《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 5 過去と未來(7)

5 過去と未來(7)

寢室は智子に使ってもらって、剛志はリビングのソファーで橫になる。

申し訳ないと渋る智子へ、剛志は笑いながら聲にしていた。

「最初はちょっと戸うかもしれないけど、まあ、話の種に寢といたらいいよ。智子ちゃんもいずれ、ベッドで眠るようになるんだろうから……」

この時不覚にも、剛志はあまりに大事なことを忘れ去っていたのだ。

ああ、あれはしまっておかなきゃな……と、一度は強く思ったのに、すっかり忘れて智子を寢室に通してしまう。

普段剛志は寢付くのに、そこそこ時間がかかる方だった。加えて衝撃続きの一日だ。だから一睡もできないくらいのことを覚悟していた。

ところがその夜、橫になってすぐウトウトし始める。きっと想像を超えた出來事に、神経が高ぶる以上に疲れ切ってしまったのだろう。

スッと意識が薄れるのをじて、あ、眠れる! と思った時だ。

誰かが自分の名を呼んだ? ストンと意識が呼び戻される。

被っていた布を引っ剝がし、顔を起こして慌てて辺りに目を向けた。

その瞬間、剛志の思考は凍りついてしまった。

智子が、すぐ目の前にいた。消したはずの明かりが點いていて、足元から彼を見下ろし立っている。その顔は怒りに満ちて、同時に泣き出しそうにも見えるのだった。

ひと月くらい前からなのだ。

伊藤との約束を果たした結果、三十六歳の智子が現れるかもしれない。

――彼はいったい、どんなになっているだろう……?

そんなことが気になって、彼は十數年ぶりに古びたアルバムを引っ張り出した。

ところがいくら眺めても、現在の智子の姿が想像できない。それでも彼は毎晩のように、何度もそのアルバムを手に取った。

そしてついさっき、智子を寢室に案した時だ。それがそのままベッドに置かれているのに気がついた。當然アルバムには二人で寫っている寫真だってある。そんなものを見られたら、この中年は剛志なんだといずれ気づいてしまうだろう。

十六歳だった剛志が二十年経ったらこんなふうになる。そんなことを知っているなんて、二十年前の自分が知ったらどんなに嫌かと思うのだ。

だからここまでくれば、そんな事実を知らないまま帰したい。

それなのに……、そう思っていたのに……。

智子は呆気なく、本當のことを知ってしまった。

「剛志……さん、なの?」

そんな震える聲がして、剛志はソファーの上で跳ね起きた。

すると二人の視線が絡み合い、途端に智子の表が大きく変わる。怒った顔が一瞬で歪み、そのまま一気に剛志のそばまで歩み寄るのだ。

最初は、意味そのものがわからない。目の前まで迫った智子が手をばし、いきなり剛志の前髪をかき上げた。熱を診る時にするように、おでこに掌が押し當てられる。そのまま暴に押し上げて、當然剛志の額はわになった。

その瞬間、智子の顔から力が抜けた。と同時に掌も力なくストンと落ちる。

この時こそ、剛志は違う何かを言うべきだった。

ところが口を衝いたのは意味不明だろう言葉ばかり。

「違うんだ……」

きっと、何も違わない。

「いや、そうだけど、でも、違うんだって」

――騙そうとしたわけじゃないんだ!

心だけでそう続け、慌てて立ち上がろうとした時だ。

「おやすみなさい」

呟くようにそう言って、智子がくるりと後ろを向いた。

そのまま寢室に駆け込んで、バタンと扉を閉めてしまった。

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