《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第144話 エクスキューショナー

右、左、上、後ろ。

一瞬の剣戟によって目まぐるしくわされる剣戟によって竹を直近で破裂させた様に火花が散りばめられる。

AGIが上がれば視力も微量ながら上がっていく。高レベルと神速によってこの大陸指折りのAGIを持つ俺の視力は大陸最高峰と言っても過言ではない。

だが、目の前の戦いは大陸最速の戦闘。

俺ですらその剣戟は、神眼による補助なしでは目に追えないものになっていた。

先程から何度かウィンガルドにデバフを飛ばしているのだが、全く當たらない。

魔法はスクナの邪魔をしそうで怖い。

ウィンガルドはスクナからの猛撃を防ぎ、かわし、いなしながら虎視眈々と俺の首を狙っている。

だが、俺には近づけない。

俺の周りには既に半球の巖が囲っており、向こうからこちらの様子は伺えない。ウィンガルドが何度か巖を切りつけているが、この巖はレベル9の土魔法で作った

いかにウィンガルドが英雄級の魔法使いといえど破壊は難しい。

それでもなお、ウィンガルドは巖を攻撃し続けている。恐らく、何かしらの突破口を探しいているのだろう。

そうはさせまいとスクナが果敢にウィンガルドに攻めている。だが、やはり技では數段ウィンガルドが上手。

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スクナの攻撃は全く當たらない。だが、ウィンガルドからはスクナにあまり攻撃しない。

一度スクナに斬撃を放った際、スクナが左手に持つ盾で弾き、ウィンガルドを吹き飛ばしたからだ。

AGIに特化させたウィンガルドと違い、スクナはMP以外の全てのステータスが上昇している。そして、そのAGIすらウィンガルドに迫る。

ウィンガルドは、盾で刀を弾かれるだけでコンマ數秒の直を強いられていた。その時はスクナの剣はギリギリのところで當たらなかったものの、次は當てる。たとえ自分のを犠牲にしてでも。

スクナの瞳にはそれだけの鬼気迫る覚悟があった。

俺的には全然良くないが、スクナが仮にウィンガルドと相打ちになればこの戦爭は終わる。ポルネシア王國の勝利という形で。ウィンガルドはそれが分かっているからこそ、スクナに決定打を放てないのだろう。

西で四十萬、東で數萬、南で三十萬。

五カ國が大軍を起こし、國の威信、存続をかけて殺し合う戦爭の結果が、ここにいる僅か三人の手に委ねられていた。

俺はなお當たらないデバフを放ち続ける。

しかし、やはり當たらない。だが、狙いはそこにはない。

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俺が膨大な魔力を使って放ったデバフ魔法。ウィンガルドに當たらなければどうなるのか。

答えは霧散する。

ホーミング機能など付いていない魔法は地面に當たった瞬間に霧散する。

では霧散した魔力はどうなるのか。

それは空中に漂う、だ。

まるで蒸発した水のように使われなかった魔力は空中に漂うのだ。

そう、それが狙い。何にも使われることのなかった魔法のれの果て。

ウィンガルドも気付いているであろう。この空中に漂う濃な魔力に。

だが、ウィンガルドには何もできない。

何故なら、ウィンガルドは「無詠唱」も「詠唱短」も持っていないから。

鍛えられた兵士ですら、走った馬に乗りながらの詠唱も難しいのだ。

いくらウィンガルドといえど、高速で移しながら、スクナの猛攻を防ぎ、俺のデバフをかわしながらの魔法詠唱など不可能だ。

じわりじわりと時間が過ぎていく。そして濃になっていく魔力。

そして……。

そろそろ魔力も充満し切ったところだ。遠慮なく行かせてもらおう。

「地突巖壁アースウォール」

地面が揺れ、スクナとウィンガルドの間に巨大な巖の壁が出來る。そしてそのまま空中の魔力を変換する。

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「大海領域シールール」

空中の魔力は一瞬にして水に変換される。

數萬以上の魔力が一瞬にして水に変わるその様は、空が一瞬にして海になったかのような錯覚を覚える。

そして、それがそのまま落ち、逃げ出そうとしていたウィンガルドを一瞬で呑み込んでしまった。

俺はそれを確認し、抜け出そうとするウィンガルドを閉じ込める為、さらに別の魔法を使う。

「風ウィンドフィルム」

スライムのように盛り上がっていた水は急速に球になっていく。そしてその中央にはウィンガルドが閉じ込められていた。

普通の人間ならばもがき苦しみ、掻きむしるような場面だが、ウィンガルドは違った。

冷靜に周りの狀況を確認し、抜け出す算段を考えているようだ。

俺はさらなる魔力を使い、風ウィンドフィルムを強固にしていく。

だが、水で呼吸を塞がれ、呪文を唱えることが出來ないウィンガルドにはどうすることもできない。

そのはずだった。

し強めにもがいたり、刀を振り回したりして逃げれない。

それが分かると、右手を左に當て、それ以外のの全てをまるで諦めたかのように水の中で力し始めた。

その様はまるで悟りを開いたかの様で優しい顔をしていた。

俺が見たことのない穏やかな表。だが、俺は……その表をする人を何度も見たことがある。

俺を抱きしめるお父様と、お母様だ。

ほんの數秒の間、かっと目を見開くとその右手で今度は右を探ると、一本のどす黒いった瓶を取り出す。

俺はその景を見て慌てて神眼を飛ばして中を確認しようとしたが、次の瞬間、蓋を無理やりこじ開けたウィンガルドが中を吸い込むように飲み干してしまった。

「っ!!?」

一瞬、まるで波紋のように広がる怖気。

「いや、これは……まさかっ!」

先程までと打って変わり、が粟立つほどの殺気と覇気を纏っていた。空気が震え、草木が騒めく。

その中心であるウィンガルドにも変化があり、筋が張り詰め、中の管が浮き、口からはしずつれ出始めている。

その外見の変貌ははったりではなく、凄まじい勢いでMPも含めた全ステータスが上昇し始める。

その景を眺めながら、俺はウィンガルドが飲んだものについて思い出していた。

話では聞いたことがある。

南方の世界最大の大國、英雄の國グロリアス大王國。

そこで行われた人工的な英雄を作り出すためのプロジェクト。

グロリアスプロジェクト。

薬によって準英雄級の天才たちを高み、英雄級、その上の逸話級、更なる高み、神話級へと昇らせようとした実験。

その実験によって作られた負の産。

グロリアス大王國にてオルレアン大陸最大のを産んだ、最悪の実験によって作られた災厄の薬。

この実験で得られたのは、人のの限界。英雄級、逸話級、神話級の人間はそのを持って生まれてくるのだと。英雄級の才能を持った人間は逸話級になることは出來ないのだと、數多のを流すことで大陸中の人間が知った。

その限界を無理矢理越えさせる忌の薬こそ、あのエクスキューショナー。

全ステータス一時的に上げる代わりに、飲んだものを必ず死へとう。

ウィンガルドは覚悟を決めたのだ。例え死ぬことになっても俺を殺すと。

既に息は限界のはずなのに、吠える様にごぼりと大きく真っ赤な泡を口から吐き出すと、を屈め、水を蹴る。

発でも起こったかの様に水が弾け、一直線に俺目掛けて飛び出す。

「まずいっ!」

ウィンドフィルムが一瞬で破れ、そのまま空気を踏みながら俺の周りを囲う巖を橫に真っ二つに斬る。

レベル9の土魔法「不壊巖球イモータルロック」があっさりと斬られた。

俺はすんでのところ巖の端っこに転がった為、事なきを得たが、見たら分かる。あれは俺を斬れる刃だと。

すぐさま上を見上げた俺の眼とウィンガルドの目が一瞬差する。

躊躇うことなるウィンガルドは地を蹴り、俺の上空に飛び、空を蹴って急降下してくる。

俺も即座に魔力を練る。

遅滯領域スロールール。

認識遅延ラグ。

振り下ろされる刃。魔法によってギリギリ見えるところまで遅くなったそれを、更に橫に転がることでなんとか避ける。

ウィンガルドは空中でほんの一瞬ではあるが戸いの表をする。

認識遅延ラグ。

ゲームのラグの様に認識を遅らせる魔法。

ウィンガルドの視點では確かに俺を真っ二つに切った様に見えたのだろう。だが、俺はを噴き出すこともなければ、そのが手元に殘ることもないのだ。

その違和にほんの一瞬、コンマ數秒の直。

それを見逃すスクナではなかった。

「キサマァァァァァァァァァ!!!」

真っ直ぐ振り落とされる剣をウィンガルドは直だけで刀を上に返す。

魔剣と魔刀が強烈にぶつかり合い、周囲に衝撃波を放つ。

「ガァァァァァァァァーー!!」

「くぉおおおぉぉぉぉぉぉぉ」

スクナは上から渾の振り下ろし。

ウィンガルドは下からのギリギリのタイミングでの防

拮抗している様に見えた二人の剣戟は、ウィンガルドの一瞬の隙、蒸せるように吐き出されたによって崩される。

らせる様に剣をずらし、一瞬の隙をついて、刀を支えていたウィンガルドの左腕を切り落とす。

「ぐっ!?」

そしてそのまま首を落とそうと剣を橫に振るが、ウィンガルドは刀を盾の様に橫にし、それをける。

橫に吹き飛び転がるウィンガルド。

絶好の機會にスクナは一歩、前に進むが、崩れる様に膝をつき、咳き込んでしまう。

完全ジ・オールが切れたのだ。

急激な負荷に、スクナは思わずけなくなってしまったのだ。

常時ならば時計で時間を完璧に測れる俺とスクナだが、この濃過ぎる空間によって時計が狂っていたのだ。

すぐ様スクナに完全ジ・オールを掛ける。

だが、千載一遇のチャンスを逃してしまった。スクナは改めて剣と盾を構え直し、ウィンガルドは切り落とした左腕があった場所は既に傷口が塞がっている。

そして俺も初日からのレベル9、10の魔法の連続使用で、MPも殘りわずかとなっている。スクナに完全ジ・オールをかけ直したことで、更に俺のMPは枯渇しかけている。

レベル10の魔法、それも一人分が限界。

これ程MPがなくなったのなんて何十年ぶりか。

「ゴホッゴホッ……、ゼェゼェゼェ……」

息でも起こしたかの様な洗い息遣いのウィンガルド。

既には限界なのだろう。當たり前だ。魔法による補助でを強化したスクナと違い、エクスキューショナーは単なるドーピング薬だ。

人間のリミッターを外させ、更に過剰な魔力の供出を強制的に行うことで本來あり得ない力を発揮させる。

今この瞬間も、MPの最高値は上がり続けているのに、保有MPは上がっては下がり続けている。

取りれるのと吐き出すのを同時に行なっているのだ。ウィンガルドのは既にぐちゃぐちゃになっているだろう。

「そこまで……、そこまでするあんたの正義ってなんなんだ!」

俺は思わずんでいた。

彼らは侵略者である。俺にとってウィンガルドが所屬するガルレアン帝國とは、平穏に暮らしていたポルネシア王國を攻め、その財産を奪い取ろうとする盜人國家である。

ガルレアン帝國は大國。使っていない土地なら腐るほどあるであろう。人もたくさんいるだろう。

食べしければ買えばいい。幾らでも売ろう。

それだけの金はあるはずだ。

それにも関わらず、戦爭という形で奪い取ろうとする。これを盜人と言わず何という。

そんな國に、それだけの力がありながら、ここまでの覚悟を示す理由が俺には分からなかった。

エクスキューショナーを持ち出してきたということは死ぬかもしれない、その可能は非常に大きいと覚悟してきたという事だ。

どんな正義があってそんな事が出來るのか。

その俺のびにウィンガルドは答える。

「甘っちょれぇこと言ってんなよクソガキが……ゴホッゴホッ……。大人には正しくないと分かっていても命をかけねぇといけない瞬間があんだよぉ」

分からない。家族を人質にでも取られているとでもいうのだろうか。

いや、そんな事をすれば、もう他の六魔將や優秀な部下からの信頼は得られない。人質というのは諸刃の剣である。

ならば何故……。

託はいい……から、死ねやぁぁぁぁぁ!」

ウィンガルドの渾の踏み込み。閃のような踏み込み。

もう俺の神眼でも、スクナでも追えない。

の速度で近づいたウィンガルドはなスクナが反応する間もなく俺の首筋に渾の刀を振り下ろす。

俺がその間、たった一つだけ魔法を唱えていた。

完全ジ・オール。

俺自へのほんの一瞬瞬きの間だけのバフ。

0.01秒未満のほんの一瞬、俺の全ステータスは、エクスキューショナーによってドーピングしたウィンガルドを上回っていた。

振り下ろされる刀を避けた俺は渾の抜き手をウィンガルドに放ち、そして……。

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