《ワルフラーン ~廃れし神話》招集

「魔王様、有難うございました!」

アルド達を目の前で、村人代表としてキリーヤは深々と頭を下げた。こういった謝は村長がやるのが通例だが、大人達は傷の手當てや死の埋葬などで大忙しなので、こちらに人員は割けない。そういう訳でキリーヤが來たのだろう。

気丈に振舞ってはいるが、目にはうっすらと涙の痕がある。やはり彼だけ平気という訳ではないようだ。それなのに、お禮の為だけに來てくれるとは、しっかりした子だ。

「ああ、気にしないでくれ。私は魔王として當然の事をしたまでだ」

「いえ、それでもお禮を。魔王様が來てくださらなければ私達はきっと、全員捕まっていたでしょう。で」

「私は全員を救った訳ではないのだ。何人も……死なせてしまった……申し訳ない」

「魔王様が謝る事など―――」

「いつまでやっとるんじゃ!」

フェリーテは両者の間で鉄扇を開き、會話を遮斷する。

「主様、幾ら何でも時間を掛けすぎじゃ。早急に調べたい事があると言い出したのは、主様じゃろう?」

そういえばそうだった。アルドには、調べなければならない事があるのだ。フェリーテに言われて気が付くとは何ともけない話だが……改めて。

アスリエルは何故、リスド大陸の鎧を著ていたのか。

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五大陸共通の特として、裝備が重複しないように工夫されていることが挙げられる。極端な話をすれば、リスド大陸は丸い兜だが、レギは四角い兜、フルシュガイドは尖った兜、といった合に、それぞれ違っているのである。勘違いしないでほしいが、これは飽くまで極端な話をしただけである。なのでレギの兜は言うほど四角くはないし、フルシュガイドは言うほど尖っていない。

それは置いておくとして。そもそもこの裝備重複回避は、合同演習などの時に、兵士を識別出來るように、尚且つスパイを発見できるように、取りれられた決まりだ。いい案ではあるかもしれないが、良く考えてみてほしい。裝備で仲間か否か識別するという事は、裝備を剝ぎ取ってしまえば、仲間の一人だと思われるという事だ。つまり、警戒されずして他の國に潛り込めるという事。

アスリエルはフルシュガイドの者だ。間違ってもリスドの兵ではない。だがリスドの鎧を著て、こちらに攻めて來た……となると。

やはりフルシュガイドとリスドが手を組んで、リタルア村を襲ったという事が考えられるだろう。

そうなると、この事件がどういった経緯を辿ったか。

推測ではあるが、おそらくこうだ。

フルシュガイドは魔人否定派の國で、リスドに殘る魔人を淘汰したいという思いは募るばかりだった。しかし、フルシュガイドは、何らかの問題があるのか、どんな行も表立って行う事はない。

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だからこそ実行した。リスドと取引をし、かに魔人を潰す為に。

では何故リスドと取引をしたのか。リスドの了解が無ければ、魔人には手を出せないなんてきまりはない……それを説明するためには、し前提を覆す必要がある。

魔人肯定派のリスドが、実は否定派だったら。そう考えてみればどうだろうか。生憎、アルドはこれとは全く別のやり方で魔人を殺していた前例を知っている為、絶対に在り得ないとは言い切れない。

し整理しよう。フルシュガイドは魔人を潰したい。そのためにリスドと取引をした。それはおそらく、魔人を潰すため―――というのは違いないだろうが、厳には、リタルア村を確実に潰すためだ。

ここで前提を覆す。肯定派のリスドが、実は否定派だったらという前提に。

リタルア村は、何を持っているか覚えているだろうか。―――そう、リスド大帝國と貿易上の繋がりを持っている。

しリタルア村の話をしよう。リタルア村は農産に定評のある村だ。その理由は多々あるが、特筆すべきは、リスド大帝國との繋がりが濃厚である事―――どんな産業にも言える事だが、幾ら生産力が高くても、いくら生産に適した環境があっても、それを売るための商売相手がいなければ、利益は皆無だ。

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本來の筋書きはこうだろう。

肯定派を裝うリスドと、とにかく魔人を淘汰したいフルシュガイド。そしてリタルア村。フルシュガイドは普通に襲うのではなく、手にれたリスドの裝備を著てリタルア村を襲う。リスドとの繋がりはリタルア村の生命線であり切る訳にはいかないので、結果として魔人は騎士に手を出すことは出來なくなる。リタルア村に殘された攻撃手段はリスドへ苦を送る事のみだが、リスドは手を出してはいないため、真っ向から否定をする事が出來る。それは噓ではないし、何より証拠が無いので、魔人は強く出る事が出來ない。そしてそのせいで王が機嫌を損ねた場合、最悪生命線を切られかねない。

それは勘弁だろう。なにせこちらが資を止めても、大帝國は多損をするだけで済むが、あちらにそれをされてしまうと資の流通が滯り、村は過疎化。時を待たずして村は滅ぶ事だろう。

そうなると魔人達は強く出られないし、抵抗も思うようには出來まい。そうして完璧なまでに詰んだ魔人は一方的に攻撃をされ続け、やがて滅ぶ……

そういう筋書きだろう。

しかしその筋書きも、アルド達が現れた事により狂った事は確かだ。かなり計算されているがそれ故に第三の要素には弱い。山のように積まれた金塊の真ん中辺りを抜くようなものだ。どれほど緻に計算されていても、いや、むしろされていればされているほど、第三の要素には弱くなる。

「作戦は、失敗を前提として考えるものだと知らんのか?」

アルドは、呆れ気味に呟いた。人間はこの策が功すると、本気で思っていたのか。

くどいようだがこれらは全て推測に過ぎない。知っているとか、未來を見た、とかそういう訳ではない。ただ、これが正解していたとして。これの通りだったとして。

その上で話を進めるならば、人間に送るべき言葉はただ一つ。

しかし、それを送る前に、真実を確かめなければならないだろう。人間に言葉を送るのは、その後だ。

「主様、次はどうなさるおつもりなんじゃ?」

フェリーテが腕を戻し、鉄扇で口元を隠した。その目が笑っている事から、全てを悟ったのだろう。流石は『妖』といった所か。

アルドはを翻し、村の外へと歩き去る。これ以上被害を出す訳にはいかない。

「ナイツに告ぐ。全員、即時大聖堂へ帰還せよ」

「……ふむ。それじゃあ、行くとするかのディナント」

「え―――ま、待ってください!」

返ろうとする二人を、キリーヤは必死で呼び止めた。

「あ、フェリーテ様にお話が……」

ディナントを前にして萎しないキリーヤを見、フェリーテはかに心した。まだ年端もいかないというのに、優に三メートルを超えるディナントを見て何のリアクションも起こさないとは。

相當肝が據わってるか、ディナント以上に恐ろしいものを知っていたために驚かなくなったか。そのどちらかだろう。

いずれにしても、すごいだ。

「ディナント、先に戻っておれ」

「わカ……大セイドう……さき……う」

ディナントの後ろ姿を一瞥した後、フェリーテは視線を移した。

「それで何用じゃ?」

「あの……えと……その」

キリーヤは上目遣いにフェリーテを見る。ディナントとの會話から時間はそう無い筈だが、彼はいらだつ様子を見せることも無く、その言葉を待っていた。

「なりたい……ともあ……わたしと……その……」

「妾と友達になりたいとな?」

「えッ? どうして……え?」

キリーヤは怪訝な顔を浮かべながら、首をかしげていた。

隠している訳ではないが、たとえ話しても『覚さとり』というモノが理解できるはずがない。ここは誤魔化した方がいいだろう。

「まあ何となくじゃよ。そんな事より、早く言わんか」

「……え? でも私の言いたいこと、フェリーテ様分かってるじゃないですか……」

「分かってるか否かなど、どうでもええんじゃ。妾は分かっていても、その言葉はお主自の口から聞きたいのじゃよ」

フェリーテは膝を曲げ、キリーヤの目線に合わせた。「ほれ、いっぺん言ってみるのじゃ」

「……わ」

「わ?」

「……私と友達になってください!」

風が凪いだ気がした。村人の騒ぐ聲も、葉がれあう音も、何もかもが聞こえなくなった気がした。

恥ずかしさも、喜びも、何もじない。それを言えたという満足だけが、このの中には殘っていた。

―――それは確かに急なお願いだったのかもしれない。他人に突然告白されるようなもので、そんなものは到底通るはずがなかった……本來は。

フェリーテが笑った。そして懐からそれを取り出し、キリーヤへと放った。

手でを作り、け止める。渡されたそれは銀の簪だった。輝くそれはどう見ても値打ちものであり、比較対象すら挙げられないほどに綺麗なだった。

「こ、これは?」

「『子の簪』じゃよ。妾からのプレゼントでもあり、ま……何じゃ。友達の証という奴じゃよ」

「……え?」

発言した彼も通るとは思っていなかったようで、その顔は非常に驚いている。當然だ。キリーヤでなければこちらもその要求を通す気は無かったのだから。その真意を彼が知る事は永遠に無いだろうが、それでも。

「は、はい!」

キリーヤは目をキラキラさせ、その簪に見惚れていた。やがてフェリーテの視線に気づいたのか、顔を赤らめながらそれを懐へとしまった。

「でもどうしてこんな高価なを?」

……まあ、當然か。無茶な要求が通ったうえに、何やらプレゼントまでされては変に勘ぐってしまうのも致し方あるまい。

し考え、フェリーテは言う。

の子は可く可憐でないとのう。それに、もしかしたら近い將來、お主は殿方と旅をするやもしれんしの」

「わ、私が男の人と……ってどういう?」

「良いかのう、キリーヤ。未來というものは分からんから、決して油斷はせず、可く可憐であろうという心構えを持つ事が、子には大切なんじゃ」

「そ、そうなんですか……」

「うむ。そういう訳じゃからこれをつけておれば、主様のような素敵な殿方に出會った時、その方に自分を印象付ける事が出來るようになるという訳じゃ、分かったかの?」

未だに理解していないような顔を浮かべているが、年頃になればその気づくだろう。今はまだ、分からなくてもいい、後に気づけさえすればいいのだ。

「じゃ、妾は帰るとするかの」

フェリーテは、キリーヤに気づかれないよう、『妖』を使い、村を去った。

簪を再び取り出し、嬉しそうに眺めているだけがそこにいる。あまりにも痕跡がないため、の他に人がいたとは、誰も思わないだろう。

リスド大聖堂。それがアルドや、アルドの忠臣カテドラル・ナイツの住む場所だ。

リタルア村より遙か北方にあるリスド大砂漠の中央にそれはある。かつては多くの信者が居たそうだが、それはもう二十年も前の話。今は只のぼろい建だ―――と言いたいが、この大聖堂はし特殊な位置に存在する。

世界には魔力濃度というものがあるのを知っているだろうか。名前の通り、その濃度が濃いなり薄いなりで魔を行使できる範囲が決まるのだが、この砂漠はその濃度が一定ではないのだ。

例を挙げてみせよう。フルシュガイドに存在する雪山は、魔力濃度が薄い。故に基本的に上位より上の魔は、使えない事はないが者自の魔力で補うため、使う魔師はいない。

キーテンに存在する巖山は、魔力濃度が極めて濃い。それ故、全ての魔が問題なく機能する。それは何十発魔を撃とうと変わらない。

そういった合に決まるのだが、この砂漠は濃度が安定しない。キーテンより濃い時もあれば、フルシュガイドより低い時もある。その原因はまだ分かっていないものの、それ以外なら一つ分かっている事がある。それは魔力濃度の変によって魔力に歪みが生じる事だ。そして、その歪んでいる部分は、まるで何もないように見える。

つまり、殆どゼロ距離まで近づかないと、リスド大聖堂は見えない。一種の隠れ蓑という訳だ。

この歪みを利用する事で、行商人や盜賊、或いは人間によって編された討伐隊など、面倒くさい人種を回避する事が出來るのは、とてもありがたい事だ。

「邪魔だ」

アルドの腕がき―――剎那。アルドの目の前から砂塵が巻き上がる。それは大聖堂の方へと向かっていき、大聖堂手前で丁度停止。砂塵が通った後は綺麗な直線が出來ていた。それは周辺の歪みも吹き飛ばしたのか、十二里は離れてるであろうここからでも、大聖堂の場所は確認出來る。

直ぐにアルドは大聖堂へと駆け出した。時間には一切余裕がない。それを証明するように、前方にある直線は、徐々に消えていき、後ろからは、歪みが追ってきていた。

直線は既に消え、辺りはいつも通り、魔力の歪みが支配していた。アルドは既に大聖堂に辿り著いているので、特に問題はない。

扉へと手を掛け、軽く押す。扉はアルドを待っていたかのように簡単に開き、アルドを中へと導いた。

そこで見たのは、外側とはまるで違う景。

割れた窓ガラスも、腐ったテーブルも、割れた瓶も無かった。床は大理石だが、ピカピカに磨き上げられていて、もはや建てたばかりのようにもじる。窓は綺麗に磨かれているし、テーブルもゴミ一つない。部屋全を見ても、ゴミらしきゴミはなく、綺麗だ。

知っている。ここは祭壇の間と呼ばれていた場所で、今は覇王の間として使っているのだ。

敬虔な信者なら正気を疑うだろう。一何をしたのかと言えば、住みやすいように元の部屋の家(長椅子等)を排除したり、道の使用用途を変えたり、部屋を水増ししたりと、々な事をしたのだ。そのせいか、大聖堂というのは外見のみで、部はもはや上流貴族の屋敷といっても過言ではない。侍五〇人が、住み込みで働いているという點も、それを助けているだろう。

いくら大聖堂とは言っても、そんなに人がるスペースがあるか、と思うだろうが、気にする事はない。 部屋を増やせばどうという事はないのだから。

未だ汚れ一つない絨毯を通り、玉座へと向かう。こんな時、侍や忠臣の類は王の帰還を労い喜ぶものだが、アルドはそれをさせていない。

何故ならば、侍達はアルドや、カテドラル・ナイツのために、々な事をほぼ不休でやってくれているからだ。自分を労わせるなんて―――言い換えれば、それはわざわざ労働効率を下げるようなもの。明らかに彼達にとっては迷であるし、そんな事をしてもらうくらいならばしっかりと働いてもらった方がアルドとしても嬉しい。そういう訳で、この大聖堂にはそういうしきたりはない。

魔王にしては優しすぎるかもしれないが、事実だ。アルドはには(それは他人の魔人も含まれる)かなり甘い。甘すぎる。

だからこそ、魔人達から絶大な信頼を得られたとも言えるが、それは甘さを容認しても良いという理由にはならない。

玉座へと座ろうとすると、背後で扉が開く音がした。一つ、二つ、三つ―――ふむ。

どうやら全員揃ったようだ。

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