《魔王様は學校にいきたい!》魔界の軍勢

魔王ウルリカ降臨す、その衝撃に天地萬は悉く震撼する。

「遅くなったのじゃ……」

張眉怒目の極まった形相、あるいは猛り狂う魔力、その脅威たるや筆舌に盡くし難い。怒髪天を衝く魔界の王に、世界は恐れをなして平伏す。

「ふむ……」

夜を映す漆黒の、輝く金の王冠、攜える魔剣ヴァニラクロス。いずれも魔界の王たる裝飾であり、全開戦闘に備えた裝束だ。

「魔王ウルリカだと!? 貴様は魔界に幽閉したはず、なぜ──」

「まずは皆の治療じゃな」

「──っ」

ウルリカ様は辺りをキョロキョロ、まるでガレウスのことは眼中になし。

魔剣ヴァニラクロスの半雙、片手の剣一本でガレウスの一撃をけ止めたまま、安らかな癒しの魔力を放つ。

「第七階梯……再生魔法、デモニカ・ヒール!」

癒しの魔法は瞬く間に、地平の果てまで満ち溢れる。息のある人間を余すことなく、軽傷から致命傷まで等しく、一切合切を癒し盡くす。規模は極大、効果は絶大、心底から驚くべき業だ。

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「はぁ……、溫かい……ですわ……」

「もう大丈夫じゃ、後は妾達に任せておくのじゃ」

「ううぅ、ウルリカ……」

「人間の……弱者の分際で、余を前に安堵するか」

ガレウスは自らの神格を確信する。畏怖されて然るべし、崇敬されて然るべしと確信している。故に侮蔑や安堵といった振る舞いを、不敬と斷じて許さない。

「よもや命を拾ったつもりではあるまいな!」

忌諱にれたシャルロットを裁くため、ウルリカ様を諸共に葬るため、ガレウスは刃に力を込める。

「ぬううぅ……っ」

「よもや妾を前に、ロティを狙えるとは思っておるまいの?」

地割れが生じるほどの圧力、大気を破るほどの魔力、にもかかわらず刃は僅かも沈まない。

信じ難いことにウルリカ様は、変わらず片手の剣一本でガレウスの全全霊をけ止めていた。ばかりか羽蟲や雑草を払うかの如く、こともなげに弾き返すではないか。

堪らずガレウスは距離を取る、だが即座に勢を立て直し──。

「おのれ魔人め、絶対に許さん!」

「ああも遠くまで流されようとは、完全に想定外でした」

「ムカつくけど、水の魔人を名乗るだけあるわ……えっ?」

再びの衝突かと思いきや、エリザベス、スカーレット、カイウスの割り込みである。

三人揃って全びしょ濡れ、よく見ると薄っすら凍りついている。どうやらザナロワの魔法により、遙か彼方まで押し流されていたらしい。

「はぁ……もう逃がさんぞ、観念しろ魔人!」

「ぜぇ……ぜぇ……、追い詰めた!」

「いやはや、とてつもない逃げ足の早さで……んん?」

さらにはガーランド、パルチヴァール、トーレスまで。こちらは三人揃って汗だくな上に、フラフラとよろめいている。どうやらリィアンを追いかけて、あちらこちらと走り回っていた模様。

「エリザベス……と、その他大勢なのじゃ」

「おおっ、ウルリカではないか!」

「うむ、元気そうじゃな」

「これは一どういう狀況……いや、何はともあれ心強い! 頼むウルリカ、一緒にガレウス邪教団と戦ってくれ!」

「ふーむ……いや、お主達は戦わなくてよいのじゃ」

「魔王ウルリカ……貴様の強さは理解している、だが今の言は聞き捨てならん。まさかとは思うが貴様、一人で我等を相手取るつもりか!」

「まあそうじゃな、妾一人でも戦力過多じゃが……今回は一人ではないのじゃ」

ウルリカ様は割れた夜空を、ポッカリと開いたを指差す。

何かを例えた表現ではなく、本當に夜空はひび割れており、月の真橫にが開いているのだ。甚だ驚きの景だが、真に驚くべきは──。

「ゴオオオオオッ!」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

轟く咆哮、迸る雷、悠々と月夜を翔ける黒竜。

昇る火柱、盛る紅焔、夜闇と悪徒を焼き払う炎帝。

踴る白銀、舞う星々、幾千幾萬の軌跡をる銀星。

「まさか貴様、手下を──」

「あらあらぁ、ウルリカ様を貴様呼ばわりだなんて……」

の程を知らぬ愚か者め、細切れに刻んでやろうか」

「──いつの間に!?」

眼前には怒れる魔王、気づけば背後には悪鬼と百獣。前門の虎に後門の狼、どころの生易しい狀況ではない。

「揃ったようじゃな……」

銀星エミリオ、炎帝ミーア、黒竜ドラルグ、悪鬼ジュウベエ、そして百獣ヴァーミリア。

魔界の最大戦力を従え、ウルリカ様は靜かに告げる。

「ここからは妾達が相手じゃ」

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