《ダンジョン・ザ・チョイス》6.異常の源
「あと三回」
だが、チャンスが巡ってこない。
警戒しているのか、剣での攻撃が止んでしまっていた。
俺は”鉄の短剣”以外、ゴブリンから手にれた雑シリーズの武しか持っていない。
搦からめ手に使えそうなも無いし、やはりあの剣を奪う以外に方法が無い!
の方も、いつまでけるか分からない。
今はアドレナリンとかでハイになっているだけだ。いずれ誤魔化しが効かなくなる。
時間が経てば経つほど、TPが回復するけどな。
「來いよ、木偶でくの坊」
「グオオオイイオオオオオオ!!」
腳を床にりつけながらの右回し蹴り!
「良いこと思いついた!」
腳の下に潛り込み、びきった腳が曲がり始めてらかくなった膝裏を狙う!
「パワーフリック!」
らかい皮をパワーフリックで突き破り、捻り抉って膨ふくら脛はぎに半ばまで斬り込んだ!
同時に短剣も折れる。
「グゥアアアアアアアアアア!!?」
これでまともに立って居られないだろう!
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ゲームとは違う。これが生きている者同士の殺し合い!
今の俺には鉄製に劣る武しか手持ちが無い。やはりあの大剣が必要だ!
膝を著いた灰のオーガが、倒れないようバランスを取るため、剣をすぐ傍の地面に突き立てた!
チャンスだ!
「スティール!」
四度目の正直!
――クソ!!
スティールよりもTPの消費が激しい剣を使用している。回復してきた分も使い切ったかもしれない!
「グオオオオオ!!」
頭上から迫った手を盾で防ぐ!
「コイツ!」
盾を捕まれ、が浮いていく!
「グオ!?」
盾を消したためか、一瞬きが止まるオーガ。
今オーガは剣を手放している! 頼む、足りてくれ!!
著地するときに膝を曲げ、無理矢理大剣へと跳び、手をばす!
「スティール!」
――――巨大な剣が青白くり、俺の手にちょうど良い大きさの大剣に変化した!!
TPの自然回復。確認している余裕は無かったが、足りてくれたか!!
「ハアハア、ハアハア」
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ヤバイ、全の痛みが強くなってきた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
武を奪われて怒り狂っているのか?
「ハアハア、卑怯とは行ってくれるなよ」
片腳を庇いながら、攻撃を仕掛けて來るオーガ。
前に出て、ばされた腕に剣を突き立てる!
更に地を全力で蹴って――前へ!!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「グウアアアアアアアアアアあああ!!!」
手首から肘まで切り裂いて、腕から引き抜き、更に前へ!!
「く、たばれーーーーッ!!」
左斜めに振りかぶり――――右へと薙いだ!
「グゥ……オォ…………」
「ハア……ハア」
灰のオーガの首がゴロリと地に落ちて転がり、頭を無くした首が行き場を求めるよう、噴水のように赤いを撒き散らしていく。
その鉄臭いが俺に降りかかった時、張の糸が切れた。
生暖かいの池の中で、俺は意識を手放……し…………。
●●●
『……素晴らしい』
あの剣の持ち主が死んだ際、イベントに組み込むことを考えましたが、難易度が高すぎたと後悔していた。
あの段階で手にる武では耐久負けするほど、あのグレートオーガは強力。
更に、ガスで死んだ間抜けの強力な剣も持たせていた。
あの剣は、今の段階で手にれるには強大すぎる代。だからこそ高い難易度に設定していたのですが……まさか、剣を奪って勝利するとは!
『ああああ!! 凄いねーー!! 凄いねーー!!』
故に恐ろしい!!!
様々な理由から、世界の危険分子になりかねない人間を処斷するのが私の役目。
このゲームは、危険分子を使った非道徳的なお遊び。
『見込み通り、貴方は危険分子でしたね~、巨勢コセ様』
もっとゲームを盛り上げてください、コセ様♪
――でも、絶対に生きては帰さねーーー~!!
『我々の社會を脅かす不穏分子は、生きていてはいけないのです!』
せいぜい、我々を楽しませて死ねや!!
○○○
「先生。この子、周りの子と比べておかしいんです!」
い頃、神科に母親に連れて行かれた時の記憶。
「悟りを開いたかのような事ばかり言って、達観しすぎているというか、他の子や學校の先生の事を気持ち悪いとか言うんですよ!」
ヒステリック気味に、母が捲し立てる。
その気持ち悪いの中に、お前もってるんだけれどな。
周りの顔を覗い、あまりにも本音と外面が違い過ぎる母親。
家では偉そうなのに、外に出るといつもペコペコしている父親。
僕に対してだけ強気な弟。
お金しさに平気で噓をつく妹。
そして、その妹に両親は簡単に騙されるくせに、我が顔で俺に常識を説いてくる。
気持ち悪い。
コイツらを異常者だと想うことが、なにかおかしいのか?
「落ち著いてください、お母さん。先程彼に幾つか質問をしてみて、理由が分かりましたので」
「や、やっぱりこの子、なにかの病気なのでしょうか! 今後社會で上手くやっていけるのでしょうか!」
この母親にとって、俺は病人かなにかでなければならないらしい。
「彼は、HSPだと思われます」
「H……SP? それはどのような病気なのでしょう?」
どうして俺の母親は、この人なのだろう。
「HSPとは病気ではありません。只の質です」
「質? 社會不適合者の質ですか?」
――座っている椅子を蹴りつけて、この部屋を出て行きたくなった!!
「そんな事を言ってはお子さんが可哀想ですよ。HSPとは、いわゆる超敏質の事で、彼は優れたを持っているのです。高い共を持っており、日本人は五人に一人がHSPだと言われています。この割合は、外國に比べると多いんですよ」
男の先生が、僕を肯定してくれる。
「でも、この子的なシーンを見ても泣いたりしませんし、學校でも孤立していると擔任の先生が……」
「HSPと言っても、人によってやのけ取り方には違いがあります。それに、彼が涙を流さないからと言ってなにもじていないとは限りません。更に言えば、涙を流すからと言って共していることにもなりません」
知らなかった知識が、僕の世界を広げていく。
「學校で孤立していると言っていましたが、彼は問題を起こしたりしていますか?」
「い、いえ、大人しくてしっかりした子だと擔任の先生からは褒められましたけれど……」
母は納得がいかなそうだ。
當然だろう。今まで全否定していた僕が、褒められているのだから。
なによりこの母親は、僕から見たら異常者である弟と妹の方がずっと可いのだ。
普段のちょっとした聲音や態度で、それは明らかだった。
この母親は、僕がそれくらい理解出來る頭を持っているとは微塵も思っていない。
「責任も強く、一つの事から人よりも多くの報をじ取ってしまうため、日常生活で神的に負擔をじやすい傾向があります。大きい音なんかにも敏で、簡単にストレスをじてしまいますから、気を付けて上げてください」
「あの、本當に病気ではないんですか?」
「むしろ大になるかもしれませんよ。誰かと協力するのは苦手かもしれませんが、一人で大きな果を出したという人にはHSPの人が多いと聞きます」
「そ、そうなんですか……」
「まあ、なにかあったらまた來てください」
母はきっと、僕がなにかしらの処置をけるだとばかり考えていたのだろう。
蓋を開けてみれば、母の不安は全否定されるというもの。
だが、目の前の先生は一つ大きな見落としをしている。
僕を持ち上げれば持ち上げるほど、それは母の常識を、母みたいな人種のアイデンティティを大きく否定してしまうと言うことだ。
それから二度、僕は別の神科病院に連れて行かれた。
病院での話しを聞いて、信じられなかった父親も同行した。
一度目と二度目の醫者を父親はヤブ醫者だと決めつけて、遠くの大きな病院にも連れて行ったが、結果はほとんど変わらない。
的になった父親に対して、「お前達親の方が病気だ!」などと口走った醫者も居た。
結局の所、神科の先生達でもHSPというものを知識でしか知らないという事だ。
その後、両親は僕に対して偉そうな事を言わなくなった。
代わりに、僕はただの居候みたいな扱いをされるようになる。
得の知れない者を刺激しないよう、極力関わらないようになったのだ。
まるで、殺人者扱いされているようだった。
居心地は悪くも、以前よりもストレスは減ったため、僕はそれをけれた。
ただそんな僕を、心の機微が分からない弟と妹は両親が特別扱いしていると考えたようで、低俗な嫌がらせを仕掛けて來るようになる。
本當に、人間ってくだらない。
僕の周りの人間は、極めて普通に近い人間だろう。
そんな彼等が、僕には異常者に見える。
そんな彼等からすれば、僕の方が異常者。
そして僕は、一つの答えに辿り著く。
――この世に普通の人間なんていない。
異常に見えやすい人間と、見えづらい人間が存在しているだけ。
一切の例外なく、全ての人間が異常者なんだ。
もちろん、僕も含めて。
「な、くだらないだろう? 巨勢こせ 雄大ゆうだい」
僕がそういって……笑った。
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