《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》16.悪役令嬢は王太子殿下と問題に立ち向かう

空高くある太が、地面に馬の影を描く。

揺れる馬車の中には二人の高貴な男がいた。

「こうしてシルと王都を離れることになるとは思いませんでしたわ」

「表向き、ディアはここにおらぬがな」

馬車には王家の紋章が施され、周囲は馬に乗った騎士たちによって固められている。

クラウディアはお忍びで、公務へ出掛けるシルヴェスターに便乗していた。

地位にとらわれず自由にくためには分を隠すしかなく、クラウディアが王都を出たことは匿されている。

自由への対価として危険度は増すけれど、できる安全対策は全てとっていた。

二人の目的は、等しく報収集だ。

途中で別れることになるが、各々でパルテ王國との戦爭回避に向けた報を集める予定だった。

といってもクラウディアのほうは知見を広める意味合いが強く、表立って活するわけではない。

「王都の事件についてはルキに任せたのか」

「ええ、蛇の道は蛇。彼らのほうが荒事には詳しいですから」

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王都の事件とは、娼館帰りに貴族が強盜殺人に遭った件だ。

被害者は貴族派で、ウェンディは犯罪ギルドを使った襲撃事件だと言い、黒幕はクラウディアだと糾弾した。

何故そのような言いがかりをつけられたのかはわからない。

けれどウェンディが拠を持っていているのは確かだった。

の発言に事実も含まれているとなれば検証する余地はある。

「新しい犯罪ギルドの発足、そのトップがわたくしであることは事実です。だからといってウェンディ様が持っている報が全て正しいとは限りませんけれど」

現に襲撃事件の黒幕がクラウディアだという部分は完全な言いがかりだ。

それで見過ごしそうになるが、犯罪ギルドを使ったという點は否定しきれない。

よその犯罪ギルドがいた可能はあり、警ら隊ではその線を追うのが難しかった。

「ルキの働きに期待か」

「本人はとても乗り気でしたわ」

誰かから命令されるのは嫌がりそうなのに、予想に反してルキは快諾した。

彼に任せても何もわからなかったら、クラウディアとしては諦めるしかない。

「ウェンディ嬢がどこから報を得たのか知りたいところだな」

「請うても教えてはいただけないでしょうね……」

アラカネル連合王國との結託については、クラウディアの商館が現地にあることから、いくらでも邪推できる。

だが犯罪ギルドとの繋がりだけは令嬢の想像の域から逸していた。

「彼の周辺を洗わせてはいるが、核心に迫るには時間がかかる」

調べているのを勘付かれたら報源に逃げられるため、捜査は慎重を期した。

「こうも立て続けに問題が起こると天を仰ぎたくなりますわね」

きまぐれな神様に試されているのか。

どちらかというと力したい気分のほうが勝っているけれど。

「ウェンディ嬢の件は無視もできるが、王族派であるトーマス伯爵が関わっているとなると厄介だからな」

リンジー公爵家は中立だが、クラウディア自はパーティーで王族派に囲まれている。

それでもトーマス伯爵はクラウディアが気にらないらしい。

「ニアミリア嬢のことは、トーマス伯爵からウェンディ嬢へ報が流れたのだろう」

あの場で新たな婚約者候補について知る者は限られる。

反対派は認めたくない故に口を噤むが、賛派は逆に緩くなるものだ。

「トーマス伯爵は貴族派と手を結ぶでしょうか?」

「リンジー公爵家の権力を削ぐためなら、その一點においてだけ手を結ぶかもしれぬ。下手をするとパルテ王國ともな」

「パルテ王國ともですか?」

「あの老獪のことだ、ディアとニアミリア嬢が潰し合って、ルイーゼ嬢が婚約者におさまることを狙っていても不思議ではない」

パルテ王國のことを、所詮は小國と侮っている節があるという。

「ニアミリア嬢が邪魔になれば、戦爭になったとしても潰せると楽観視しているのだ。被害者が出ることを一切考えておらぬ」

「ご自の領地に関すること以外は他人事ですのね」

トーマス伯爵家の領地は國境から離れた中部に位置するため危機意識がないのだろう。

「戦爭に対する志では、我が國の貴族よりパルテ王國民のほうが高いかもしれぬな」

貴族全員がトーマス伯爵と同じ考えではない。

しかし平和が続いているハーランド王國では、戦爭を自分のことのように考える意識が低くなっている現実があった。

クラウディアも本で読んだ知識しかない。

だから今回、パルテ王國との國境があるサスリール辺境伯領を訪ねることにしたのだ。

「ディア、視察が有意義なものになることを私も願うが、くれぐれも無理はしないでくれ」

「心得ております。お兄様からも散々言われましたわ」

戦爭という二文字がちらついている以上、パルテ王國へ対しては警戒レベルが上がる。

それでもまだ外段階にあり、パルテ王國の軍はいていない。

クラウディアが滯在する予定の町から國境までにはいくつもの砦があり、仮に戦線が開かれたとしても、すぐに脅威が迫ることはなかった。

現場を見て経験を積むという意味では、今が絶好の機會でもあった。

しでも危険を察したら帰ります。それに同行している者たちが滯在を許さないでしょう」

この馬車には二人だけだが、周りを囲む護衛騎士たちの後ろにも馬車が連なっていた。

ちなみにいつも通りシルヴェスターにはトリスタンが同行しているのだが、途中までクラウディアが同乗すると決まった結果、後続の馬車へ移させられた。

「だといいのだがな。ディアに強く言われると、拒める者がいなさそうなのが考えものだ」

「逆を言うなら、同行者を危険に曬してまで無理はしませんわ」

「なるほど、そちらのほうが納得できるな」

「わたくし無茶をした覚えはないのですけれど?」

「その通りだが、君は行力があるからどうしても釘を刺したくなる。今、サスリール辺境伯領を視察しようと考える令嬢は君ぐらいなものだろう?」

「今だからこそ得られるものがあると思うのです」

平時では意味がない。

張を強いられる空気があるからこそ、クラウディアは視察を決めたのだった。

「ディアの言い分はわかる。私も良い機會だと思うしな」

ハーランド王國においては脅威がないことをシルヴェスターも理解していた。

経験を積むという意味では、いつもと違う狀況が重要になる。

「だからといって心配はなくならない」

そっと手を握られる。

花にれるような優しい力加減に、いつもはキツい目が下がった。

「ふふ、心配はお互い様ですわね。シルも無理はしないでくださいませ」

クラウディアも手を握り返す。

伝わってくる溫は、お互いを鼓舞するようでもあった。

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