《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》28 王子様は絡まれた

ラピスはどこか誇らしげに、それでいて恥ずかしそうな表を浮かべて口を開く。

「聞かれないと言わないようにしてるの。お父さんもお母さんも自慢だけど、あたしはそんな事ないしね」

「でもお嬢はただ闘いは嫌いみたいだけど、かなりレアなスキル持ってるじゃねーか」

ラピスを勵ますようにジークが言うと、ラピスは何故か痛い所を突かれたように僅かに俯く。

それを見てジークはやっちまった、という顔を。メグリアはこのバカは、と呆れる顔を浮かべた。

 

それらを一瞥したロイドはおもむろに問いかける。

「そう言えば、ラピスの友達はまだ帰ってきてないみたいだな。遠くに行ってるのかな?」

「あら?ラピスちゃんのお友達って?」

「あぁ、領民の男の子達ですね。ラピスはモテるから、いつもはお友達がたかってーーじゃなくて一緒に居るんですよ」

それに便乗するようにすぐさま話題に乗るメグリアにロイドは説明する。

ロイドとしても実際気になってない訳ではない容なのだ。

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「あぁ、あの小僧達なら、”壁”付近に居る下位の魔達とじゃれているのだろう。良く帰りに見かけるしな」

「あー、あいつらな。微笑ましいよなー」

どうやら心當たりがあったようで、ゴンズとジークが返事をしてきた。メグリアも納得したような表を見せる。

「”壁”の周りには弱い魔がちらほら居るのよ。ここの冒険者達に見向きもされず、それでいて遠くにいる強力な魔達からも狙われてにくいから居著いちゃうんでしょうね」

「いやそれ領民とか危なくないですか?」

ある種當然の疑問に、何か予想外のことを言われたように目を丸くしたメグリア。そして一拍の後に可笑しそうに笑い出した。

訳が分からず首を傾げるロイドに、ジークやゴンズも苦笑いを浮かべていた。

「坊主、それはいらん心配だ。安心せい」

「はぁ……」

あまりにも當然だと言わんばかりに言い切られ、ロイドは反論も追求もする気になれず曖昧に頷いた。

(心配ないならなんでもいいけどね。それにまぁ話題も変えれたしいいか)

ロイドと同じように気になるのか首を傾げているラピスに心安堵の気持ちを浮かべていると、ふと自分の行に疑問を持つ。

そもそも何故ラピスに気を配っているのかと。だが、すぐに理由に行き著く。

(思ったより気にってるみたいだな、俺)

短い時間だがこの子が良い子だという事はよく分かった。

外見だけではなく、中も素直さや気配り、謙虛さを持った子なのだと。天真爛漫な格は見た目以上に可らしいと思えた。

領民の男の子達もきっとこういう部分に惹かれているのだろうとロイドも納得出來たくらいだ。

そんな事を考えていると、ギルドの扉が勢いよく開いた。そして、それと同時に耳を震わせる大きな聲が複數。

「カーネリアさん!角ネズミ倒したー!」

「げきせんだった!」

「換金してくださーい!」

領民の男の子達の凱旋のようだ。

よく見ると、角ネズミと呼ばれた魔を誇らしげに持って先頭を歩くのなゼームズだ。

「すごいじゃない。でも買取は私じゃないわ。あっちのカウンターよ」

「別にいいじゃん!カーネリアさんがいいー!」

「ダメよ。君達は冒険者なんでしょ?だったら言うこと聞きなさい?」

ぎゃーぎゃーと騒ぐゼームズ達と諌めるカーネリアと呼ばれる付嬢の聲を聞きつつ、ロイドは背を向けて小さくなった。

見つかったら確実に面倒な事になる、とラピスを一瞥しつつため息をついた。

「あぁーっ!ラピスちゃんだ!ラピスちゃんいるよ!」

「ほんとだ!めずらしー!」

しかし願いは屆かず、すぐに見つかった。

 カーネリアと呼ばれた付嬢と話していたゼームズもラピスに気付き、そしてロイドにも気付いてしまう。

「…おいお前ら、角ネズミを換金してきとけ」

「分かったー!」

ゼームズは周りの取り巻き達に換金を任せ、ラピスに向かって近寄る。

ジーク達はよくある景だと見ていたが、ロイドのふっかーい溜息に「どうした?」とアイコンタクトを送る。

お気になさらず、とアイコンタクトを返したと同時にゼームズが話し掛けてきた。

「ラピスちゃん、ギルドにいるの珍しいね!こんなやつほっといてこっちおいでよ!今日は前々から目をつけてた角ネズミを倒してさ!」

「そーなんだ、おめでとうゼームズくん。でもお母さんにワガママ言ったらダメだよ、怒られたらホント怖いんだから」

どうやら角ネズミとやらを討ち取って上機嫌なようで、ロイドには目も向けずにラピスに聲をかけるゼームズ。

「んじゃ失禮」

チャンスだ、と一聲かけて去ろうとするロイド。

あっ、と何か言いたそうな表のラピスを目にそのまま出口へと向かおうとするが、メグリアから弾が投下される。

「あら、ラピスちゃんの王子様が帰っちゃうわよ。追いかけなくていいの?」

「うげ」

「メグリアさんっ?!」

「はぁ?」

  ぴしっと顔を引攣らせたロイドに、あたふたするラピスの聲と、不機嫌そうなゼームズの聲が聞こえてくる。

すごく振り返りたくない。

「そーだぞ、さっきの詫びにジュースでも奢るしよ」

ニヤニヤとからかうつもりのメグリアとは違い、本心から言うジーク。

ともにタチが悪い、と思いつつもロイドは自分の気持ちに従う。

すなわち、振り返らずそのまま逃げる!

「おい待てよ恥さらし!」

しかし、それは葉わなかった。

ゼームズの怒りを滲ませた聲がロイドの耳を叩く。

 

思わず背を向けたまま溜息をつき、嫌そうに振り返るロイド。

視界にはやはり不機嫌そうなゼームズと、ゼームズの様子にどうしたんだこいつといった目線を向けるメグリア達が映る。

そして、ゼームズに劣らず不機嫌そうな表のラピスも。

「ゼームズくん、ロイドくんにひどい事言わないで」

「あー、大丈夫だから」

余計にややこしくなると察したロイドは間髪れずにラピスを諌めるが、それも遅かったかゼームズはより不機嫌そうな様子だ。

今にも毆りかかってきそうな表を浮かべているゼームズに、心で盛大に溜息をついた。

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