「貴様、『呪詛』の力で勇者のを乗っ取ったのか！　魔王・・！」

広いダンジョンの中、ベルトのびが轟いた。

「察しが良いな暗殺者。『呪詛』とは怨念へ通じる神を相手に塗りつけていく技。貴様と勇者によってワシの神と魂魄は消滅された――――」

そこで言葉を切った勇者――――いや、魔王シナトラの目が輝く。

それが何らかの引き金だったのだろう。ベルトの腕に激痛が走る。

「うっ……がぁぁ……」と痛みに堪えるようとするがき聲がれる。

激痛を押さえ込むように自の腕を抱きしめる。

その腕に刻まれた『呪詛』が者である魔王に呼応して効果が強まっていく――――

――――だが、それはベルトだけではなかった。

「お、お前たちも……『呪詛』を？」

見れば苦しんでいるのはベルトだけではなく――――

アルデバランもマシロもシン・シンラも激痛に打ちひしがれている。

「――――貴様ら、堅な神の持ち主ほど『呪詛』は浸する。お前たちの心は――――いや、心の暗部は、消滅したワシの存在を再生するほどの強さだったぞ」

そして魔王は、こう続ける。

「そうそう……貴様が追放されたのも、こいつ等に潛んでいた嫉妬や不安、不信を煽っただけで、全てはこいつ等の本心よ。仲間や信頼、絆と言っても――――」

だが、魔王は言葉を止めた――――否。

自らがけた予想外の攻撃に絶句したのだ。

≪真実の弾丸トゥールショット≫

その魔法は魔王のに到達すると発。

魔王の肩を吹き飛ばした……かのように見えた。

「……なんだ？　今の幻覚は？」とベルトは激痛を忘れて呟く。

実際には、魔王の腕は無事だ。僅かなダメージも通っていない……はず。

しかし、その表には一瞬の驚愕。そして徐々に苦痛へと移り変わっていく。

「……勇者のを傷つけずにワシの神に直接ダメージを與えた……だと……」

そして、この場で魔王に攻撃を行える者は1人だけだった。

――――メイルは、たった一撃の魔法使用による疲労で息をし、肩を上下に激しく揺らしていた。

極度の張。　逸した水準の存在への攻撃は、長時間の戦闘と同等の疲労を與えたのだ。

そんな彼に魔王は――――

「貴様、何者だ！」

恫喝めいた怒聲を飛ばした。

常人なら、気を失ってもおかしくない敵意と悪意をけながらもは魔王に杖を向けて睨み続ける。

「私はメイル。メイル・アイシュ――――『聖』です」

・・・

・・・・・

・・・・・・・・

「聖？　……聖だと！？」

メイルの自己紹介。

それをけて魔王には揺が走り抜けた。

脆弱な人間たちの中から突然変異的に現れる自の天敵。

その1つは、言わずと知れた『勇者』

――――そして、もう１つは『聖』

「……そうか。勇者が失われたことで、この世界はもう１つの側面に力を與えたか……だが、誠に恐ろしきは、世界が與える無數の選択肢から１つ縁を摑み取る運命力――――」

魔王から敵意と悪意が消えていく。――――いや、消えて行くの存在すらも……

撤退。

それは、確かに魔王の撤退であった。

「待て！　勇者を――――カムイを返せ！」

ベルトは魔王に飛びかかろうとする。だが、できなかった。

まるで稲妻のように激しい痛みが腕に走り抜けたのだ。

「ぐがっ！　じゅ、『呪詛』が強まっている？　貴様！　この期に及んで何を？」

逃げいく魔王は最後に悪意を放った。

「折角、手にれた勇者の。このまま討たれてはやらん。貴様等を倒すには貴様等だけで十分よ」

まるで謎かけのような言葉を殘して魔王は姿を消した。

勇者のを奪ったままで……

「クソがぁ！」とベルトは地面に腕を叩き付けた。

勇者のが奪われた。　そして、奪ったで魔王が再びき始める。

それだけは、絶対に防がなければならないことだった。

「判斷が鈍った。必要だったはずだ。『呪詛』で戦えないのなら……自ら切り落とす覚悟が……」

ベルトは自の腕を睨んだ。まるで憎い敵である魔王と同等の存在であるかのように……

しかし、ベルトが腕を切り落とさなかった。

それは直ぐに次の戦闘が始まったからだ。

「兄さん！」と悲鳴のようなメイルの聲でベルトは顔を上げる。

すぐに狀況が飲み込めなかった。

アルデバラン

マシロ姫

シン・シンラ

彼らのから大量の『呪詛』が溢れ出し、黒い靄のように周囲に広がっている。

やがて、外へと排出された『呪詛』は持ち主のに戻ろうと、彼らのを包んだ。