《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》28話 旅立ち【イザベラ十三歳】

オスカーがカキ氷機を持ってきて半年以上が経過した。

今年度で、とうとう私も十三歳。

つまり、王立學園に通う年齢となった。

「ううっ! 姉上、お気をつけて……」

義弟のフレッドが、玄関まで見送りに來てくれた。

相変わらず背が低い。

だが、去年よりも長はびたようだ。

それに、顔つきや聲にもしだけ大人びた印象をける。

「フレッド、いい子にして待っていてね。帰ってきたら、一緒に遊んであげるから」

私は、泣きそうな顔のフレッドの頭をでる。

王立學園は王都にある。

ここアディントン侯爵領から馬車で一週間以上掛かる距離だ。

頻繁に帰省することは難しいが、夏休みや冬休みに帰省することはできる。

「僕を子供扱いしないでくださいよ!」

フレッドはムッとした様子で言う。

「ごめんなさい。でも、心配なのよ。フレッドはまだ小さいんだもの」

私は苦笑しつつ、フレッドを抱きしめる。

「心配なのは姉上ですよ。本當に一人で大丈夫ですか? もし何かあった時は、僕のところへ逃げてきてもいいんですよ?」

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フレッドは心配だ。

「もう。私は大丈夫よ。そんなに心配なら、あなたもついてくる?」

「ぜひそうしたいところですが、僕は來年の學に向けて、まだ學ぶことがたくさんありますから」

「あら、殘念」

私はフレッドを解放する。

「じゃあ、行ってきます」

「はい。行ってらっしゃいませ」

フレッドは深々と頭を下げる。

私はフレッドに手を振ると、屋敷を後にしたのだった。

**********

「いい天気だなぁ」

私は空を見上げて呟く。

雲一つない快晴である。

私は馬車にゆったりと揺られている。

王都への道のりは、もちろん私一人ではなく、お付きの者と共にである。

「今日は絶好の旅立ち日和ですね。お嬢様の門出に相応しいお天気です」

者の男が朗らかに言う。

「そうね。ありがとう。馬車の縦も安定していて乗り心地がいいわ」

「恐です」

「……ところで、今日の道程は順調なのかしら? あとどれくらいで到著する予定か分かる?」

私は男に聲をかける。

「順調に行けば、晝過ぎには中継地に到著する予定です。魔獣や盜賊もまずいないでしょう。安全第一で參りますので、どうぞご安心を」

は自信たっぷりに答えた。

者以外に護衛兵も乗り込んでいるし、多の魔獣や盜賊ぐらいならどうとでもなる。

そもそも、アディントン侯爵領と王都を結ぶ街道の周辺の安全はきちんと確保されているし、心配は無用だ。

「そう。頼んだわよ」

「はい。お任せ下さい」

私は窓の外の景を眺める。

どこまでも続く田園風景が広がっている。

この辺りはアディントン侯爵領の領都から離れており、大きな街はない。

それでも、街道沿いに小さな村がいくつかある。

晝過ぎに、私達はその中の一つの村に立ち寄った。

「おお、これはこれは。アディントン侯爵家の皆様。ようこそ、おいでくださった」

村長が出迎えてくれる。

「こんにちは。突然押しかけてごめんなさいね」

「いえいえ。とんでもないことでございます。何もないところではございますが、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」

「ありがとう」

馬車でゆっくり揺られていた私と違い、者や護衛兵達は疲れているだろう。

馬も同様だ。

この村に立ち寄ったのは、彼らの休息のためである。

彼らが思い思いに羽をばしている時だった。

「おいっ!? どうしたんだ!?」

「いったい何があったんだ!」

何やら、村の口の方が騒がしい。

「大変です! ゴブリンの大群が現れました!」

村人の一人が、相を変えて走ってきた。

「なんだって!? それは本當か!?」

村長がぶ。

「はい。間違いありません。すでに數匹のゴブリンは我々のすぐ近くまでやって來ていまして……」

「なんということだ……。よりによって、アディントン侯爵家の皆様が來られている時に……」

村長は顔面蒼白になる。

「逆じゃないかな? むしろ、私がいる時でよかったよ。この村だけだと対処できないかもしれないけど、私達なら何とかできると思うよ」

私は気負うことなく言った。

「それは確かに仰る通りですが……。しかし、あなた方は長い旅路の途中でしょう? もし護衛の方々がお怪我をして、それがイザベラ様の安全を脅かすことに繋がってしまえば……」

村長は言い淀む。

この後の道中で侯爵家の娘が死んだりすれば、遡ってこの村の責任を問われかねない。

最悪、村人全員が死罪とか。

彼が心配しているのはそこだろう。

それに比べれば、私がいない時にゴブリンが出てくる方がマシかもしれない。

戦闘で犠牲者が出るだろうけど、村がまるごと全滅したりはさすがにないからね。

「それにしても、ゴブリンの大群は珍しいね。普通は滅多に見ないよね?」

「そうなんです。ここ最近は特に目撃報もなくて、全くなかったはずなんですよ。ですので、我々も油斷していたといいますか」

「まあ、そんなことはいいじゃない。とにかく、今すぐに出発しよう。早くしないと、大変なことになるよ」

私は一人で村から出ようとする。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。イザベラ様に何かあれば、私共は……」

「大丈夫だよ。私は、ゴブリンなんかに後れを取ることはないよ」

私は振り向いて答える。

「……であれば、せめて村の男を同行させてください! 戦闘の心得を持つ者はないですが、の壁くらいにはなりましょう!」

「んー。分かった。じゃあ、お願いするよ。後、疲れているところ悪いけど、あなた達も來てくれるかな?」

「はっ! イザベラお嬢様のご安全は、この私が命に代えても守り通しますのでご安心を」

護衛兵の隊長がを張って言う。

「うん。よろしくね」

こうして、私は護衛兵や村の男達と共に、ゴブリン退治へ向かうことになったのだった。

自分から危険に突っ込んでいるような気もするけど、これも貴族の責務の一つだ。

さくっと倒して、今日はぐっすり寢ようかな。

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