《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》虎影の出立

「虎影! またお前が一番多く「墮我」を狩ったな!」

「ワハハハハハ!」

虎白が當主の虎影を褒め、虎影は大きく笑った。

毎年の石神家の恒例行事「墮我」狩り。

剣士18名の中で、虎影の狩猟數は飛びぬけていた。

日頃の鍛錬でも、虎影の剣技は傑出していた。

石神家歴代の剣士の中でも、確実に上の人間だと見做されていた。

「お前にはもう誰も敵わないな」

「そんなことはねぇよ。お前らだっていずれもっと上手くなるさ」

「とても無理だよー! お前、ヘンタイ的にすげぇじゃん」

「おい!」

他の剣士も戻って來て、宴會が始まる。

広い場所に地面に筵を敷いただけの宴會だ。

一升瓶を一人ずつ持って飲んでいる。

荒々しい飲み方だ。

人が近付く気配で、全員が黙った。

いつもは顔を出さない「墮我」狩りを依頼している金山寺の法主が、しいを連れてきた。

剣士たちが立ち上がって、一斉に挨拶する。

「今年もみなさん、ご苦労様です。ああ、楽にして下さい」

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言われる前に、多くの者が座っていた。

當主の虎影が、法主に近づいた。

「虎影さん、今日は百家の巫様をお連れしたんです」

「百家の?」

初めてのことだった。

百家のことはもちろん知っている。

過去に何度も石神家と協力して「仕事」に當たったこともある。

しかし、百家の人間と直接會ったのは初めてだ。

しかも、巫と言えば百家の幹の人間だ。

滅多なことでは外にも出ないはずだった。

虎影は著替えに持って來た上著を拡げ、二人を地面に座らせた。

「わたくし、夢見で虎影様のことを見ました」

「はぁ」

百家の巫が未來視をすることは知っている。

それに自分が出てきたことに、虎影は驚いていた。

「この先、日本、いいえ世界が大きな戦爭になってまいります」

「はあ、太平洋戦爭のようなもので?」

「いいえ、あの程度の規模ではございません。本當に人間が一人も生き殘れないような凄まじい戦爭です」

「そうなんですか」

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虎影は想像も出來ない。

「一人の男がその戦爭を始めます。その者はまだ生まれてもおりませんが、必ず現われ、かつてどのような者も持ちえなかった巨大な力をそのに得て、人類の侵略を始めるのです」

「それで、俺たちが戦うと?」

石神家は強大な妖魔や化けと何度も戦って來た。

それを告げに來たのだろうか。

「そうではないのです。石神家の方々のお力は存じております。しかし、如何に石神家の方々がお強くとも、その者には遠く及びません」

「そうなんですか」

虎影には話の行方が分からなかった。

自分たちで敵わないという百家の巫が、ではどうして自分たちに會いに來たのか。

そう考えていると、法主が離れた。

自分が聞くべき容ではないことを、これから話されるということだ。

虎影はしばらく百家の巫と話し、驚くべき予言を聞いた。

そしてそれが自分の運命なのだと悟った。

その數日後。

「虎影! 今晩はお前の料理だったな!」

虎白が嬉しそうに笑っていた。

「そうだよ。だけど、何で當主の俺がお前らの飯を用意しなきゃいけないんだ?」

「ワハハハハハ!」

「當主だぞ」

「しょうがねぇだろう! お前の料理は逸品だからなぁ! 俺や他の連中なんて、獲に塩振って終わりじゃん」

「ひでぇよなぁ」

「それによ、石神家の當主ってそういうんじゃないだろ?」

「まあ、よく分からんものだよな。いらねぇんじゃねぇかとも思うけどよ」

「ダメだよ! 俺らは荒くれなんだから、誰かに従ってねぇととんでもないことになるぜ」

「そうだけどよ」

一日中剣の稽古をしているだけの集団だ。

どこの何をぶっ殺すということを決める人間がいなければならない。

世間から切り離されて好き勝手にさせてもらっているからこそ、世間様に何か一つは貢獻しなければならない。

それを決めるのが石神家の當主だった。

もはや領地ではないが、かつての石神家が治めていた広大土地は、そのまま稅収として石神家にって來る。

剣士以外の人間は田畑を持ち、仕事を持っている者もいる。

その他に、政府から特別予算が今も石神家にって來る。

莫大な資産を持っている。

まあ、誰も金などには興味もないが。

しかし、必要な場合に自由になる金があることは、確かに有難い。

剣の訓練の後は、山頂の城前で大抵煮炊きして食事を摂る。

みんなが地面に座って食べていた。

全員がいつも以上に豪勢で味い料理に喜んでいた。

酒もふんだんにある。

「みんな! 今日は俺から話がある!」

虎影が立ち上がって言った。

當主の言葉に、全員が食事を中斷して向いた。

「俺はここから出て行く! 百家の巫から言われたことに従うためだ!」

全員が立ち上がり、駆け寄って來た。

虎白は真っ先に駆け寄り、虎影の倉を摑む。

「一どういうことだぁ!」

「今話そうとしてただろう!」

虎影が虎白の顔面を毆って吹っ飛ばした。

「俺は自分の運命を知った! お前らに話せないこともあるが、納得してもらうつもりもない。俺は石神家を離れ、野に降る。そこで自分の運命に従う!」

「兄貴!」

虎白がぶ。

「虎白! お前がこれから當主だ! 頼むぞ」

「絶対ぇ嫌だ! 死んでもやらん!」

「それでもいい。ここにいる誰でも當主は務まるからな」

「兄貴! 頼むよ!」

虎影は微笑んで虎白に手をばして立たせた。

「俺はこれから世界を救う人間を育てなきゃならないそうだ」

「なんだと?」

「俺にも分からんよ。だけど、百家の巫がそれが俺の道であることを示した」

「どういうことだよ!」

そこから虎影は、い頃に観た虎のことを話した。

信じがたい話だった。

「俺が獨りで山にった時にな。大きな虎が目の前に出てきた」

全員が黙って聴いていた。

「その虎が俺に近づいて來た。俺は何も出來ずに突っ立っていたよ。不思議と恐怖は無かった」

「虎がいたのか!」

「ああ、確かにな。だけど、その虎が俺に頭を下げて、宙に飛び上がった。すると虎の後ろに數多くの虎が集まって來て、みんなで北の空へ飛んで行った。すげぇ數だったぜ。空を覆うくらいのな。ああ、虎じゃねぇモンも沢山いたな」

「兄貴、夢を見たのか?」

「そうじゃねぇ。虎が飛び上がった場所に、でかい虎の足跡があった。そこに確かにいたんだよ」

虎影はその話を誰にも話さなかった。

しかし、百家の巫がそれを虎影に話した。

「俺は東京に出る。まあ、橫浜で暮らすつもりだがな。もう剣士は終いだ。俺は普通の人間として生きる」

「虎影!」

「それが必要らしい。普通に子どもを育てて行くんだ。だから、石神家の當主はできねぇ」

全員が止めた。

しかし、虎影の決意は変わらなかった。

「俺はよ、なんだか、そういうんらしいぜ。みんな、悪いな」

翌日の早朝。

日の出前に虎影は石神家を出た。

玄関を開けると、剣士たちが全員平伏して待っていた。

「お前ら……」

虎白が一振りの刀を手渡した。

「同田貫だ」

「おい、これは!」

「これからも、石神家の當主は兄貴だ。それしかねぇ。みんなそう言ってるぜ」

「お前ら……」

虎白が笑った。

「どんなに離れてたってよ。それがなんなんだよ」

「でも、もう俺はこれから何も出來ないんだぞ」

「関係ねぇよ! 當主ってそんなもんだろう。俺が代行でしばらくやってくさ」

「虎白!」

虎影は涙を堪えた。

「虎影! なんかあったらすぐに言えよ! 飛んで行くからよ!」

「あ、ああ」

「早く、その「虎」っていうのに會いてぇな! そいつが次の石神家の當主だ!」

「ああ、そうなるといいな」

虎影は前を向いた。

「みんな! 達者でな!」

後ろで全員がまた平伏する気配がわかった。

駆け出したい気持ちを押さえ、虎影は前を向いて歩いた。

今度は涙を堪え切れなかった。

「今日は雨かぁ! 晴れの門出なのによぉ!」

震える聲でんだ。

虎白たち剣士にも雨が降った。

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