《ワルフラーン ~廃れし神話》は何処へ 後編

フルシュガイドには二つの勢力がある。教會騎士団と、大帝國騎士団だ。決して敵対勢力ではないが、だからといって仲が良いという訳ではない。見かけ上の協力関係とでも言えばいいだろうか、単純に仲が悪いだけではないので、普通の敵よりも幾分か質が悪い。

しかしその強さは本で、並の魔程度が何萬居ようと、彼等に傷を付ける事は出來ない。では手を取り合って國を守れと言っても、そうはいかない。

教會騎士団団長と、大帝國騎士団団長の仲が尋常じゃなく悪いのだ。

分かりやすく言えば、カテドラル・ナイツのメグナやルセルドラグのようなもの。強すぎる個がある故に、互いをけ付けない、そんなじだ。殺し合いが起こっていないのが唯一の救い―――いや、こちらからすれば別に殺し合ってくれても良いのだが……

とにかくこの二勢力は仲が悪い。しかし互いにいじめたい訳ではないので、業務上の連攜以外は顔を合わせない。

そしてそれ故、彼等は互いの事を覚えていない。飽くまで記憶しているのは、教會の者か否か。大帝國騎士団も同様である。

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今回噓を吐くにあたって、ウルグナはそれを利用した。フルシュガイドの剣は門外不出。こうでもしなければより一層疑われるだけだった。これは仕方のない噓だ。

程、だから『龍盾』を存じな訳か」

「ええ、その通りですよ」

「しかし、何で大帝國騎士団が……? こちらに來るような任務はなかったはずだが……」

思い通りに事は運んでいる。後はもうこちらのもの。元騎士の腕の見せ所だ。

「いえね、実はここ最近、部で不思議なきがあるのですよ」

その発言に、フィネアは眉を顰めた。「きだと?」

「ええ。『私達』は頂點捕食者だ。絶滅していると言っても過言ではない魔人に、わざわざ刃を向ける必要はないはず。それは私も。そして団長も思っている事です。しかし、部ではそう思わない者もいるようで。『私達』の調査によればリスドと取引をして、かに魔人を殺して回っている者がいるようでね」

一旦言葉を切り、次の言葉を考える。

「前述した通り、『私達』がわざわざ魔人を狙う必要はありません。そんな所に兵力を向けているのなら、他國への牽制とか、國境警備に回した方が、幾らか有用でしょう。しかし実際、兵力はそちらに向かっている。何と嘆かわしい事でしょうね。人間でありながら魔人じゃくしゃを殺すなんて、みっともない。これは我が國に泥ではなく馬糞を塗りたくっているようなものだ。そう思って、『私達』は今騎士団にでここに愚か者を探しに來たという訳です」

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フィネアは納得したような表を浮かべていた。とりあえず疑いは晴れたといってもいいだろう。

ウルグナはフィネアから視線を外し、森の方向へと歩きだす。すれ違いざま、ウルグナは囁く。

「これ以上無駄な會話に費やす時間はありません。互いに聞きたい事がありそうですが、今は『私は貴方の味方である』以外は言えませんので。悪しからず」

聞きたい事はまだあったが、今はキリーヤを助ける事が先だ。疑問が解消しない程度、我慢しなくては。

「すまない」

フィネアもそれだけ言うと、もうなにも言わなくなった。

を納得させる事に、ウルグナは難しさをじてはいなかった。事実こんなに簡単で、大した手間もないのだから。

勿論、本來はこうは行かない。こうも上手く行ったのは、元フルシュガイドの騎士の経歴を持つウルグナだからだ。

『騎士団の人間は個人の意見を持つな、集団としての意見を持て』という教えがある。大事なのはつまり、如何に噓を並べ立てるかではなく―――教えを踏まえた上で意見を言う事なのだ。くどい様だがウルグナは元フルシュガイドの騎士。この程度の事など、出來て當然の事である。

まさか再び足を踏みれる事になるとは。

不機嫌になりつつ、ウルグナは邂逅の森へと足を踏みれた。猶予はフィネア曰く明日まで。つまり朝が明けるまでに見つからなければ、彼は『邂逅』してしまうという事だ。―――デュークのせいで。

怪しい怪しいとは思っていたが、まさか奴隷商人兼冒険者だったとは。予想すらしてなかったがむしろ好都合。それが本當なら、全て説明がつく。

無意識のに仕込み杖を握る手に力がった。

―――呑気にしていられるのも今のだぞ。

噴き出る黒いに、ウルグナは自ら取り込まれているかのような錯覚を覚えた。だが気にしない。今は気にしていられない。

そんな事を考えているに、再び森の中心に來てしまった。ここは最も『邂逅』の発生しやすい場所だが、先程訪れた時のように、何か起こるという訳ではない。何も起こらないという事態が発生しているとも言えるが、モノは言いようという奴だ。

「キリーヤッ」

辺りに聞こえるように、大きな聲でその名を呼ぶ。出來れば返事がしいが、世界はとても殘酷で、それ故、期待通りの事は起こらない。ある種の予定調和だ。

「キリーヤ!」

木々を全て薙ぎ払う事も考えたが、流石に言い逃れが出來ないだろう。ここは本來、神聖な場所なのだから。

そして、そんな場所を、を見つける為だけに壊すなど、ウルグナには出來そうもない。潔く諦め、思考を切り替える。

―――どの辺りが、一番可能として高いだろうか。

一番可能の高い中心に居ない事を考えると、候補は―――絞れてこない。確かに森の何処に居ようと、居る限りは『邂逅』する可能はある。だが、狙って起こそうと考えるのであれば、中心へと向かうはずだ。

そうでないとするなら、可能は二つ。犯人が『邂逅』現象について知らないか、フィネアが噓を言っているかだ。

まず、フィネアが噓を言っているという可能についてだが、結論から言うと、可能は低い。

奴隷商人デュークを追う彼は、確実な味方をしていた。先程の戦闘は、味方となりうるか、そして実力はあるのかを見極めるためのモノで、當然合格したウルグナには、協力を要請。

萬が一斷られても、キリーヤを浚い、犯人はデュークと噓を吐けば、ウルグナは協力せざるを得ない。だからフィネアが―――

中々良い流れだが、一つ欠點がある。キリーヤを探しに行こうとするウルグナに、フィネアは何の行も起こしてこないのだ。本當に協力を取り付けるためだけに噓を吐いたならば、位置などそもそも教えないだろう。

何より、教會騎士団が、協力を仰ぐために噓をつくとは考えにくい。

教會は、『真実』と『誠実』と『正々堂々』を基本とした教えを、教會騎士団に叩き込んでいるからだ。仮に何人かが守ってないとしても、記録係である彼がそれを破る事はあってはならない。仮にそんな事がありえるのなら、ウルグナの知識は既に過去ので、時代は変わったという事だ。そして時代が変わったのならウルグナの記憶は使えない。思考は振り出しに戻る。

―――このまま考えても仕方ない。もう一方の可能に移るとしよう。

最後に。犯人が、そもそも『邂逅』を知らないという可能だが。結論から言うと、実は一番ありうる話だ。

そう……例えばこの犯人をデュークと置き換えてみよう。デュークは冒険者として活躍しつつ、その裏では奴隷商人として、商品を探して浚う。捜索されてもばれないように、この森へと商品を隠しておき、ほとぼりが覚めれば市場へと連れて行き、それを売り捌く。

流れは良いとしても、これではし強引にもじる。迷いの森としての認識が広まってる現在、知らなければあの森にろうとする気は起こさないだろう。

―――ならばこう考えてみてはどうだろうか。迷いの森でない事は知っているが、『邂逅』は知らないのだと。

そう考えれば、平気で森へとり商品を隠す行為にも納得がいく。また、ウルグナはこうも考えている。

この森を、魔の湧出地點として有名にしているのもまた、デュークなのではないのかと。

―――忘れていた事があったのだ。それは奴隷商人の売れ殘った商品の処分の仕方についての事。勿論大抵は売れ殘らないが、仮に殘りがあったとして、彼等はそれをどうするか。

と意識を融合させ、新たに魔として野へ放つのだ。

信じられない事だろうが、事実である。奴隷商人は平気でその程度の事はするし、それ故一部の人からは、『魔人よりも恐ろしい人種』と恐れられている。

そういえば、ここは魔が全く存在しないにも関わらず、魔の湧出地點と化している。つまり―――

……不本意だが、こうするほかないのだろう。キリーヤを迅速に見つける為にも、売られないためにも、魔とされないためにも。

この森は、二度と會う事の出來ない者と運命的に出會わせる森―――即ち『邂逅』の森。キリーヤは直ぐに見つける事が出來た。

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