《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》11.悪役令嬢はお茶會に向かう

王城の庭園で開催されるお茶會には、名だたる貴族令嬢たちが招かれていた。

馬車を降り、庭園へ続く列柱廊を歩く。

規則的に並ぶ柱は整備された林道を連想させた。柱の一本一本が大きく、木のように聳えているからだろう。

(あれから何度通ったかしら)

馬車から廊下へ降りると、いつかの景が蘇った。

異母妹(フェルミナ)を追ってシルヴェスターと二人で歩いたお茶會の帰り、はじめて彼のを見た気がした。

全てをれられなかった當時の自分に苦笑がれる。

(まさか本心だったなんて)

からかわれているだけだと思っていた。

けれど、あのときのシルヴェスターは本気だったのだ。

手前の柱にれる。

(ファーストキスにしては、ムードも何もあったものではなかったわね)

的におこなわれたそれに驚くばかりか、冷ややかな反応を返してしまった。

振り返ればお互いに反省しかない思い出だ。

到底、人に自慢できるものではない。

(おかげで二人だけの思い出になっているから良かったのかしら)

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誰に茶化されることもなく、二人で思いだしては自分たちの未さに悶える。

(わたくしとシルだけの)

記憶が蘇ったのは、この先にニアミリアがいるからだろうか。

先日、遂にニアミリアの婚約者候補りが発表された。

わかっていたことだし、シルヴェスターとも話して心の整理はついている。不安はないと言い切りたいところだけれど、まだ先日の衝撃をけとめきれていない自分がいるのかもしれない。

何せ衝撃はニアミリアに限ったことではなかった。

(大丈夫、わたくしは一人ではないもの)

シルヴェスター然り、パルテ王國の件では父親もヴァージルもいてくれている。

會場である庭園にいるのもニアミリアだけではない。

ルイーゼやシャーロットをはじめ、馴染みの令嬢たちがいるのだ。

気持ちをそちらへ向ければ、早くも庭園から風にのって賑やかな聲が屆いた。誰かが談笑しているようだ。

列柱廊を歩く他の令嬢の足取りも軽い。

(見頃の花は何かしら)

ちょうど季節が移り変わったところで、庭園も秋の仕様へと様変わりしているに違いない。

天気に恵まれたのもあって目にも楽しいだろうと足を進める。

そこへ突然、鋭い聲が響いた。

「顔を合わせないよう手配を頼んだでしょう!?」

「も、申し訳ありません!」

「全く、使えない子!」

何事かと後ろを振り向けば、馬車から降りるウェンディがいた。

どうやら到著時刻が被ったらしい。

クラウディアと目が合うなり顔を背け、廊下を急ごうとする。

しかし降りる瞬間、変に勢いがついてしまったのか、手伝っていたウェンディの侍が転んだ。

「きゃっ」

「人前で恥をかかせるなんて、どこまで愚鈍なのっ」

無事だったウェンディは侍を一睨みすると、そのまま歩き去ってしまう。

(人が変わったようだわ)

自分が知らなかっただけで、これが本來の彼なのだろうか。

いつも靜かに微笑んでいた姿が噓のようである。

令嬢や他家の使用人がいる前で叱責されたウェンディの侍は、顔を真っ赤にさせて震えていた。

ポタポタと床に染みができるのを見て、クラウディアはを屈めてハンカチを差し出す。

「お使いになって」

「へ……リンジー公爵令嬢!? も、申し訳ありません!」

まさかクラウディアから話しかけられると思っていなかったのか、目を大きく見開いたまま侍はお門違いな謝罪を口にする。

このままではハンカチも使われなさそうだったため、クラウディア自ら彼の濡れた頬へハンカチを押し當てた。

「謝る必要はなくてよ。ケガはなくて?」

「はひっ」

張のおかげか涙は止まっていた。

それでもまた必要になるかもしれないと、ハンカチを侍に握らせる。

「あなたも一度は屋敷へ戻られるのかしら?」

個人主催のお茶會では同行した騎士や侍用の待機所があるものの、王城にはない。

代わりに人員が用意されていた。

屋敷へ連絡をれたければ早馬で伝令を出せるし、運悪くヒールが折れてもすぐに職人が対処してくれる。

全て無償でおこなわれるため、家計が苦しい家はわざと修理が必要なもので參加するという噂もあるぐらいだ。

便利ではあるが、クラウディアは裏の意図があるように思えてならない。

(お茶會の外で何があったのかまで王家に筒抜けだわ)

誰がどこでどんな予定外のことに見舞われたのか。

一つ一つは些細な報でも有事にはどう化けるかわからない。

現に小さな報を掛け合わせることで、クラウディアとシルヴェスターはナイジェル樞機卿が運営する違法カジノの拠點を見つけ出した。

それもあって、つい深読みしてしまう。

平靜を取り戻すのに時間が必要だったのか、間を置いてウェンディの侍が口を開く。

「は、はい、馬車で一度屋敷へ戻って、帰宅時間にまた來る予定です」

「わかったわ、では馬車に乗りましょうか」

クラウディアの場合、ヘレンは連れてきていない。

人手が必要なのは馬車の乗り降りくらいで、それなら者に頼めば済む話だからだ。

だからかクラウディアが王城へ向かうときに限って、者擔當の中で誰が送迎するか爭いが起こっていたりする。

(大抵のことは一人でできるのだけれど、それが許される分ではないのよね)

娼婦時代に積んだ経験のおかげでドレスも著ようと思えば一人で著られる。

馬車の乗り降りだってそうだ。

公爵令嬢である手前、外聞のために人を使っているに過ぎない。

人の手を借りるのも貴族にとっては作法の一つだった。借りないと野蠻と言われるほどだ。

クラウディアがウェンディの侍の手を取ると、再度彼は慌てだした。

「えっ、えぇっ!? だ、大丈夫です! 一人で……いたっ」

を引いて侍が立ち上がろうとしたときだった。

倒れた際に足首でも捻ったのかバランスを崩す。

危ない、と思ったときには、で侍けとめていた。

咄嗟に足を開いて重心を固定できた自分を褒めたい。

「っ……!?」

クラウディアのに顔を埋めることになった侍は目を白黒させるばかりだ。

「無理をしてはダメよ。し手伝ってもらえるかしら?」

前半は侍に、後半は待機していた者に向けた言葉だ。

者はクラウディアの視線をけると、はい! と勢い良く返事しながら駆け寄った。

「彼を馬車へ乗せてくださるかしら」

「お任せください!」

流石のクラウディアもケガ人を抱えたままではけない。者が侍に肩を貸すことで、この場はことなきを得た。

著席した侍が何かを発する前に先制する。

「わたくしのことは気にしなくて大丈夫よ。ハンカチも差し上げるわ。ウェンディ様に黙っていたほうがあなたのためでしょう」

先ほど見た様子からも、このことをウェンディが知れば苛烈な反応を見せそうだった。

者にも同じことを言い含めて馬車を見送る。

顔が見えている間、ウェンディの侍はずっとお辭儀を繰り返した。

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