《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》21.暗殺者は見えない影と戦う

「テメェのは丈夫らしいが、頸脈はどうだ?」

同時に、手元に殘った酒瓶の鋭利な部分を首へ押し付ける。

どれだけ鍛えていても人間の急所は変わらない。

またどうやって人はくのか、の仕組みをルキは知していた。時間と共に男の首筋からはが滲んでいく。

命の危険を本能で察したのか、男はきを止め、を戦慄かせた。

「なっ、なっ」

しでもくと死ぬぞ? おれは構わねぇけどな」

冷えたルキの視線が男から仲間たちへと一巡する。

のないグレーの瞳に、酒のった頭でも全員が察した。

目の前の男は本気だと。

躊躇なく人を殺せる人間だと理解する。

ルキは力自慢のトーヤに比べて細だ。実際、腕力ではトーヤに勝てない。

だが戦闘においてはルキのほうが上だった。

相手を殺すに関しては、ローズガーデンで右に出る者はいない。

黒裝束の死神が笑う。

「ここをどこだと思ってるんだ? よそ者が好き勝手できるわけねぇだろ」

Advertisement

言うなり手元の酒瓶をかし、対角線上になるよう男の頭を二度叩きつけた。

どれだけ巨を誇っていても、脳を揺らされると人は弱い。

當たり前のように脳しんとうを起こした男には目もくれず、ルキは黒いマントの裾を踴らせる。

仲間に呼ばれた時點で、全員を無傷で帰すつもりなど頭なかった。

いたルキに男の仲間たちも抵抗を試みるが、一手遅い。

ルキの手元でく。

「なぁ、ここをどこだと思ってるんだ?」

同じ問いが発せられると、ルキの一番近くにいた人聲と共に床へ頽れた。

両足のふくらはぎにはナイフが突き刺さっている。

常日頃からルキは丸腰で出歩かない。

殘っている男の仲間が口から泡を飛ばす。

「ひ、卑怯だぞ!」

「生きるのに、卑怯もクソもあるかよ」

酔っ払い同士のケンカなら得法度だろう。

しかし彼らが潰したのは、橫暴を見かねて退店を促したルキの仲間だ。

「先に一線を越えたのはそっちだろうが」

「オレらの組織が黙ってねぇぞ!」

「あはははははっ」

遂に出たフレーズに笑いを止められない。

(こいつらは正真正銘のバカだ)

自分たちの狀況をまるで理解していないのだから。

ルキが笑いを堪えられずきを止めたのを見て、武を手にする姿も稽だった。

二人でならルキを倒せると思っているのだろう。

(お花畑にもほどがあんだろ)

よその縄張りに來て、何故姿を見せている者しか敵はいないと考えられるのか。

彼らが取り囲まれていないのは、ルキの邪魔をしないよう仲間が控えているだけだというのに。

男たちがを低くする。

相手を襲う前の予備作を見たルキは、口角を上げて言い放った。

「わかってないようだから教えてやるよ。ここはローズガーデンの縄張りだ」

聞こえていないのか、ルキを襲うのに必死なのか、止まることなく一人は手にした酒瓶を振るい、もう一人はナイフを突き出す。

雑な連攜を崩すのは容易かった。

酒場にはテーブルと椅子がある。先に男たちが暴れたせいで、酒瓶や皿なども床に転がったままだ。平時は綺麗にされている床も、今は足場が悪かった。

にもかかわらず、男たちは力任せに攻撃するばかりだ。

安定が崩れていることを當人たちは意に介していないが、きには如実に表れる。

(まるで呼吸が合ってねぇ)

一緒に攻撃すればそれで良いと考えているらしく、連攜の甲斐なく逃げ道はいくらでもあった。

口角を上げたままを引いて酒瓶を躱し、足元の椅子をもう一人へ蹴飛ばせばナイフは屆かない。続けざまにを回転させ、空振りした酒瓶を持つ男の顎を蹴り上げる。勢を崩した腹にもう一発。

ドタンッと鈍い音と共に床が揺れる。

あまりの手応えのなさに、ルキの表からは笑みが消えていた。

殘りは、あと一人。

目が合うと相手は顔からの気を引かせたが、手加減する理由はなかった。

振り回されるナイフの軌道を読み、手首をねじ上げる。

「ぐあっ」

「もう一つ、良いことを教えてやろうか」

そのまま男の背後へ回ると耳元で囁きながらふくらはぎを踏みつける。

子どもの力でも大人を倒せる攻撃だった。そこへ大人の力が乗る。

「ひぎぃっ」

床に這いつくばる男の後頭部を摑み、強かに打つ。

「おまえらが消えれば」

もう一度、男の後頭部を持ち上げて打つ。

「誰も報告なんざ」

もう一度。

「できねぇんだよ」

他に仲間がいても、わかるのは酒場で騒があったことだけだ。

推察はできても確証は得られない。

何故なら。

ここがローズガーデンの縄張りだからだ。

騒ぎに警ら隊が駆け付けていない現狀を考えれば、よそ者が助けを求められないことぐらい察せられるだろうに。

この世には優先順位がある。

警ら隊も數に限りがあり、暇ではない。

貴族や一般人が絡むならいざ知らず、構員同士のめ事に介する者などいないのだ。むしろ互いに潰し合えとさえ思っているだろう。

「まぁ確証もなくおまえらの組織がうちにケンカ売ろうってんなら話は別だがな?」

「いねぇだろ、んな組織」

意識を失った頭から手を離して立ち上がると、汚れを拭くためのタオルが仲間から差し出される。ローズガーデンと抗爭するなら、相応の力が必要だ。

男たちのタトゥーを見ても、すぐにどこの組織か思いだせないほどの規模なら相手にならない。

同盟を募るという手もあるが、確証のない爭いに參加したい組織など皆無だろう。

「わからねぇだろ。バカの親玉もバカかもしれねぇ」

「バカが親玉なら、それこそ敵じゃねぇよ」

「それもそうか」

控えていた仲間がよそ者を縛りつつ懐を漁るのを見守る。

(消すのは、どこのヤツらか判明してからだな)

あの口振りからも犯罪ギルドの構員なのは間違いないが念には念をれたかった。

気を抜いてローズに迷をかけることだけは避けたい。

「お、そこそこ持ってんな」

「金持ってんなら普通に遊べよ……いや、金があるから調子に乗ったのか?」

思いの外、収穫があったらしく仲間の目が輝く。

壊れたものも多いのでしでも足しになるなら助かった。

中にはルキが壊したものもあり、罪悪から店員と一緒に店を片付ける。

「気がデカくなっちまったのかねぇ。ん? これって……おい、ルキ!」

手を止めて顔を上げると、仲間が真剣な表をしていた。

「珍しいものでもあったのか?」

訊ねながら仲間の手を覗き込み、息を呑む。

「コイツら、何だってこんなもん持ってやがる」

「どうする?」

「事務所で話を訊くしかねぇな」

嫌な予があった。

杞憂であればいいががざわつく。

殺さず、話を聞ける狀態に留めておいたのは不幸中の幸いか。

(姉が気になっている事件といい、何か起こってるのは確かだ)

それもローズガーデンの縄張りで。

(こうなったらとことん調べてやる)

ナイジェル樞機卿の下で起こったことは、構員たちに深い傷跡を殘した。

だがローズのおかげで、みんな前を向けるようになったのだ。

(ようやくマシになってきたってのに邪魔されて堪るか)

自分たちの、そして何より恩人であるローズの行く手を阻む者は許さないとルキは拳を握った。

    人が読んでいる<斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください