《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》33.年上の婚約者候補はを得る

「力のない自分に、あなただけは守らせてください」

「い、今すぐにでもことを公にすれば……」

震える聲で提案する。

しかしヒューベルトは靜かに首を橫へ振った。

「確固たる証拠を提示できなければ罪には問えません。巨悪な権力に立ち向かうには、まだ不十分です」

「だとしたら、あなたはどうするのです」

「幸い、自分には信じられる仲間がいます。どうにかして、この犯罪の証拠を摑みます。もし葉うなら、自分たちの行が報われることをお祈りください」

「それしか、わたくしにはできないのですか?」

祈ることしか。

「ウェンディ様をお守りするためです。決して今日のことは他言しないように。侍にも目をらせてください。樞機卿が部下に裏切られたくらいです。どこにリンジー公爵令嬢の手の者が潛んでいるかわかりません」

去り際、頬にらかい熱を落とされる。

ウェンディは向けられた背中に手をばすことも、あとを追いかけることもできなかった。

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(わたくしは、なんて無力なの……)

◆◆◆◆◆◆

ずっと心の中で雨が降っているようだった。

父親に相談することも考えたけれど、罷免されたナイジェル樞機卿のことが頭を過る。

犯罪ギルドと繋がったクラウディアの力は、最早ウェンディには測りきれないものになっていた。

だからといっていつまでも伏せっていたら疑念を招く。

無理に笑顔を作って日常を過ごしては、夜、聲を殺して泣いた。

(ヒューベルト、どうか、どうか無事でいて)

できたのは、ヒューベルトの忠告に従い侍と距離を置き、祈ることだけだった。

過ぎる日々と共に、自責の念が積み重なっていく。

転機が訪れたのは夏に向けて長年付き合いのある商人を屋敷へ呼んだ日のことだった。ヒューベルトを紹介してくれた商人だ。もちろんそこにヒューベルトの姿はない。

わかっていたのに溜息がれそうになるのを堪えていると、商人が連れてきた使用人の一人から視線をじた。

不躾な視線に商人が使用人を叱る。

「申し訳ございません! スミレの花を思いだしてしまって」

使用人にとって、どれほど思いれがあったのだろう。

「わたくしも好きな花よ。良かったら、スミレの花にまつわるあなたの話を聞かせていただけるかしら?」

ウェンディの興味を引いたことで、使用人の表がぱぁっと明るくなった。

「実は、初の人が好きな花なんです! 殘念ながらその人とは、カフェで告白したのを最後に會うことはなくなったんですが」

「カフェで……?」

ちらりと使用人がウェンディを窺う。

使用人の意図を察し、ウェンディは取りさないようにするのがやっとだった。

語られた話は、ヒューベルトのものとしか考えられない。

「切ないお話ね。もし明るいエピソードもあるなら伺いたいわ。このあと、時間をもらってもよろしいかしら?」

後半は使用人の主人である商人へ向けたものだ。

ウェンディが気を悪くしていないならと商人は喜んでれた。

使用人をお茶に招待した先で、贈りを渡される。

「主人から預かってきました。どうぞお開けください」

言われるまま、綺麗な裝飾が施された木箱を開ける。

そこには寶石で象られたスミレのブローチが収まっていた。

け、しく輝くブローチの土臺には彼の碧眼を連想させるアクアマリンがはめられている。

「箱にも意味があるそうです。お時間があったら、お調べになってみてください」

今すぐにでも調べたい気持ちに駆られるけれど、焦りはだと自分に言い聞かせる。

未だ、どんな些細なことが彼の危険に繋がるかわからない。

そのあとは、とりとめのない話を楽しむふりをした。

自室へ戻り、侍たちを下がらせる。

一人になったところで木箱を探った。

するとブローチを収めていた土臺が外れ、中から手紙が現れる。

「これは……!」

紛れもなく、ヒューベルトの筆跡だった。

近況が綴られていることに涙が溢れる。

「良かった……無事だったのね……っ」

狀況は芳しくないものの、奴隷が拘束されている倉庫を仲間と発見したという。手紙が他の者にバレたときに備え、場所は明記されていない。

どうやらアラカネル連合王國から送られた奴隷の一時的な待機場所のようだ。

最後に、無理な願いとは理解しつつ、北部で會えないかと書かれていた。ウェンディのことを考えて指定された場所は、避暑に赴いても疑われないところだった。

もうウェンディに迷いはない。

「やっとヒューベルトに會えるのね……!」

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