《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》11 いじめ

その後、やっと念願の生徒が訪れたことによりラルフの剣は止まった。

すでに帰宅して布団にりたい程疲労がたまっているロイドだったが、それを実行する前にラルフが言い放つ。

「よし、んじゃあゼームズとロイドで組手な。あとはーー」

(げ……ゼームズか)

次々に名前を挙げて組手のペアを決まっていくが、ロイドは渋い顔を浮かべた。

より一層帰りたくなるが、そうはさせないと1人の年がロイドに近付く。

「よう”恥さらし”。相手してやるよ」

「あー、よろしく」

ニヤニヤと口を歪め、見下した目線を向けてくるゼームズ。

ロイドの3つ歳上の彼はよくロイドに突っかかってくる人の代表格だ。

ロイドはより疲れが溜まったと言わんばかりに溜息まじりに返事をする。

ゼームズの言う”恥さらし”とは“ウィンディア家の恥さらし”という口によるものだ。

実はこれはこの道場だけでなく町でも口にするか否かの違いはあれど共通の認識である。

このウィンディア領においてウィンディア家は優れた領主であり、好意の目で見られていた。

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的な革新などはないが稅金は最低限であり、民に負擔のない政策。人當たりの良さ。フェブル山脈から迷い出てきた魔や野黨団といった自衛団が手に負えない相手をものともしない実力。

そういった理由からほとんどの領民は好意を持ってウィンディア家に接するのだが、だからこそか魔法を一切使えないロイドは浮いていた。

「おら行くぞ!くらえ!」

「合図くらい待てっての」

ラルフの合図も待たずに斬りかかるゼームズ。

とは言えラルフの剣に比べて速度も威圧もない剣はロイドにとって余裕で躱せるものでしかない。

そろそろ反撃しようかとロイドが思った矢先、先に堪忍袋の尾が切れたゼームズが苛立ちを込めるかのように大聲でぶ。

「避けてばっかいるんじゃねぇよ恥さらし!『覆い纏え、”強化”っ!』」

「くっ!」

強化を施して振り抜いた一撃は先程までとは一転して比べにならない速度でロイドに迫る。

初撃こそ奇跡的にどうにか躱すも大きく勢を崩し、次の一撃を躱すには至らない。

「つぅっ…!」

「おらどーした恥さらし!避けてみろよ!」

「ぐっ、がっ!」

ラルフのように手加減されてない悪意の込もった暴力は、ロイドの対応範囲をあっという間に超えていき、やがて打たれるがままにに木刀を打ち付けられる。

「そこまでだっ!!」

「…ちっ」

「げほっ、げほっ…ぐぅ…」

ラルフがさすがに見兼ねて止めた頃には、ロイドは立ち上がる事すら億劫な程満創痍だった。

ラルフはロイドを抱えて休憩室に運ぶ。

「すまんロイド、し止めるのが遅かったな」

「げほっ……い、いえ……俺が頼んだ事ですし、気にしないで下さい…」

悔いるような表のラルフにロイドは痛みの走る頬を引き攣りながらも笑顔を作って返す。

ロイドは”恥さらし”と呼ばれる理由をよく理解しており、なんなら同意すらしていた。

家族は皆優れた能力を持っており、自分だけ落ちこぼれていると。

道場以外でも同年代の子達からはこうして突っかかられ、暴力をける事は今までもたくさんあった。

だからといって守られてばかりでは何も変わらないと思い、そういう現場でも極力放っておくようラルフに頼んでいたのだ。

 

「実際にやられないと対応出來るようになれませんしね…」

「お前……だからって無理しすぎるなよ。止め遅れた俺が悪いんだけどよ」

「ふぅ……もう大丈夫です、歩けます。さっきのも急所は當たらないようにだけは出來ましたし、良い練習になりました。だから気にしないで下さい」

休憩室にるなり、痛みが落ち著いて自分の足でしっかり歩くロイド。

呆れたような困ったような表を浮かべるラルフに、可笑しそうに笑う聲が屆く。

「ほらいつも言ってるじゃないか、ロイドを甘く見すぎだって」

「そうは言うがなルナ……」

「こんにちはルナさん、すみませんがお願いします」

「うんおいで、さくっと治してやるわ」

ラルフの妻であるルナは、希な治癒魔法の使い手だ。道場の怪我人を治す専屬醫者のような事をしている。

本來治癒魔法の使い手は神などの職につく。

給金も高く、栄譽もある神職なのだが、ルナはに合わないと冒険者となり、ラルフやルーガスとパーティを組んでいたのた。

 

ラルフと同じく表裏のない人格やその男勝りな格や話し方から、周りからは姐さんと親しまれていたりする。

「おっ、今日の怪我は打ちだけかい。やられ方が上手になってきたじゃないか」

「なんだと……あれだけやられてそれか!こりゃ次の稽古はもっと厳しめにしてやらんとな!」

「いや勘弁してください……」

豪快すぎる夫婦はオブラートも遠慮もなかった。

だが、口を叩かれるか直接言われるかのロイドにとって実に心地よい。

家族以外あまり好きになれないロイドが數ない頼りにしている2人でもある。

いつの間にか作っていない普通の笑顔を浮かべていたロイドを見て、2人は安堵したのか嬉しそうに笑った。

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