になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。》#30

深夜、夜の帳が深まり闇のがうごめく時、私達は一つの店に集まってた。カランカランと言う鐘の音が響き、中に居る人々がこちらを振り向く。

「遅かったな」

そういうのはオラルド様。この人はここに居て良いのだろうか? 私が懐疑的な視線を向けると「ゔっ」といて半歩下がる。

「あの人が々と話してきてうざかったから」

「そうか……ご苦労だな」

そういうオラルド様は何故か顔が赤い。やっぱりこの人、追い出した方が良いんじゃない。信じられないが、この人はアイツ「ラーゼ」に惚れてる。確かにアレは見た目はとびきりだ。いちいちハッとするほどの輝きを放ってる。種族の差を越えてまで屈服させる程の普段から煩いくらいだけど、実際それを否定出來ないのは確か。

人種なんて、私達獣人種からしたら殺風景で個のない奴らでしか無い。だって全て同じに見える。変わらない顔の形に、変わらない耳や鼻。私達は獣人種と言っても更に細分化してる。それぞれに姿形は全然違う。鼻も耳も、それこそ人寄りと獣寄りで全く違う。なのに人種ときたら何処が違うのか……全員クローンなんじゃないかと思うほどだ。

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けど……あれは違う。一目見ただけで忘れられない姿してた。最初見た時は悪魔かと思ったけど、近くで見ると後してるようにも見えた。そんな自分に嫌悪した。だってアレは仇だ。アレのせいで私の親は死んだ。

私、ウサギっ子とか呼ばれてるけど本名は『ティル』。けど誰もアレに本名を教えてはいない。「ご自由にお呼びください」とあの屋敷の使用人はアレにいったからだ。誰も名前を明かさないのは恨みも勿論あるが、名前が私たちにとっては重要だから。けど今のご主人はアレ。アレに本名を明かせと言われれは斷る事は出來なかった。でもアレはそれをすることは無かった。

自分の為にはなんだってやるんだけど、それを支える周囲には興味がない――そんなじ。だから皆真名を明かさずに済んだのは僥倖だった。私の名前は親と前の主人がつけてくれたもの。アレに気安く呼ばれては敵わない。

二年前のあの日、奉公してた屋敷がなくなった。私は買いを頼まれて壁の外に出てたから助かった。けど私の両親とご主人さまは跡形もなく消えてしまった。私は一気に頭に迷うこととなった。混するアドパンの街で孤児に手を差しべてくれる余裕がある人なんかいない。帰る家を失った私達は孤児たちで集まって生き抜いた。

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でもそれもなかなか上手くいかない。だってあの日被害をけたのは所謂上級層だったからだ。私は違うけど、あの日以來沒落した金持ちは多い。元々格差があったアドパンの街。あの日いきなり頭に迷うのは壁の中で優雅に庶民から富を貪ってた奴等という意識が元々のスラム住民達にはあったんだ。だから迫害してきた側は迫害される側に落ちた途端げられた。

私だってスラムの中でもさらに底辺だった。貴族に仕えてたって事からして気にらないんだ。下は手を取り合ったりしない。毎日が必死だから、自分の事しかみてない。下が出來れば、その下からも盜って生き抜こうとするような奴等。だからアレが地獄だと思う。私は何日も何日も空腹でもう死んじゃうんじゃないかと思った。

そんな中、手を差し出してくれたのはドオクア様だった。あの方はこの街を立て直し、資産を投げ打って人々に仕事を促した。配給もしてくれて……あの方のおで生きている人は多い。けどその人もあいつに殺された。許すことなんてできない。

「あいつは……まだ死なないのか?」

そういうのはハムスター顔のおじさん。彼は市で店を開いてる。今日はアレの気まぐれて逮捕されそうになったらしい。

「今日は大変だったそうですね」

「あの……悪魔! 信じられん!! 市を潰され掛けたんだぞ! アイツはこの街の事を何も考えてない!!」

「実際アレは自分の事しか考えてないですよ」

それは確定的。それとなくわがままを止めさせようと思っても、それに聞く耳を持つことはない。

「もう俺達は限界だ……」

そういうのはやつれきった庭師のモグラの頭領。彼等はこのままでは死ぬだろう。やつれ合が半端ない。きっと今も他の庭師は不眠不休で働いてるんだろう。この人達こそ、アレが次の朝日を拝めなくなるのを一番願ってそう。アレが死ぬか、この人達の命の火が消えるか……私の見立てでは後者が早そう。

「毒も呪いも、そして理も……アレには効果は期待できない」

重い言葉を吐くのは屋敷で働いてる老齢の羊。その言葉にこの場の皆が頭を垂れる。ただ一人オラルド様だけは複雑な顔してる。ほんとこの人はやる気あるのか……このままでは近いうちにこの街は破産する。危うい均衡はドオクア様だから保ててた。でもアレは均衡を崩す存在。今は無い金を無理矢理集めて使いまくってるから逆に流がり立ってるが、それも金があるだけ。

オラルド様が言うには他の上層部の奴等はアレの存在を隠し、この街を見捨てて他に移る気のようだ。だからこそ放置してる。アレの機嫌を損ねて滅せられないように。民……なんて眼中にないのはアレと同じ。

だから私達は自分達でやるしかない。なのに……

「朝の紅茶にもらった毒を使ったけどあれって遅効ですかオラルド様?」

「いや……ベルグベアーを速攻で殺しうる程の毒の筈だか?」

やっばり遅効では無いですか。味しい言ってましたがね。ちなみにベルグベアーは五メートルを越える大熊で、その兇悪さは街を一つ壊滅させる事が出來るほどと言われてる。それを速攻で殺すとか眉唾だけど、でも強力なのは間違いない。それを味しい……やはり悪魔。

「指もはめましたが……アレの効果は如何程で?」

「一日嵌めてればその黒い寶石が赤を吸い上げ、魂を喰らい盡くすと言われてる指の筈だが……」

「つまりは黒いのが赤くなれば死んでると……これを」

私は服のポッケからその指を取り出す。それを見て皆が息を飲む。

「なんとしい……」

オラルド様がそんな聲を出した。この人が持ってきたから元の狀態をしってると信じられないよね。最初は赤いリングに黒い寶石がはまってたのに今では銀に輝くリングに七の寶石がはまってた。もう別のだよ。一なんなのかアレは……

「食事にも毒を混ぜてますが、効果は無いようです」

「デンドンをぶつけてもビクともアレはしなかったぞ……」

「目覚めずの歌も効果は無かった」

「一どうすれば……」

……それが周囲に満ちる。薄暗い店。お酒が棚に並んでるが、その殆どは空。どこも経営狀況はよくない。そんな時、オラルド様が通信寶珠をとりだした。そして何やら話してる。通信を切ってこちらを向く。その表は芳しくない。

「首都からアンサンブルバルン様が視察に來るらしい」

「「「おお!!」」」

アンサンブルバルン様……それは獣僧兵団全てのトップ。その力は武神と稱される程だと聞いたことがある。その方ならもしかしたら……

「だが上は今の慘狀が知られる事を恐れている……自の破滅につながるからな。會わせようとはしないだろう」

「それは想定では無いですか。オラルド様達は協力してくれるのでしょう?」

私が笑顔でそう言うと彼は視線を逸しながらもこういった。

「も……勿論だ。我等ローラン家はドオクア殿の意思を引き継ぎ、この街を守……る」

やっぱりこの方はもう信用出來ないかも。けど協力してくれてる上はこの方の『ローラン家』だけ。手放す事もできない。完全に墮ちる前に決めるしかない。

「なんとしてでも、アンサンブルバルン様にあの悪魔を滅してもらいましょう。正義の塊の様な方と聞き及んでますし、きっとどうにかしてくださいます!」

「「「おお!!」」」

再び顔を上げた我々はその時の段取りを詰めていく。明が見えてきた。悪魔を殺せる算段が……あとし、あとしの我慢だ。私は震える手を握りしめた。

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