《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》17 ラピス
あれから數日、國王から借りけていた鑑定石も返し、フィンクやエミリーは魔法のスタイルについて考えつつ日々を過ごしていた。
ロイドはと言うと、書庫を片っ端から漁っていた。
魔についての資料を探す為である。
ルーガスやシルビアも自らの伝手などを駆使して報を集めてくれていた。
この日はルーガス、シルビアはその為か家を朝から出て行っていた。
仕事は前日までに前倒ししたようで、朝食の際し疲れと眠さが見えたいた。
それに申し訳なさを覚える。
ロイドは頭も良く能力もある。
魔法が必要ない家に生まれていればそれで良かったのかも知れない。
だが、ウィンディア家はウィンディア領の領主であり、領地の守護者であり、そしてエイルリア王國の盾でもある家だ。
このウィンディア領は強力な魔が住むと言われるフェブル山脈に面している。
広範囲に渡るフェブル山脈だが、ほとんどが壁のように崖が切り立っている。
そんな中、何箇所かなだらかな斜面となりフェブル山脈に行き來出來る場所がある。
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その數箇所の中でも木々があり、森のようになっているのはこの地だけである。
それにより魔にとっても住みやすい環境であり、フェブル山脈の魔が出てくる危険が最も高い土地と言えるのだ。
さらにそれだけではない。
ディンバー帝國との國境に程近い土地でもあるのだ。
ディンバー帝國がエイルリア王國に侵しようとすると、フェブル山脈の中を突き進むか海を渡らない限り、このウィンディア領付近の道を行く事となる。
高い戦闘能力を持つ者を輩出するウィンディア家は、危険が多いこの土地に住み、帝國や山脈の脅威から王國を守る守護者としての役割を代々擔ってきた。
とは言え、そんな文字通り危険が隣り合わせの土地に移り住む人間は多くはない。
町の規模は大きいとは言えず、流通も最低限のものだ。
屋敷には普通の貴族なら雇用している執事やメイドもいない程である。
それでもこの地に住む人達に不満も不安もない。
それはいくつか理由はあるが、大きい理由としてウィンディア家の強さや人柄、政策を信じているからだ。
それ故に、ウィンディア家の者には強さが必要なのである。
いざと言う時に、領民を、王國を守る為に。
「とは言え、全然取っ掛かりすらない…」
結構長い歴史を持つ家のはずなんだけどな、と小さくごちる。
ざっとではあるがめぼしい書は目を通した。
しかし、魔については影も形もない。
 
仕方なくロイドは町の本屋へと向かう事にした。
そう広くないウィンディア領の為、10分も歩けば本屋に著いた。
「あれま、ロイドくん、こんにちは」
「こんにちはベルさん、ちょっと聞きたいんだけど、魔に関する本とかって置いてたりしないですかね?」
店番用のカウンターに座るおばちゃんーーベルさん。
ウィンディア領唯一の本屋の店主である。
しかし、辺境領地の唯一の本屋でありながらかなり大量の本を並べている店である。
これはウィンディア家も領の教養に直結しかねない本の手には力をれている事も理由にあるが、何よりこのベルが無類の本好きという事もあるだろう。
時には遠出をしてまで本を仕れることもあるほどだ。
そしてなんとその本全てを把握している驚異の記憶力を誇るベル。
領で本の化と評されている彼に聞けば、探す手間もないのだ。
 
「魔って、あの古代魔かい?ずいぶん珍しい本を探してるのねぇ。ごめんなさいね、ウチにはないわ」
「そうですか……もっと古い本を扱ってるとこに行くしかないんかね……」
「うーん……古いと言うか、読めない本ならあるわ。どうも古代語みたいな文字もあるみたいなんだけど、記號やら線ばっかりだし、私も解読も出來ないのよねぇ」
思わず一人ごちるロイドの言葉を聞き、何やら検索ワードにヒットした本があるとカウンターから降りて店に歩き出す本の化。
著いていくと、迷う事なく棚から1冊の本を取り出しロイドに手渡す。
それに目を向けると、古びた表紙に模様の様な文字が描かれている本だ。
中をパラパラとめくるが、規則も何もない文字や記號が不規則な位置に描かれたページが続くばかりで、全く意味か分からない。
「ね?読めないでしょう?」
「うん、全く。……ベルさん、これいくら?」
「あれま、買っていくの?」
「まぁ、一応ですね」
古代の技とされる魔、であれば古代語に何か関係があるかも知れないと一応購する事に決めたロイド。
「うーん、読めない本だしねぇ。お代はいらないわ」
「いやいや!そんなワケにはいかないですって」
「だったら解読出來て容が満足いくものなら改めてお金をもらうわ、楽しみにしてるわね」
もはや確定事項だと背を向けカウンターに戻るベルさん。
これに食い下がるのも違う気がしてロイドは苦笑気味にありがとうございます、と言い、本を頂戴することにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その帰り道、行儀は悪いがロイドは気になって仕方なく、先程手にした本を読みながら歩いていた。
しかしやはり全く解読出來ず、糸口すら見えない。
「無理、分からん」
獨力での解読を早々に諦めたロイド。
そもそもあのベルでさえ読めないなら自分に読めるはずがない。
顔の広い父や母に解読を出來そうな伝手がないか聞いてみようと決めた。
「あっ、ロイドくん!」
「ん?あ、ラピスさん」
そんな考え事をしながらぼーっと歩いていると、後ろから聞き慣れた聲が聞こえてきた。
振り返ると予想していた人が小走りで駆け寄ってきている。
「珍しいねこんなところにいるなんて。お買い?」
「ええ、ちょっと本をと思って」
「そうなんだ。なんか難しそうな本だね」
ラピスは分け隔てなく笑顔で接する彼は領民からもウケが良く、よく薬師の手伝いや店番をしている為顔も広い。
また、同世代では珍しく『恥さらし』と呼ばれているロイドにも他の人と変わらず対応する數ない人間ではある。
だが、ロイドは彼には基本的に作り笑いと敬語で返す。
これは前世からの癖でもある。距離をあえて作る際には作り笑いと敬語を使う。
おまけに仮にも貴族の子息として生まれてからは、作り笑顔も磨きがかかっていた。
では何故普通に接してくれる彼にこのような対応をするのか。
これは嫌いだからでも裏をじて警戒している訳でもない。
「あーっ、ラピスちゃんだ!ねぇちょっと遊ぼうよ!」
「こんな恥さらしなんかほっといといてさ!ザコがうつっちゃうよー?」 
「……はぁ…」
まるでナンパのような切り口で話しかけてくる町の男の子達に、早速か…と溜息をつくロイド。
ラピスは金髪の長い髪にき通った蒼い眼、整ったかわいらしい顔立ち。
笑うとその金の髪とあわさりひまわりのような明るさを見せる。
そんな彼はとてもモテた。
 
そして、そんな彼はロイドにも分け隔てなく接する。
するとこのように群がる男子に煙たがられる。
それが嫌なのだ。なのでロイドは早速撤退を図る。
「それじゃラピスさん、俺はこれで失禮すーー」
「えーっ!ロイドくんたまには遊ぼうよ!」
  目を輝かせてこちらを見るラピス、その後ろには「斷れよ!分かってんだろぉなぁ?!」と言わんばかりの目をむけてくる男の子達。
勘弁してくれ、とロイドは心で呟くのであった。
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