《『元SSSランクの最強暗殺者は再び無雙する』》潛む者の疑問
レオンと『不破壊』が手を組み、鍛錬を開始した瞬間。
彼らにも、他の闘技者関係者にも気づかれず、その場を遠くから様子を窺っている者がいた。
その者の第一聲は――――
「なんとも汚らわしい」
唾棄するかのような口調。
ソイツは溢れんばかりの殺気を外部にらさない。
いや、殺意だけではなく、気配もじさせていない。
まるで朧な存在。
ソイツの名前はラインハルト。魔王軍の將軍職に就く者。
獅子の頭を持つ半獣半人の戦士である。
なぜ、そんな彼が現れたのか?
そもそも、ここ第五迷宮は魔王軍の怨敵、ベルト・グリムを罠にかけるための場所である。
魔王軍滯在の噂を流し、乗り込んできた所を閉じ込める。
逃げ場をなくした所で1対1の決闘で討ち取る……その予定だった。
しかし、通者であるソルの話では、暫くベルトは來ないという話だ。
「なぜだ?」と問い詰めてみたが……
彼が言うには――――
「彼がここに來るには、様々な許可が必要でして……」
「人という種族は馬鹿なのか?」
人という種族であるソルに直接言うには問題ある発言であるが……
それは皮ではなく、本心から出た言葉であった。
「都市の地下に魔王軍が潛んでいる。ならば、すぐさま討伐するのが道理であろう?」
「それはその通りなのですが、人は平和を謳歌した結果、危険というものに鈍化してしまったのですよ」
「鈍化? 危険ならば――――異質なものを速やかに排除するのが人の本質ではなかったのか?」
「その通りです。ですが、得た地位に価値をつけるため、面子メンツと言うを矜持プライドに置き換える者に取っては、他者や自の命を軽視してしまうのも人の本質です」
「……わからぬ。いや、もう良い下がれ」
「お前と話しているを頭が痛くなってくる」と付け加え、ソルを退室させた日から1ヶ月以上は経過している。
ならばと、地上への進軍を魔王へ進言した事もあるが、なぜだか卻下された。
その暇な間、ラインハルトは人に姿を変えて、地上の様子を見て回っている。
地上では、やはり唾棄すべき景が広がっている。
カジノでは、金に取り付かれたような男。 金を持つ男に言い寄る淺ましい。
彼らを嘲笑う従業員。
真上の闘技場では、に酔う事でしか自の価値が分からずにいる戦闘狂や殺人鬼。
自主義に自滅主義者。
まるでこの世の地獄が広がっている。
滅せねばなるまい……その本能的なに蓋をするのは、魔王さま直々の指令。
ベルト抹殺指令の遂行を最優先にしてるからだ。
人の世に紛れて気が狂いそうな日々。
しかし、それも終わる。
もうすぐ、ベルトがここに來るのだから……
気づかぬまに舌なめずりをしている自分を抑え、ラインハルトは姿を消して――――
だが、その前に気になる事が脳裏を過ぎった。
目前で戦う2人。
これからベルトと戦う予定のレオン。 1ヶ月前に戦いベルトに負けた『不破壊』。
その2名の鍛錬を見て、解せないが芽生える。
(あの魔王さまの命を奪った憎き怨敵、ベルト・グリム……その彼が苦戦をしたと言う2名という話だったが……)
「はて、それほどまでにベルトという男が弱いとは思えぬのだが……」
そう口にして、今度こそ姿を消した。
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