《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》22.悪役令嬢は辺境伯領を訪問する
サスリール辺境伯領では、エバンズ商會が屋敷を用意してくれていた。
これを機に本格的な拠點を構えるとのことで、クラウディアが去ったあとは現在ある支部をこちらへ移す予定だという。
使用人がものを運びれている間、クラウディアは居間で紅茶をいただく。
「ブライアン、何から何までありがとう」
「いえいえ、むしろお役に立てて栄です!」
従業員寮としても使われることが決まっているからか、屋敷の部屋數は多く、貴族の邸宅と遜がなかった。
(儲かっているわね)
エバンズ商會の販路は王都を中心に分布している。
辺境においてもこれだけの屋敷が買える財力は大したものだ。
おかげで同行した騎士たち全員がゆっくり休めそうで、クラウディアとしては有り難い限りだが。
「他にも必要なものがあったら言ってください。屋敷の使用人はみんな口が堅いので安心してもらって大丈夫です」
「エバンズ商會が保証してくれるなら問題ないわね。道中も快適だったわ」
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シルヴェスターとは元ホスキンス伯爵領から別行となるため、サスリール辺境伯領まではエバンズ商會の馬車だけでの移だった。
裝飾がなく荷の運搬を重視した造りであったものの、想像以上に乗り心地は悪くなかった。
「中で書類仕事をすることも多いんですよ。なので仕事が捗るよう、居心地の良さにも力をれてます」
「なるほど、効率のための快適さだったのね」
「その通りです。不便がなかったようで安心しました。これから町へ出掛けますし、気になることがあれば遠慮なさらないでください。お二人も」
ブライアンが顔を巡らし、ヘレン、レステーアを見る。
目が合うと、ヘレンは律儀に頭を下げた。
「ご配慮ありがとうございます」
「我が君が満足されていれば、ぼくは問題ありません」
まだ日が高いうちに到著したこともあり、一息ついたところで視察へ向かう。
といってもクラウディアは基本馬車の中だ。
元ホスキンス伯爵領と違い、サスリール辺境伯領の町は人口が多い。
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地理的には辺境でも、他國からの流が盛んなおかげで都市が形されていた。
不必要なトラブルを避けるためにもクラウディアは人目につかない選択をした。
「こうして眺めている分には、他の町と変わりありませんわね」
大通りには賑わいがあり、建の並びも既視がある。
違う點を挙げるなら、視界の奧に砦が見えることだろうか。
「もっと殺伐とした雰囲気が流れているのかと思いましたわ」
「通りを歩く方々の表も穏やかですね」
ヘレンの答えに頷く。
ニアミリアが婚約者候補に加えられた件は公式に発表されたものの、國家間の事までは詳しく説明されていない。
平民の暮らしに影響が出ていなくても不思議ではないけれど。
「パルテ王國民からの反は伝わってないのかしら」
隣接する辺境伯領ともなると、ものだけでなく人の流も盛んだ。
王都に先立って、不穏な空気が漂っていてもおかしくないとクラウディアは考えていた。
予想が外れたのはブライアンも同じだったようで、通りに視線を向けたまま首を傾げる。
「そのようですね、おれから見ても特別変わったところはなさそうです。レステーア嬢はどうですか?」
「我が君と同意見です」
「ですよねぇ」
今回、エバンズ商會を隠れ蓑として使うのとは別に、ブライアンを頼ったのにはもう一つ理由があった。
クラウディアにはない商人としてのものの見方を參考にしたかったのだ。戦爭には兵站が欠かせない。
兵站とは後方支援の一つで、活は資の配給や整備など多岐にわたる。
特に資においては商人を介さず、自前で揃えるのは無理な話だった。
エバンズ商會には紛爭地帯を行き來している従業員もいると聞いて、獨自の見解があるなら教えてほしいと事前に頼んでいた。
ブライアン自もサスリール辺境伯領には何度も來ているという。
「いつもと同じです。これは変ですよ」
「変というと?」
「危機があまりにもなさ過ぎる気がします。表に出てないだけかもしれませんけど。商人ギルドへ行きましょう」
あちらのほうが狀況を摑めるだろうとブライアンが者に行き先を告げる。
商人ギルドは商人たちの組合だ。
國だけのものだが、行商人による報網は侮れない。
「クラウディア様は念のため騎士の方と馬車で待機していただけますか? 商人ギルドには目敏い人もいるので」
「わかったわ。わたくしの代わりにヘレンを連れて行ってもらえるかしら?」
「えっ、ヘレンさんをですか?」
ここでヘレンの名前が出てくるとは思わなかったのか、ブライアンが目を丸くする。
「わたくしの目になってもらうわ」
本當はクラウディアが出向きたかったけれど、ブライアンの助言は無視できない。
お忍びで來ている以上、存在は隠さねばならなかった。
サスリール辺境伯にバレたら、何故このタイミングで來訪したのか警戒されるだろう。
「かしこまりました。ブライアン様の侍に扮させていただきます」
「え、え、あ……お、お願いします」
わかりやすく揺するブライアンに笑みがれる。
ヘレンもどこか弟を見るような表だ。
(完全にブライアンの心はバレているわね)
商売とは違い、ことに関してブライアンは顔に出やすいのでさもありなん。
商人ギルドは、レンガ造りの堅牢な建に拠點を構えていた。
三階建てで、規則的に並ぶガラス窓の上部はアーチ形になっている。
正面に大きな看板が掲げられているため、文字さえ読めれば間違ってることはないだろう。
ブライアンとヘレンを見送り、レステーアと二人になる。
「レステーアは何か気付いて?」
外や裏工作は、レステーアの得意分野だ。
バーリ王國としても報がしいためラウルは同行に許可を出した。
「違和を覚えた程度ですね。明確な答えを出せず、申し訳ありません」
沈痛な表と共に頭を下げるレステーアに苦笑が浮かぶ。
クラウディアとて町を回っただけで収穫があるとは思っていない。
「それだけで十分よ。わたくしには普通にしか見えなかったもの」
比較対象がないので予想が外れても、こういうものだと言われたら納得してしまう。
けれどブライアンとレステーアは「違う」と気付いたのだ。
二人と一緒で良かったとをなで下ろす。
「ぼくは我が君の予想もあながち間違いではないと思います。殺伐とは言わないまでも、今まで友好関係にあった相手から突然矛を向けられたんです。領民レベルでも慌てるなり、何らかの反応があって然るべきかと」
王都を含め、辺境伯領以外の地域ではパルテ王國との流がほぼない。
そのため平民が外に鈍でも納得できた。
だがブライアンの部下がそうであるように、現地の行商人は頻繁に行き來しているのだ。
辺境伯領という他國と隣接している土地柄を考えれば、目に見える形できがあるものだとレステーアは語る。
「パルテ王國が戦爭も辭さない構えであるなら尚更です。彼らの強さは中央より辺境伯の領民のほうが詳しいでしょう。友好関係を築いているうちは、領民にとって心強い味方であったはずです。パルテ王國が壁になってくれるおかげで、領民たちは平和に暮らせるんですから」
もしパルテ王國がなければ、紛爭地帯を抑えるのは領民たちに他ならない。
「國がなければ他人事だったかもしれません。けれど現実は違う。ぼくたちより領民のほうが事に詳しくても不思議ではありません」
人の口に戸は立てられない。
けれど誰の目にも領民が危機を持っているとはじられなかった。
「ブライアン様には心當たりがあるようでした。商人の目線は平民に近いようでいて、俯瞰的に事をとらえています。彼が報を摑んできてくれるのを期待しましょう」
ルキに対しては思うところがあるレステーアだが、ブライアンのことは認めているようだ。
何が違うのかと考えた結果、ブライアンの人當たりの良さに行き著く。
商人の才がある彼は人心掌握が上手かった。導されていると気付いても悪い気がしないのだ。
これに関しては彼の人徳だろう。
僕はまた、あの鈴の音を聞く
皆さまの評価がモチベーションへとつながりますので、この作品が、少しでも気になった方は是非、高評価をお願いします。 また、作者が実力不足な為おかしな點がいくつもあるかと思われます。ご気づきの際は、是非コメントでのご指摘よろしくお願い致します。 《以下、あらすじです↓》 目を覚ますと、真っ白な天井があった。 橫には點滴がつけられていたことから、病院であることを理解したが、自分の記憶がない。 自分に関する記憶のみがないのだ。 自分が歩んできた人生そのものが抜け落ちたような感じ。 不安や、虛無感を感じながら、僕は狀況を把握するためにベットから降りた。 ーチリン、チリン その時、どこからか鈴が鳴る音が聞こえた。
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