《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》19.悪役令嬢は侍と時間を共有する

「なんて大きな石なの……!」

木々の間を通り抜けると、自分の三倍ほど高さのある巨石が姿を見せる。

木は、巨石の周囲に生えているに過ぎなかった。

「ふふ、驚かれました? しかもこの巨石には謎があるんです」

「謎が?」

我が意を得たりとヘレンは楽しそうに頷く。

「普通なら元からここにあったと考えますよね? だけどこの巨石だけ、周囲にある石と種類が違うんです」

「まさか……運ばれてきたというの?」

それが難しいことは一目瞭然だった。

巨石に継ぎ目がないことから、丸々一つの石であることがわかる。これだけ大きなものを人が運べるとは思えない。

馬や牛を使おうにも、重みで先に土臺が壊れてしまうだろう。

「どうしてここだけ石の種類が違うのかは、わかっていないんです。偶然ここだけ違う石ができたのかもしれません。學者さんが來て調べたこともあるんですけど、解明できませんでした」

ヘレンは懐かしそうにごつごつした巖をでる。

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「子どもたちの遊び場でもあるんですよ」

巨石はなだらかな臺形になっており、上部の面積が小さい。

表面には足をかけられるほどの凹凸があるため、子どもがよく登って遊んでいるという。

「この高さを!?」

「驚きますよね。わたしもはじめて訪れたとき、石の上から聲をかけられてビックリしました」

ヘレンも登ってみたかったが侍が許してくれなかったという。

「本當だ、見た目以上に登りやすい」

試しにとブライアンが足をかける。

聞けば安全確認のため、騎士も登ったという。

「わたくしも登れるかしら?」

「お止めくださいね」

「ヘレンも一緒にどう?」

「魅力的なおいですが、騎士たちが全力で首を橫へ振ってます」

「ぼくが足場になりましょうか?」

「お斷りするわ」

レステーアの提案に、今度はクラウディアが首を振る。そこまでして登りたいわけでもない。

改めて巨石を見上げ、ほう、と息をつく。

「ヘレンは特別なものではないと言っていたけれど、十分特別な景だと思うわ」

「あ、目的地はここではないんです」

「そうなの?」

てっきり巨石を見せたかったのかと思っていた。違うと言われて首を傾げる。

「もうし先に見晴らしの良い場所があるんです」

ヘレンに案され、一同は足並みを揃えて歩きだす。

巨石の奧には、まだ坂道が続いていた。

辿り著いた頂上には木がなく、周囲の風景が一できる。

視界を遮るのは背後にある巨石ぐらいだ。

馬車から眺めたのと同じ、何の変哲もない田園風景が広がっている。

「これがお見せしたかった景です」

ヘレンが言っていた通り、確かに特別なものは何もなかった。

けれどに抱いているは理解できた。

涼やかな風がまとめた髪をでていく。

ほっと肩から力が抜けるような景には、クラウディアも覚えがあった。

領地に帰ると時間の流れがゆっくりじられる覚と似ている。

王都の慌ただしさから離れた令嬢時代のヘレンも、自分と同じだったのかもしれない。

「とても良い景だわ」

心からの言葉はヘレンにも伝わったようで、嬉しそうな笑みが返ってくる。

「平凡だから安らげるというか、何もない日常の大切さを教えられている気がするんです」

特別なことがなくてもいい。

ただ時間の流れにを任せているだけでも構わない。

ありのままでいいのだと許されている気分になるのだとヘレンは語る。

しい人)

を眺めるヘレンの橫顔は慈に満ち、溢れたとなって煌めいていた。

逆行前から好きだった表が熱くなる。

いつ、どこにいても、ヘレンは変わらない。

一緒にいられることが、ただただ嬉しかった。

「そして、そんな生活を守れたらと思っていました」

貴族として領主として、領民の平凡を守りたいと。

結局は葉わなかったけれど、今は王家が守ってくれている。

全く変わっていない景が何よりの証拠だった。

「この國に生まれて良かったと、昨日屋敷で元の使用人たちから話を聞いて実しました」

だから、とヘレンがそっとクラウディアの手を取る。

「わたしはクラウディア様と共に行きます」

自分の意思で行するのが許されるなら。今ある日常を守りたい。

ヘレンの瞳が正面から青い瞳を見つめる。

クラウディアの答えは決まっていた。

「ありがとう。これからもよろしくね」

「はいっ、全全霊をかけて仕えさせていただきます!」

ここには見知った者しかいないので、すっかりヘレンは侍の顔だ。けれど逆行後に再會したときの寂しさはもうない。

今ではすっかりヘレンは侍であり、友人であり、お姉様だった。

だから同じ景を見られるのだ。

友人としての顔は、次の場所に期待する。

「では商店街のほうへ向かいましょうか」

「焼きたてのパンがいただけるお店にご案しますね」

「そこでは『ディー』と呼ぶのよ?」

「う、はい……」

早くも照れるヘレンにつられて、クラウディアも面映ゆくなる。

がくすぐったくて仕方ない。

けれど慣れてしまったら、これもじられなくなる。

(慣れたいような慣れたくないような)

何とも言えないワガママを抱いたまま、クラウディアは丘をあとにした。

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