《ワルフラーン ~廃れし神話》は何処へ 前編

僅か一歩で必殺の間合いまで距離を詰め、抜刀。仕込み杖ではしやりにくいが、人間の彼には十分だろう。

ウルグナはそう確信していたし、そして本來ならその自信は間違っていなかった。

「……ッ!」

ウルグナが解き放った刃は、甲高い金屬音を響かせ止まった。フィネアが雙剣でけ止めたのだ。いつの間にかこちらに面を向けているのは、信じられない程の速さと言わざるを得ない。

「この程度か?」

「まだまだですとも」

刃をらせ、間合いを取る。フィネアは逆手から順手へと替え、腕を差。

―――あの構えはフルシュガイド大帝國雙纏の構え其の一、『葬竜』だ。両腕を広げる事で相手の気を削ぎ、その隙に相手を畳みかける基本形の一つ。

久しく見ていなかったか前だが、何故彼がそれを?

ともかくいい加減な構えはやめたほうが良いだろう。ウルグナは相手のへ真っ直ぐ刃を向ける基本形の一つを取り、対応する。

「獨纏の構其の二、『龍盾』……?」

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フィネアの表が一瞬和らいだような気がした。

「何か気になる事でも?」

「―――私から仕掛けておいてすまないが、もうやめにしないか?」

その発言には、流石のウルグナも理解が出來なかった。

この、何を考えているのだ。

「……良いですよ」

ウルグナが刃を下すのを見て、フィネアも雙剣を下し―――

再び金屬音が差した。

「考える事は同じのようだな」

「ええ、全くですね」

『騎士たる者、認め合いし者以外には、剎那の隙も見せる事なかれ』。騎士団長の言葉がウルグナの頭の中で反響した。

二人は距離を取り、今度こそ刃を納めた。

「さっきはすまなかった。確認したい事があったのでな」

「いえいえ、気にしてませんよ。それで、キリーヤはどこにいるのですか?」

ウルグナ何の躊躇もなくフィネアに近づく。そこに殺気など微塵もなく、ウルグナ(アルド)を知っている者であれば、余計な警戒を抱いてしまう程には不気味だ。

フィネアが顔を引きつらせながら、一歩退く。その顔が戦闘中とあまりに差異があるからだろうか。そうだとするなら無理はない。

「…………ある男のせいで、『邂逅の森』に居るよ。それも、明日には『邂逅』する」

「―――――――」

は?

そんな事を突然言われても理解できる筈はないが、フィネアは流れるように話を続ける。

「あのは、明日には『邂逅』して、二度と帰って來られなくなるだろうな」

「―――――本気で言っているのか?」

「本気じゃないのに、お前みたいなヤバそうな奴と剣をえるとでも……」

言ってる事は尤もなので、ウルグナは何も言い返せない。珍しく複雑な表を浮かべるウルグナに、フィネアは驚いたような仕草をする。

衝撃的な出來事は大抵経験したつもりだったが、やはり世界は広い。『邂逅』現象を知っている者がいて、自分の刃をけられるものが居て、キリーヤが出てこられなくなる?

何を言っている? 何故そんな事を知っている?

幾ら考えても、答えは出そうにない。

フィネアは不可解な行が多すぎる。ウルグナの発言を咎めなかったり、戦いをっておいて、自分から停戦を申し出るなど、とにかく狂っている。人というものは腐る程見てきたが、

「こんな狂人は見た事が無いですね」

「聲に出てるぞ」

「あ」

口元を隠そうとしたが、既に遅かった。慌ててウルグナが言う。

「ま、まあそれは置いといて。……はっきり言って理解が及びません。どういう事か詳しく説明してもらえますか?」

「ああ……こちらも確実な味方がしいからな。喜んで説明をするとしよう」

そう言ってフィネアが取り出したのは、記録石。様々な報を記録できる石だ。ウルグナが興味深そうにそれを見ていると、フィネアは魔力を流し込み、空間に記録を投影した。

そこに寫っていたのは、デューク。ウルグナをい、ワドフをい、フィネアをった男。キリーヤをかなり気にっている男で、一人前の冒険者だ。

所で、記録石は國に反旗を翻した人、忘れてはならない重大な事件、或いは人を記憶する為にあるのだが、デュークにそれ程の価値があるとは正直思えない。

しかし、その考えは直ぐに否定された。映し出された景は、中々どうして衝撃的なものだったからだ。

映像には、一人のがいた。キリーヤではないようだが、そのは必死に左の方向へ逃げていた。まもなくしてが左奧へ消えていく。

直後に響く悲鳴。

畫面外へ逃げたを連れ戻したのは、男―――デュークだ。デュークは二、三度を毆り、暴に荷馬車に乗せた。

「奴隷商人……」

驚きを隠せずに、ウルグナがぽつりと呟いた。フィネアは何も言わない。

デュークはそのまま右端へと進んでいき、やがて映像から消える。同時にそこで映像が途切れた。

ウルグナはフィネアの方を改めて見遣る。

もう過小評価など出來ない。出來るはずもない。

「貴方はもしかして……」

フィネアは左を叩き、言った。

「改めて自己紹介をしよう。私はフルシュガイド大帝國教會騎士団第三調査隊記録係、フィネア・ウールランドだ。今回はこの男―――デュークを捕らえるためにわざと雇われた」

程、道理でアスリエルよりは強いはずだ。教會騎士団なら、その強さもしょうがないだろう。

「フルシュガイドの剣を使うという事は、お前も私と同じで偽っているはずだ」

―――程。まさかあの訳の分からない行にはそういう意味があったのか。

戦った事が完全に裏目に出たようだ。ウルグナは何も言えない。言い返せない。何故ならこうなったのは自分の責任であり、自分の慎重さが欠けていたからだ。

一度ため息を吐いてから、ウルグナは改まって告げる。

「私は……フルシュガイド大帝國、帝國騎士団副団長兼指導係、ウルグナ・クウィンツだ」

……大噓を。

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