《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》29 決闘 前編

冒険者ギルドは依頼の提供と魔の買取を主に行っているが、それだけではなくいくつかのサービスを提供している。

の解が不得手な者の為に魔の解もしてくれる。

の買取は、例えば角ネズミであれば角以外は売れない。

それを売れる部位と売れない部位を仕分けしてくれるのだ。

 

また、その解を待つ冒険者からの要で簡単な食事や酒類の提供もしている。

フロントのテーブルに座っている冒険者の中には酒を煽る者もいる。

そして、これまた冒険者からの要で用意されたのが訓練スペースだ。

訓練はもちろん、新たにパーティを組んだ者との連攜の確認や、新人がベテランの技を盜んだりアドバイスをもらう場としても重寶されている。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そして現在、ロイドはその訓練所に來ていた。

ギルドの裏にある屋外スペースは柵がしてあるだけの広大な平地である。

ちなみに、屋外スペースより狹くはなるが屋スペースも用意されていたりする。

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その屋外スペースでロイドと向き合うのはもちろんというべきかゼームズだ。

ゼームズの取り巻き達はゼームズの後方、し離れた場所に控えているが、ゼームズに負けず劣らずな敵意をこちらに向けている。

 なんでこうなった、と天を仰ぐロイドの後方にはジーク、メグリア、ゴンズと、ラピスがいた。

無論、そのラピスの存在が相手の敵意を煽っているのは間違いない。

さらには、その周りに集まる冒険者達多數。

酒やつまみを片手にわいわい騒いでいる冒険者達がまばらな円を作るようにロイドとゼームズ達を囲っていた。

「おい恥さらし!早く構えろ!」

「そーだぞー。構えないと危ないぞぼーず」

「……はぁ…」

 ゼームズやなぜかジークが急かす。

ロイドは嫌々といった雰囲気を隠しもせず溜息をつきながら短剣を抜いて、構える。

 

なぜこうなったのか、それはゼームズがギルドのフロントでロイドに喧嘩を売ったのがキッカケである。

それを仲裁しようとするラピスだったが、それが更に煽る形になるとは言うまでもなく、今にも毆りかかりそうなゼームズに本気で逃げようと考えていたロイド。

 そこに飛び込んできたのがジークの聲だった。周りに迷をかけるなという年長者らしい靜止の言葉までは良かった。

だがそれに続いた「そーゆーのは訓練所でやれ!」という聲にロイドは愕然とした。

それで構わない!と火のついたゼームズ。

良い暇つぶしだと観戦する気満々で酒をそそくさと買いに行くジーク達。

遠巻きに見ていた他の冒険者達も同じ考えに至ったのか、いつの間か酒の購スペースには行列が出來ている。

「訓練所を借りてきてやるから、それまで待ってろよ!そうだな、30分後に集合だ!」

 そういうジークの言葉に、その間に逃げてやろうと考えたロイドだったが、それに気付いたメグリアがそれを許してはくれなかった。

気配を消してそそくさと出口へ向かおうとしたロイドはメグリアにつまみ上げ、膝の上に乗せられてしまったのだ。

それにより周囲の男陣からは恨みがましい目で見られる。

さらになぜかラピスまで不満そうな表でこちらを睨んでくるではないか。

「下ろしてください」

「逃げないならいいわよ?」

「……分かりましたから」

苦渋の選択ではあるが、この狀況はよろしくなさそうだと思い、斷腸の思いで頷く。

30分も膝の上で周りに睨まれては堪ったものではない。

「てゆーかその30分て酒買う為の時間だろこれ」

「おお、よく分かったな!」

獨り言のつもりが返事があった。酒とつまみを両手に持ったジークだ。

これには文句の1つでも言いたくなったが、もう実行にうつす気力もない。

「ねぇロイドくん?年上好きなのはいいけど、限度があると思うの」

「いやラピス、なぜそうなる」

 

不可解な角度から怒るラピスを諌めたり宥めたりしつつ、どうにか面倒事から逃げれないか、と考えるも30分という時間はあっという間に流れてしまった。

 そして、酒とつまみの購が一通り済んだ所で訓練所に運ばれてこの狀況である。 すでに回復魔法を使える職員も控えており、欠損や死亡さえ避ければいい、とだけ言われて放り出されたのだ。

こちらが構えた事でゼームズも構えをとった。

しかし面倒そうな表を隠しもしないロイドに対して、ゼームズはロイドを叩き伏せる未來が見えているかのように口元を歪めている。

「恥さらしくん、この人數の前でボコボコにされりゃ本當の恥さらしだなぁ」

「そうだな。まぁこれ以上家に泥を塗りたくないし、それは避けたいところだけど」

「そうはいかねぇよ。いつもよりボコボコにしてやるからな!”覆い纏え、『強化』”!」

ゼームズは最初から強化を施してすぐにロイドへと駆け出した。

その速度はなかなか速く、見ている冒険者達からも嘆の聲が上がる。

 

ロイドは稽古などでそれよりも速い相手と訓練している事もあり目では追える。

駆けながら振り下される剣を半になる事で躱した。

(相変わらずちょこまかと逃げるのは上手いな…だけど!)

ゼームズは躱された剣を返し、ロイドを追うように斬りあげる。

ロイドには攻撃を躱す捌きはあれど、まともな反撃手段はない。

ゼームズはゴリ押しで攻めてやればいずれ攻撃が屆き、そして倒せると知っていた。

「何かひょろい短剣みたいなのを持って來たみたいだが、そんなもんでーー」

 斬りあげた剣をバックステップで躱したロイドに追撃を行おうと踏み込みながらぶゼームズ。

だが、不意に右頬が淺く裂けた事で言葉が途切れた。

「…やっぱ回復魔法があると思っても斬るのは抵抗あるな」

「お、お前…ま、まさか魔法を?!」

 短剣で斬られた訳ではない。ならば魔法を使ったのかと判斷したゼームズが目を剝きながらぶ。

ロイドはわざわざ答える必要はない、と短剣を構え直した。

次はちゃんと斬ろう、と覚悟を決め、真剣な眼でゼームズを見據える。

「な、なんだぁその眼は…?そんなちゃちい攻撃で勝てるとでも思ってんのか?!」

だが、その眼をどう捉えたのかゼームズは激昂し、ロイドに向かって駆ける。

こいつに魔法適正はない、ならばさっきのは勘違いだろう、と判斷したようだ。

先程と同じ展開に見えたが、そうはならなかった。ゼームズは駆けながら魔力を練り、屬魔力へと変換していたのだ。

「”火よ、撃て!『火球』”!」

あと一歩で剣の間合いという所でゼームズは左手をロイドに向け、その左手から初級火魔法の火球を放った。

バスケットボールほどの大きさの炎の弾がロイドへと放たれる。

それを右に跳ぶ事で避けるロイド。

だがすぐさまゼームズがそれを追うように橫薙ぎの剣で斬りかかってくる。

「くらえぇ!」

確実に當たる!と確信したゼームズ。見ていたラピスも思わず目を手で覆い隠した。

完璧な直撃コースに、観客と化した冒険者達も沸き立った。

「あぶなっ!」

だが、ロイドは慌てつつも気安いじの聲を上げながら大きく距離をとって躱した。

朝の訓練でも見せていた風を破裂させて高速移する技だ。

黒髪を風に遊ばせるようになびかせ、風のに纏わせるロイド。

その整った風貌と合わさりどこか神的な雰囲気を纏うロイド。

「………」

沸き立った聲も一瞬で靜まり、多くの者が目を剝いてロイドを注視していた。

ロイドを知る者達は、魔法が使えないはずの”恥さらし”である彼がなぜ?と驚きを隠せない。

中には短剣によるものか?と考える者もいたが、しかし魔法であろうと魔法適正がなければ同じ事。

魔力を注ぐ必要がある為、魔法は発しないはずだ。

では何故。そう混する一同により靜まり返った空間の中、そーっと手の指の間から恐る恐る目を開けて見るラピス。

 

怪我はなさそうなロイドに安堵して手を顔から下ろした。

そして、視界が広くなった目でロイドを見る。

「かっこいい…」

風を纏い、翠の瞳を煌めかせて短剣を構える姿に、思わずれた呟くような小さな聲。

しかしこの靜まり返った空間によーく響くのであった。

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