《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》31.年上の婚約者候補は報告をける

はじまりは商人からの警鐘だった。

「北部で怪しいきがあるって、ヒューベルト、それは本當なの?」

「正確にはアラカネル連合王國も含めてです。自分の目で見てきたので間違いありません」

ハーランド王國の北部で活するヒューベルトは、長年付き合いのある商人から最近勢いのある若手だと紹介されて知り合った。

琥珀の髪に映えるは白く、碧眼が空を連想させる。

行商をしているわりに雑なところがないため、貴公子と紹介されても不思議に思わないほどだ。

そのために貴族のお得意様が多いと聞いて納得した。貴族はなりを気にする人が多い。

商品のみならず蕓にも造詣が深く、話題に事欠かないのもそのためかと。

歳が近いこともあって、打ち解けるのに時間はかからなかった。

話を続けるのが苦手なウェンディにとって、ヒューベルトの話は尊敬に値するものでもあった。

「滅多なことはおっしゃらないほうがいいわ。あなたが罰せられでもしたら」

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「話したのはウェンディ様がはじめてです。これ以上、自分だけに留めておくのが辛くて……すみません、失されましたよね」

「そんなことないわ!」

いつも朗らかなヒューベルトが涙を浮かべるのを見て、慌てて首を振る。男の苦悶に満ちた姿を目の當たりにしたのは、これがはじめてだった。

父親をはじめ、ウェンディの前で弱音を吐く人はいない。

誰もが大人しいウェンディを守ろうとするからだ。

(ヒューベルトはわたくしを頼ってくださったのね)

「年甲斐もなくウェンディ様に甘えてしまいました。このことはお忘れください」

「そんなことおっしゃらないで。歳だって五つ上なだけではありませんか」

「自分の歳を正確に覚えてくださっていたんですね」

涙が殘った満面の笑みに、心臓が早鐘を打つ。

照れが勝って視線を逸らさずにはいられなかった。

「ヒューベルトからお聞きしたお話は全て覚えていますわ」

貴族の相手をすることに慣れているにもかかわらず、彼の人生は冒険に満ち溢れていた。

ウェンディだけでなく侍もヒューベルトの話を心待ちにするほどだ。

あまりの人気に父親から釘を刺されたのを思いだす。

(実力があっても彼は平民で、わたくしはシルヴェスター様の婚約者候補……)

関係は客と商人に留めなければならない。

頭ではわかっている。

けれど友人になることも許されないのかと抗う心があった。

「嬉しいです。自分もウェンディ様がおっしゃったことは全て覚えています。髪と同じスミレの花が好きなのも」

落ち著いたのか、ヒューベルトに優しい笑みが戻る。

そして再度、失言を謝った。

「すみません、ウェンディ様になら聞いていただけると……いえ、これも言い訳に過ぎませんね」

「いいえ、悩みがあるなら、どうぞおっしゃってください。わたくしが気にし過ぎました」

自分の小心さが嫌になる。

ヒューベルトは勇気を出して打ち明けてくれたというのに。

「やはりウェンディ様は頼りになるお方です。平民の自分にも親に接してくださって……どう謝したら良いか」

極まった姿にを打たれる。

今日、こうして打ち明けられるまでは彼の堂々とした姿しか知らなかった。その裏側には繊細な一面があったのだ。

(わたくしは本當に世間知らずだわ)

表面的なことしかわからず、本質を理解できていない。

人にはそれぞれ悩みがあって當たり前だということでさえ、こうして目の前に突き付けられなければ気付けないのだ。

(クラウディア様なら、もっと早くヒューベルトの助けになったかしら)

完璧な淑と名高い、もう一人の婚約者候補。

クラウディアの存在は誰も無視できない。

しい見た目だけでなく、心も良いことは學園に通う生徒ならみなが知っていた。

王族派、貴族派で差別せず公平に扱う彼の行は、中立派に座するリンジー公爵家そのものだ。ウェンディが共に在籍したのは一年だけだったけれど、後輩の令嬢からは未だに名聲が屆けられる。

ヒューベルトから曇りのない目差しを向けられると居たたまれなくなるのは、自分より上だと思える彼がいるからだろうか。

「ウェンディ様のおっしゃる通り、口に出して良い話でもありません。そこで、その、ウェンディ様さえよろしければ、手紙を送らせていただいてもよろしいでしょうか? 外聞を気にされるようでしたら商品目録として送らせていただきますので」

上目遣いでたどたどしく紡がれる言葉に、一瞬、思考が止まる。

(だ、男相手に可いと思ってしまうのは失禮よね!?)

また新たなヒューベルトの一面を知ってしまった。

恥ずかしそうに視線を外されると、ウェンディも負けないくらい落ち著きがなくなる。

「も、もちろんですわ! お手紙、えっと、商品目録! 楽しみにしておりますっ」

自分でも驚くくらい聲が出て、恥に頬が染まる。

耳が熱くなって焼き切れそうだった。

そのあと、どう解散したのかは覚えていない。

ただ侍から溫かい視線を送られたのは印象に殘っている。

「もしかしたら怪しいきというのも、ウェンディ様の気を引く口実だったのかもしれませんね」

それが事実だったら、どれほど良かっただろう。

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