８月２８日木曜日。

夕べみんなで話し合って、明日から別荘に２泊で出掛けることになった。

響子が大喜びだった。

一度響子と六花を送り、今日は一日のんびりすることにした。

亜紀ちゃんは早速いつものスーパーに食材の注文をする。

店長さんが喜んでいたと言っていた。

早乙から電話が來た。

「今日はみんなヒマかな？」

「なんだよ！　忙しいよ！」

「そ、そうなのか」

ヒマだ。

だけど、あいつにヒマと思われたくはない。

「何かあったのか？」

「いや、俺も休暇を取れたんで、うちにみんなで來ないかなって雪野さんと話していたんだ」

「お前のうちに？」

「うん。ほら、いつも石神の家で馳走になってばかりだろう？　たまにはうちで食事をしてもらいたくて」

「おい、前にも言ったけどよ。お前たちには無理だって。こっちは大勢で作ってるから何とかやってるんだからなぁ」

「大丈夫だよ！　ランたちもいるし！」

「うーん」

「石神、來てくれよー」

し考えた。

「じゃあ、ご馳走になろう。それで、お前はいつまで休みなんだ？」

「今月一杯だ」

「そうか。良かったら、明日からうちの別荘に來ないか？」

「え！　あそこか！　本當にいいのか！」

「來てくれよ。雪野さんも來たことは無いからなぁ」

「うん！　話しておくよ」

「分かった。じゃあ、今日の夕飯をご馳走になっていいか？」

「是非來てくれ！」

早乙が嬉しそうに言った。

まあ、いつも奢られては、確かに心苦しいだろう。

「あんまり高級なものはよしてくれな」

「分かってる」

「うちは質素な食事を最近目指してるからな！」

「石神」

「なんだ？」

「また、何かの罠なのか？」

「おい！」

俺は笑ってそうではないと言った。

量はしいが、普通の食事にしてしいと頼んだ。

俺は子どもたちに、夕飯は早乙家で食べることを伝えた。

「まあ、全の量を見て食べろよな！」

「「「「はい！」」」」

「にゃー！」

ロボはいいけど。

晝は長崎ちゃんぽんを作った。

雙子がますます料理に興味を持ち、いろいろなものを作ってくれる。

よく俺に相談に來て、俺も嫌いなわけじゃないが何となくしばらく食べていなかったものを思い出す。

長崎ちゃんぽんもそうだった。

「おは何にしようか」

「なら、牛吸いはどうだ？」

「牛吸い？」

「ああ。うどんのうどん抜きってものでな」

俺は関西でのエピソードを話してやった。

「あ、味しそうだね！」

「まあ、うどんをれたっていいんだけどな。でも今日はかた焼きそばがあるから、牛吸いでいいだろう」

「「うん！」」

そういうことになった。

まあ、予想通りたっぷりの牛吸いになった。

長崎ちゃんぽんも好評で、この組み合わせはマリアージュだとみんな喜んだ。

午後はみんなでケン・ローチの『この自由な世界で』を地下で観た。

もう人種差別を否定したヨーロッパが崩壊する姿なのだと説明する。

「何人もの學者がヨーロッパの近代の終焉を唱えている。はっきりと移民をけれたことで崩壊が決定づけられたと言っている人もいる。俺もその通りだと思う」

「この映畫では主人公は移民をけれることを決意してますよね」

「そうだ。それは「正しい」ことだからな」

「でも、どうして……」

「人間は悪では滅びない。必ず「正しいこと」で滅びるんだ」

「「「「！」」」」

「俺たちも「正しい」から戦うんじゃないんだぞ」

「「「「はい！」」」」

「「業」は俺たちの大事な人間を殺そうとしている。人類が積み上げてきたしいものを破壊しようとしている。だから戦うんだ。そうはさせないためにな」

「「「「はい！」」」」

「俺は全然お上品な人間じゃないしな。まあ、だからお前らもな！」

「「「「アハハハハハ！」」」」

みんなでお茶にし、俺はその後で出掛けた。

「あれ、石神？」

早乙家に行った。

「ああ！　また心配して來てくれたのか！」

「そうだよ。気を遣わせて申し訳ないしな」

「そんな！　まあ、上がれよ」

早乙が中へれてくれた。

「柱」と「小柱」が俺を見て寄って來る。

手を挙げて簡単に挨拶して、すぐに上に行った。

いつまでも、あれらには慣れない。

悪い奴らではないのだが。

「石神さん！」

雪野さんがキッチンから出てきた。

憐花はリヴィングのベッドにいる。

「今日はすみませんね」

「いいえ！　こちらこそ、やっとちょっとはお返しが出來ると喜んでいますよ？」

「そうですか」

「また石神が心配で來たんだよ」

「そうなんですか。じゃあ、見て下さい」

俺はキッチンの中を見せてもらった。

ラン、スー、ミキが手際よくいている。

俺に挨拶をしたが、邪魔になるくらいだった。

「ああ、大丈夫そうですね」

「そんなに凝ったものは作ってませんから。石神さんのお宅のようには行かなくて申し訳ありません」

「そんなことは！　ああ、こないだメザシにしたんですよ、夕飯に」

「えぇ！」

俺は経緯を説明し、早乙と雪野さんが大笑いした。

「結構味かったですよ。ああいうのも本當にいい」

「メザシはありませんが」

「買って來ましょうか？」

笑って、今日はいいと言った。

俺は隅で、デザートのババロアを作らせてもらった。

「もう！　結局一番味しいを石神さんが作っちゃうんだから」

「そんなことはありませんよ。じゃあ、後でまたお邪魔します」

「あ！　お茶もお出ししないで！」

「いいですって。楽しみにしてますね」

俺は早乙家を出た。

６時半に來てしいということだったので、それまで亜紀ちゃんとロボと遊んだ。

《戦艦ロボ》

廊下にドミノのプレートを並べ、ロボにビー玉で倒させる。

楽しかった。

「ロボ！　波砲！」

ロボが「ばーん」を始めたので、慌てて止めた。

亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。

雙子は皇紀の作業の手伝いをしていた。

時間になったので、みんなで早乙家に向かった。

まだ日は明るいが、もうじき夕暮れになる。

「明日からの別荘も一緒だからな」

「「「「はい！」」」」

みんな楽しみだ。

「食事は上品にな！　他人の家なんだからな！」

「「「「はい！」」」」

「お前ら、いつも返事だけは最高にいいんだけどなぁ」

「「「「ワハハハハハハ！」」」」

「にゃは！」

ロボが行き先を分かっているので、走って門の前で待っている。

俺の家から２分も掛からない。

早乙が門まで迎えに來てくれた。

一緒に中にり、「柱」のいるエレベーターホールに行く。

「柱」が俺を手招きした。

「なんだ？」

「柱」は腰に両手を當て、そっくり返った。

「小柱」が足の付けのちょっと上に飛んだ。

《ぱたぱた……スポ》

足の付けのちょっと上に頭からる。

後ろの棒だけが飛び出し、羽が付けで丸くなる。

「……」

「「「「ギャハハハハハハハ！！！！」」」」

オチンチンだった。

「石神……」

早乙が俺を見ていた。

「ギャハハハハハハハ！」

笑って早乙の肩を抱いて上に上がった。

エレベーターの扉が閉まる前に、右手を付き出して親指を立ててやった。

「柱」が喜んで、両手をバンザイしていた。

取り敢えず、今日は怖くなかった。