《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》イースティリア暗殺計畫。
「イース暗殺のきがある……?」
王太子レイダックは、その報告に眉をひそめた。
その書簡が屆けられたのは、帝國の西にある小さな子爵領からで、北西にあるロンダリィズ領と南の辺境伯領に挾まれている地域だ。
先の北との戦爭でも、數ながら兵を出した領主、ということで褒賞が與えられる筈だったが、斷ったという変わり者である。
レイダックには見慣れない筆跡で書かれた書簡は、普通ならこちらまで屆くことはないものである。
下位貴族が、上位貴族を間に挾まずに王族に直接意見を述べることは、慣例的に許されていないからだ。
ーーーだが。
かなり老齢のその領主を、父である帝王が何故か気にかけていたことを、レイダックは知っていた。
書簡が回ってきた理由を確認すると、やはり父がこちらへ屆けるように指示したらしい。
となると、これは信頼のおける報で、レイダックからイースティリアに伝えろということだろう。
ーーーあるいは、俺たちで解決しろって話か?
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イースティリアに伝えるだけなら、わざわざレイダックを通す必要はない。
アイツは宰相なので、毎日父に會っているのだ。
真意は読み切れないが、容を信頼するのなら『新婚旅行中に狙われる』という風に読み取れる。
とりあえず、レイダックがイースティリアに使いを送ると、仕事の早い宰相閣下は晝過ぎにこちらの執務室を訪れた。
相変わらず艶のある長い銀髪を、今日は後ろで括っている。
一分の隙もなく白い宰相服を著こなし、小憎らしい程にの浮かばない貌を持つ冷徹男だが……。
「なんだ、今日は機嫌が悪いな?」
馴染みとして付き合いの長いレイダックは、彼の機嫌が悪いのを瞳のから読み取った。
「視察前の準備に忙しい時に、どうやらお手隙のご様子の王太子殿下に呼び出されましたので」
「新婚旅行じゃねーのかよ」
一発目から嫌味である上に、ツッコミどころ満載の一言である。
アレリラには文句一つ言わない程に優しいくせに、王族であるレイダックに対する敬意は表面的な敬語にしかない。
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さらに、それすらも嫌味であることをレイダックはきちんと理解していた。
「まぁ、これを見ろよ。お前が當事者なんだよ」
父から送られて來た書簡を差し出すと、彼はそれを即座に読み取り、ものの數秒で返してきた。
「なるほど」
「心當たりは?」
「腐るほどありますよ」
「いや、敬語やめろよ」
二人の時に使うなと言っているのに、相當機嫌が悪そうだ。
「國政に関わっているのだ。あって當然だろう」
「その中でも、実際に手を出しそうな心當たりを聞いてんだよ」
國の予算と人手も無限ではないので、領地の嘆願を退けることもある。
そうした扱いをけた相手が逆恨みするのは良くあることだが、実際に暗殺しようという程國に関わることで恨まれているのなら、暗殺よりも先に抗議の造反が起こるだろう。
イースティリアは、考える様子すらなく、淡々と答えた。
「直近で個人的な恨みを買うとすれば、先日の薬事件だろうな」
言われて、レイダックはなるほど、と頷いた。
薬事件。
それは、下位貴族の社界から流行り始めた新しい麻薬で、簡単に言うなら『人の意識をる』ことの出來るものだ。
香(こう)として焚くことで、効力を発揮する。
香が薄ければ、會話をすることで人に思い込みを起こさせる程度だが……濃度を増すと、人の意識を鈍らせて単純な命令に従わせることが出來る。
この事件の主犯は、高位貴族に取りりたい商人だった。
手先はどこぞの魔導士だそうだが、拷問と魔による自白で得た居場所は隣國であり、裏に送った間者が踏み込んだ時には、既にもぬけの殻だったらしい。
が。
「あの件に関わった連中は全員捕縛したんじゃないのか?」
商人だけでなく、られていた者、取引して協力していた者も全員調べた筈だ。
なくとも、貴族の中にイースティリアとアレリラの追求を逃れた者はいないだろう。
「結局、大元が分かっていない。おそらく隣國王家との関わりはないだろう」
「……まぁ、そうだろうな」
隣國は、現王に代わってからかになった。
政治手腕に優れた王で、お互いの先王の代に一即発だった他國との関係を改善して、友好を結ぶまでになっている。
あの國は武の國であり、戦力はあるが、闘爭をなるべく避けるようにき続けている。
「帝國を部から破壊しようとはしない、と思うか?」
「彼らが、そのような愚に見えているのか?」
「いや。向こうの王太子を含めて、それをやろうとするバカには見えないな」
バレれば、このバルザム帝國を敵に回すことになるのだ。
レイダックの曾祖父に當たる帝王の代では、大陸は群雄割拠で爭いが絶えなかった。
多くの國家が立していた中で、特に戦好きだったと言われる曽祖父が、貪にこれを平定して取り込んでいったのである。
その中には、現在は屬國となっている聖教會の本拠地や、現ロンダリィズ領のような開拓地も含まれており、現在の帝國の繁栄に繋がっている。
最後まで抵抗して自治を勝ち取ったのは、海で隔てた南西の大公國と、今話題に上がった隣國、そしてアザーリエが嫁いだ北國だけだ。
他は、別大陸や大島などを除けば、手を出す価値もなかった小國が周辺にある程度である。
「いかに隣國が強大な戦力を有していても、我が帝國に及ぶ訳もない。その程度の勘定が出來ない相手なら、とっくに潰れているだろうな」
「そういうことだ」
レイダックは、決して隣國を侮ってはいない。
しかし頭脳と策謀において、イースティリアを超える人材はいないとも思っていた。
とてつもない財力を誇るロンダリィズ伯爵家と、広大な領地を有するウェグムンド侯爵家、そして現王家の有する軍を合わせれば、兵力の差は歴然としている。
「これは推測だが、『隣國の魔導士』とやらも、隠れ蓑(カバー)だろう。単純に足跡を追わせない為に、向こうの土地を利用しただけだ。本命が帝國の人間であってもおかしくはない」
「理由は?」
「帝國に混を招こうとしたからだ」
イースティリアの返事は、単純明快だった。
「他國が関わっているのなら、いかに慎重とはいえ一商人だけにそれを與えるとは思えん。薬を撒くルートも魔導士からの助言だったという。つまり、帝國の部事に通しているということだ」
言われて、薬の販売ルートは現王家の周辺からは外れた貴族だったり、られているのが見しづらい相手だったりした、という報告を、レイダックは思い出す。
「そもそも、薬に関係する報は元々隣國からもたらされたものだ。建前上、魔導士の報を得た時に抗議は送ったが、疑ってはいない」
「……的な相手が分からないんじゃどうしようもねーな。旅行、延期か取り止めにするか?」
「その必要はない。狙ってくることが分かっていれば、打てる手は幾らでもある」
あっさりと答えたイースティリアは、そのまま退出しようとした。
「おい、どこ行くんだ?」
「陛下の元へ。その書簡をお前に屆けた意図を聞きにいく。ついてくるなら一緒に來い」
歩みを止めようともしないイースティリアに、レイダックはやれやれと頭を橫に振る。
ーーーいやマジでコイツ。俺、王太子だぞ?
心で悪態をつきながらも、実際は大して気にもしていない。
判斷したら即行、という変わらない気質を持つ馴染みの後をくっついて行くために、レイダックは椅子から腰を上げた。
だいぶお待たせしました! 新婚旅行編です!
いきなり騒な話になってますが、特に危険な話にするつもりはありません。ごく普段通り、イースティリアとアレリラがテキパキする予定です。
よろしくお願いしまーす!
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