《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》10.悪役令嬢は事態と向き合う
「言い分はわからないでもない。だから毎年使節団と協議し、支援や優遇措置をおこなってきた。そうして今まで均衡を保ってきたのだ」
「バーリ王國が不満の対象から外れたのは、紛爭地帯と面しているからかしら?」
立場的には、バーリ王國もハーランド王國と大差はない。
バーリ王國もパルテ王國を支援する代わりに、紛爭地帯へは傭兵を派遣してもらっている。
けれど立地上、完全にパルテ王國が蓋をしているわけでもなかった。
「その可能は否めぬ。だが正直なところ、パルテ王國民の中でどういう判斷がくだされているのかはわかっていない」
貴族制度のある國では、貴族が一つの大きな単位になる。
貴族一人につき、領民十萬人――この數値は領地の規模で変わる――の意見をまとめているといった合に。
対するパルテ王國ではその単位が通用せず、有力家族は民衆の意見をまとめているわけではない。
有力家族の意見に民衆が賛同しているに過ぎないのだ。
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そこから民衆の意見を見出すのは難しい。
「今わかっているのは、パルテ王國民が我が國に否を突き付けたことだけだ」
特に今回の件ではパルテ王國民の「否」に、王家を含め、有力家族が頷くしかない狀況になっている。
「使節団はニアミリア嬢を私の婚約者とすることで國民を抑え、戦爭を回避するよう訴えてきた」
「國が親戚関係になればげられているという認識が薄れるからですわね」
シルヴェスターは婚約者という言葉を使ったが、それは即ち王太子妃になるということだ。
パルテ王國で治まりがつかない以上、解決策の一つとしては理解できる。
「問題はパルテ王國の姿勢が強固なところにある。ニアミリア嬢が婚約者にならないなら、戦爭は不可避だと言ってきた」
「ですが戦爭をしたところで、パルテ王國に勝ち目はないでしょう?」
戦士一人一人のポテンシャルや戦が優れていても、國の規模が違い過ぎる。
兵力で考えればハーランド王國のほうが數倍上なのだ。
これは誰の目にも明らかだった。
「そして我が國も得をせぬ」
戦爭は、戦略が失敗した最後の手段とされる。
何故なら戦爭を起こす時點でなくない損失を被ることになるからだ。
必要になる武などの資、そして一番の痛手は働き手が兵士として徴集されることだった。ハーランド王國には職業軍人も存在するが、彼らだけで戦爭ができるほどではない。
今回の件でいえは、辺境伯領を筆頭に周辺地域から領民が兵として集められるだろう。働き手の數が減れば、必然的に経済活は停滯する。
本來なら敗戦國にその負債を負わすのだが、パルテ王國に十分な返済能力があるとは考えられない。
加えて、國民の気質が他國と大きく異なっていた。
「パルテ王國民は戦士として、最後の一人になっても戦いを止めぬだろう」
勝敗が決まったところで関係ないのだ。
元々負けが見えている戦いすら辭さないと主張しているのだから。
ハーランド王國はパルテ王國民を絶やしにしない限り、安心してパルテ王國領土を回収することもままならない。
また紛爭地帯からも勢力がびてくるのは目に見えていた。
もし戦爭となれば、互いに損をするだけの戦となる。
自分でも眉間にシワが寄っていることがわかったのか、シルヴェスターが親指で眉をむ。
そして改めてクラウディアの青い瞳を見つめると言い切った。
「私がニアミリア嬢と婚約する未來はない。パルテ王國との戦爭もだ」
シルヴェスターは揺るぎなかった。
黃金の瞳の力強さに、心臓を摑まれる。
「何としても方法を探す。そのためには一旦、婚約者候補とすることで時間を稼ぐ必要がある」
これはシルヴェスターに限ったことではなく、父親を含めた反対派の意見だという。
悪い言い方をすれば問題の先延ばしだが、こうでもしない限り今にも戦爭の火蓋が切って落とされるのだ。
「ことが決するまで、不安にさせるし心配もかけるだろう。だが私を信じて待っていてほしい」
「わかりましたわ。わたくしにできることがあれば、何でもおっしゃってくださいませ」
一人で戦う必要はありません、そう言って微笑めばキスで応えられた。
「ありがとう」
優しい笑みに、その場でけそうになる。
けれどクラウディアもうかうかしていられない。
ニアミリアとの流を目的とするお茶會が後日に控えていた。
(わたくしも報を集めましょう)
自分なりのやり方で。
予想外の出來事に焦る心は、シルヴェスターが消してくれた。
クラウディアも一人ではないのだ。
(大丈夫、シルと二人なら乗り越えられるわ)
窓から見えた夕日は、すっかり姿を消していた。
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