《ダンジョン・ザ・チョイス》22.魔サトミ

十時を過ぎて、ようやく神像の前に全員が集まった。

ざっと百人って所だな。

冷靜になると、なんで俺は指揮を執っているんだ? という気分になる。

「あと二時間もしないうちに、千のモンスターがここに押し寄せてくる。君達に奴隷を購させたのは、戦力を集めるためだ! だが、獣人達のLvは全員が1。そこで、最初に主が前戦に立ち、獣人達のLvを上げる!」

ろくな裝備も無いLv1の獣人達では、あっという間にモンスターの餌食だ。

「獣人達はLv1だが、一人一人のスキル數は多い。Lvが上がれば、必ず貴重な戦力になる」

トゥスカのスキル數が八。本人は多い方と言っていたが、他の獣人達だって最低でも四つは持っているだろう。

狩やモンスターとの戦いも経験済みだと考えると、プレーヤーよりも役立つ可能が大きい。

「獣人達には、全員に”鉄の盾”と”盾のスキルカード”を渡す。他にも鉄の武や弓を用意してあるから、得意な得を持っていってくれ」

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彼等の役目は、攻めよりも守りだ。

「それと、突発クエストが発生してから買われた奴隷達は、俺の金で買われた奴隷だ! よって、奴隷の処遇を決める権利は俺にある!」

妙な事を言い始めたとでも思っているのだろう。今まで以上に視線が集まる。

「突発クエストが終了次第、俺の金で買われた全ての奴隷は奴隷から解放する! もし従わない者がいれば……死よりも辛い苦痛を、俺が與える」

獣人達から歓喜の聲が響く。

こういう扇、我ながらよくやるよ。

「これより、全員が生き殘るための作戦を伝える!」

「裝備から見ても、俺達五人のLvと実力は頭一つ抜けている。だから、ジュリーさん以外は全員積極的に敵を倒す。特に、倒すのが厄介なモンスターをな」

実際にどんなモンスターが現れるのか、まったく分からないけれど。

「ただ數が多いだけなら、なんとかなりそうだけれど。このゲームがそんなに甘いわけないしね。で、なんで私だけ待機?」

ジュリーが問い詰めるような圧を向けてくる。

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「溫存する戦力は必要だし、強力な回復手段があるジュリーさんはクエスト終了後にこそ必要になるだろうから」

「戦いの後のことも考えていたか。良いよ。ただし、タマも予備戦力に回させてしい」

「……分かった」

今、彼めるのは避けたい。

「ならこれ」

ジュリーが袋を差し出してきた。

「なんだ?」

「たくさんお金を使っただろう? ちょっとした気持ちさ」

黒鬼を倒した際、お金は手出來なかった。

「金ならまだまだ有るから、気にしなくていい」

奴隷とサブ職業や武で、既に1100000G以上使ったけれど。

有り金が半分以下にまで減ったけれど。

このクエストの報償で、しでも補填したい!

「格好いいじゃん」

そういって、タマちゃんと一緒に持ち場に向かうジュリー。

「コセさん、私達も持ち場に向かいます」

サトミがアヤとメグミを引き連れ、挨拶をしてきた。

「ああ、よろしく」

目を合わせずにそう言った。

「私達が人過ぎて、照れてらっしゃるのですか?」

「違う」

三人が人なのは否定しないでおくが、信用できるか分からない相手に目を合わせないのはいつものこと。

常時、俺が目を合わせて良いと思えるのはトゥスカだけだ。

ただでさえ、目には相手をわし、従えさせる力がある。

更にこのサトミという子、魔がすごくてちょっと怖い。

「もう、私の目を見てください!」

頬を両手で挾まれ、無理矢理見詰めさせられた!

「……め、目が綺麗ですね~」

なんか、サトミさんの方が照れてる?

「人の夫に、理由も無く接近しすぎでは?」

トゥスカの低い聲が、サトミさんにぶつけられた。

「あら、ごめんなさいね」

大人しく離れていくけれど、頬をさり気なくでていったぞ!

三人は持ち場へと向かっていく。

「ご主人様」

「……はい」

トゥスカが怖い!

「一番は私ですからね。他の雌とは遊びまでに留めて置いてください」

「遊びそのものをダメだと言えよ!」

「? 良い男のを殘すことこそが、雌の幸福というものでしょう? 無論、無理矢理は論外ですが」

出た、文化の違い!

「浮気とかしないから」

「なぜです?」

なぜですって……。

「トゥスカ以外のを……抱きたいと思えないからさ」

「ご主……じん……様♡」

面白いくらい顔が真っ赤になるトゥスカ。

「俺達も、そろそろ持ち場に就くぞ」

「はい!」

凄い気合いのりようだ。

「ご主人様は、私が守ります!」

「俺も、トゥスカを守る」

たとえ、他の誰が死んでも。

●●●

「サトミ、準備は良い?」

「ええ、大丈夫よ」

アヤちゃんが私に聲を掛けてくる。

本當は、自分の方が張しているのにね~。

「まったく、お前には恐れるよ。サトミ」

メグミちゃんが苦笑している。

「なんのこと~?」

「アンタが、メグミをあいつらに買わせたことでしょう」

ああ、そのことね~。

「たまたま上手くいっただけよ~」

「あの男、簡単にアンタに手玉に取られて、なっさけなーい! クスクス♪」

まったく、アヤちゃんたら口が悪い。

「がっ!!?」

アヤちゃんの首を摑み、黙らせる。

「反省が足りないようね、アヤちゃん。私達が奴隷になっちゃったのは、いったい誰のせいだったかしら?」

「わ、わだじでず……ご、ごべんなじゃい……」

「よろしい、許してつかわす♪」

「ゲホッ、ゲホッ!」

アヤちゃんを解放すると、地べたに這いつくばって咳をする。

私達三人は、元々同じパーティーを組んでいたの。でも、このアヤちゃんが奴隷を買うのは嫌だとか、モンスターと戦うのを嫌がったりと我が儘放題。

そして、私と一緒にダンジョンにっていたメグミちゃんと違い、この子だけがLvが上がらずに、あの鬼が現れてしまった。

パーティーを組んでいても、ダンジョンのと外じゃ経験値がらないというのも予想外だったけれど、まさか連帯責任で同じパーティーの人間まで奴隷墮ちさせられるなんて、思ってもみなかったわ~♪

最悪、アヤちゃんを見捨てようと思っていた私への天罰かしら?

「それとアヤちゃん、多分だけれど彼、私達の関係に気付いていたわよ」

私はハッキリ言わなかっただけで、隠す気も無かったけれど。

「う、噓よ」

れる必要が無いかられなかった。私にはそう見えたわ」

「私もだ。最初から、私達を組ませて行させるつもりだったようだしな」

私とアヤちゃんはまだ彼が主で、メグミちゃんはジュリーさんの奴隷のままだけれど。

それに、アヤちゃんよりも強い魔法使いの子は結構居たから、わざわざ私とアヤちゃんをセットで購する意味は無いの。

ちらりと見えた、プレートの中で判斷したことに過ぎないけれど。

「それに~、私達がまったく歯が立たなかったあの鬼を倒したらしいしね~」

今朝、喋る鬼と戦っていたという大剣使いの噂をしている人達が、何人も居た。

「そ、それこそ噓に決まってるわよ!」

「遠くから聞こえたあの発音と振……私は忘れたくても忘れられないぞ」

メグミちゃんはあれで、ちょっと死にかけたものね~。

どちらにせよ、今朝誰かがあの鬼と戦っていたのは間違いない。

「というわけで、彼とは仲良くしておいた方が良いの。だから、こ・れ・か・ら・も・、さ・っ・き・み・た・い・に・ち・ゃ・ん・と・私・の・言・う・こ・と・を・聞・い・て・行・・し・て・ね・?」

「わ、分かったわよ……」

フフフ、良い子♪

「サトミ……まさか狙っているのか?」

「アンタ、また彼持ちに手を出す気なの?」

「別に、いつも私からしているわけじゃないのよ?」

ちょっと人のしくなる癖があって、ちょっと良いなと思ったらつい目配せしたり、ボディータッチとかしちゃったりして、暫くすると向こうが勝手にその気になってしまうだけなんだもの。

「でも、彼はちょっと本気でしいかも♪」

こんなに誰かをしいと思ったのは、初めてかもしれないわね~♡

ピンポンパンポーン! ピーンポーンパーンポーン!

『これよりっ、モンスタースタンピードをっ、始めまっす!!』

この聲~、本當に不愉快ね~。

『第一陣を飾るのはっ、を犯すのが大好きっ!、ゴブリンの皆さんでっす!』

高さ二メートルくらいの崖から、ゴブリン達が顔を覗かせる。

「……あいつらの武雑系じゃない!?」

メグミちゃんの指摘に注目する。

私達が知っているゴブリンの武は、全て雑と名の付く低級の武

あのゴブリン達が持っているの、鉄の武でもないようだし、もしかしてもっと上位の武なの?

『皆さんっ、屬を持ったゴブリンさん達がっ、最初の相手でっす! 頑張ってくださいっ!』

「「「「キキッ!! キキッ!! キキッ!! キキッ!!」」」」

うわー、皆盛ってるわねー。

「こ、これヤバいんじゃ!?」

アヤちゃんって、本當にメンタルクソすぎて草生える~♪

「どうする、サトミ?」

「もう、相手は所詮ゴブリンなのよ?」

ゴブリン達が崖を飛び降り、こちらに殺到してくるの。

「ダウンバースト!!」

暴風魔法による風圧力が、上空からゴブリンさん達を十匹以上まとめて圧死させる。

「……相変わらずえげつないな、サトミの暴風魔法は」

「きょ、強敵を倒して手にれたものね……」

分かれ道で、魔法スキルが手にる方を選んだのよね。

「ほら、アヤちゃんもサボってないで、さっさと攻撃して」

彼の作戦の第一段階――威力のある魔法で、とにかく先制攻撃。

「この作戦、上手くいってくれると良いけれど」

やっぱり、ちょっと不安になっちゃうわ~♪

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