は思うのです。あなたの隣で、あなたを守りたい。あなたと一緒に、未來を築いていきたいと。それが、私にとっての幸せです」
「…………」
オスカーの告白に、私は言葉を失う。
正直、ここまでストレートに好意をぶつけられるとは思っていなかった。
「……ふふっ。なんて顔をしているんですか」
オスカーは微笑むと、優しい眼差しを向けてきた。
「今すぐに答えをくれとは言いません。とある報筋によりますと、王家やレッドバース子爵家からも婚約の打診があったとか。騙し討ちのような形であなたのを勝ち取ることができるとは思っていません」
「…………」
「ですが、覚えておいてください。私は本気です。來年度に學することになる王立學園でさらに見聞を広め、氷魔法の腕も上げます。そして、必ずや、あなたを振り向かせてみせますからね。覚悟しておいて下さい」
オスカーはウィンクをしてみせる。
「うぐぅ……。わ、分かりましたわ」
改めて見ても、かなりのイケメンだ。
破壊力がある。
私はを押さえつつ、オスカーの顔を見上げる。
「來年度、王立學園でお會いしましょう。……最初は級友として」
オスカーは最後にそう付け加えた。
「……はい。楽しみにしております」
私はかろうじてそう答える。
こうして、私はオスカーに狙われるとなってしまったのだった。
小説家の作詞
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