《ワルフラーン ~廃れし神話》かくて都市は復興せり
 仕方ないと言えば仕方ない事なのだが、オールワークに指揮される事を良く思っていない者は多かった。
だからこそ、アルドが來てからの進行は速かった。かつて人類を率いた事があるからか、それとも魔人に支持されているからかは分からないが、皆先程とは人が変わったように働き始めた。これにはオールワークも、直ぐに捕まったトゥイーニーも、目を丸くしていた。
これが今まで培ってきたアルドの信頼だ。人を捨て、絆を捨て、存在を捨てたその対価だ。
何だか嬉しくもあるし、あれだけのものを捨てておいて見返りはこれだけかと、悲しくも思うが、瓦礫もあらかた撤去され、死もまた葬られた。
何はともあれ、後はもう、新たに建造を造るだけである。
「ふむ……皆の者、聞け!」
まさかローブの下が、であるとは言えないので、あえて座り込む。
魔人達がきを止めた。
「まずは、その……諸君らの蔭で……うん、違う……私達の蔭……違う…………魔人の力で、人類から一つ、都市を取り戻す事が出來たッ! まずは、それを喜ぼうじゃないか!」
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そうだ。これはアルドの戦いではない。魔人の戦いなのだ。魔人が喜ばなければ、魔人が報われなければ意味が無い。それが戦いの理由であり、アルドの生きる理由。
「で、だ。そこで一つ祝宴のようなモノを開きたいと考えているのだが、どうにも場所が決まらない」
「俺様は、城を推すぜぇぇぇぇッ!」
「ユーヴァンの言ってくれた通り、開催場所は城で行おうと思う。そこでッ、お前達には城を優先的に建設してもらいたい。ああ、人間と同じデザインなんて事だけは勘弁してほしい」
「つまりそれ以外のデザインならば」
「何でも良し、だ。私も手伝うから、皆で話し合って決めてくれ」
剎那、噴火にも等しき歓聲が、周囲に響き渡った。噴火等と言ったのはそれほどまでに大きく、地面が揺れたと錯覚する程に膨大な數の聲が響いたからだ。
魔人達は皆子供のようにはしゃぎ、どんな建築様式にしようか、どんなデザインが良いかなどを話し合っている。一部爪弾きにされている者もいるが、ディナントやユーヴァン、ヴァジュラがけれてくれているので、大丈夫だろう。
「アルド、話があるんだけど」
突然聲をかけてきた者に、アルドは視線を合わせる。
「……は? お前は……ああ、分かった」
そいつに手を引かれながら、二人は帝國の外に出た。
「で、何の話だ『謠』」
二人きりの狀況を作った理由は言うまでもない。あの可笑しな口調で話したくないのだろう。何故か異様に短い筒狀の服―――『すかぁと』とかいう質を穿いている辺り、『謠』が如何に真面目な話をしようとしているかが分かる。
つまりはそこそこ重要な話という訳だ。
「まあまあ、落ち著いてよ。二人の今の狀況の報告をするから」
「ふん、そうか」
アルドは城門に憑れて、腕を組んだ。
「さあ、どこから話そうかな……まず、二人の事だけど―――エリの方がかなり頑固だね」
「まあ、仕方ないだろう。元々魔人を嫌うように教育されているのだから。キリーヤ程度が説得を試みたって、素直に応じないに決まってる」
「お、お。キリーヤがどんな説得をしようとしたのか、ご存じで?」
「どうせ馬鹿正直に魔人と人間が共存云々言ったんだろう」
「正解。だから今の狀況を『視て』るんだけど……結果は悲慘なものだったよ」
楽しそうに『謠』は首を振った。
彼のような騎士には、頼み方というものがある。彼の良心を信じるならば、敢えて彼の目的に合わせる事で協力を取り付け、絆が生まれてきた頃に、本當の目的を言うとか、契約を取り付けるとか。十數通りはあるだろうが、彼はそのどれでもない、目的を正直に話すという事を選んだ。否定されて當たり前だ。『ウタイ』や自分に頼むわけではあるまいし、何だってそんな正直に話してしまったのか。
「ん、多分……誠実さで訴えかけたかったんじゃないかな?」
「阿呆か、お前は。誠実さで訴えかけて騎士が応じるとでも思っているのか?」
「騎士ってそういうもんじゃないの?」
「いいか。騎士と言うのはだな、金と力とと忠義心でく生きだ。どんなに間違っていようと、誠実さでく騎士は居ない……そいつが地上最強なら話は別だがな」
「元騎士が言うと説得力があるね」
『謠』は呆れ気味に笑って、アルドの隣に憑れた。反的に距離を取ろうとするが、そんなことをすれば『謡』がまた距離を詰めてくるので、やめた。
アルドは一度咳を払った。
「ともかく、アイツらだけでは間違いなくどこかで死ぬ。こちらからもいずれ援護を出すから、お前はアイツ等を見守り、後始末が必要ならしてやってくれ」
「魔人達に気づかれたら、終わりだと思うけど」
「だからお前に頼んでいるのだ。頼んだぞ、『謠』」
「任された。じゃあ、大人しく戻るとするよ。々魔王を頑張ってね」
『謠』は後ろ手に組んで、太のような笑みを浮かべた。
口を噤んでいる間は、無口な年で、口を開けば元気な年で、笑えば活発なのような謠は十年昇華慕錯覚癥(年を対象として見てしまう病気)の者ならば、忽ちのにに落ちるだろう。一目ぼれをしてもおかしくはない。
しかし當然だがアルドにそんな癖は無い。そんな顔を見ても出てくるは、可い奴だな、くらいにしか思わない。
「あ、そうそう。一つだけ忠告しておくよ。アルド」
「ん、何だ?」
「―――――――――を信用しすぎないでね。いつか酷い目に遭うよ」
後ろからは騒がしくも暖かい魔人達の聲が聞こえる。吹き抜ける風が草原を揺らし、太は地上にを下ろす。
「……もしそうなった時、お前は私の傍に居てくれるか?」
「―――じゃあね、アルド!」
次に目を瞬かせたとき、謠は既に消えていた。アルドの問いには答えずに。
いや、そう言うと語弊があるか。謠は正確には答えている。只アルドの質問が、あまりにも愚問すぎたから言葉にしなかっただけなのだ。
―――全く。アイツという奴は。
を翻して街に戻る。エリ達の事は『謠』に任せておけばいい。きっと良い方向に導いてくれるだろう。
「あれ、アルド様、何処へ言っていたんですか?」
「……アイツとしな」
全てを察したらしいトゥイーニーが、無言で脇へ避け、アルドを通した。
トゥイーニーに下した罰。それは一週間、オールワークと同じ仕事をする事。別にアルドの居場所を逐一確認する事を仕事にした覚えはないが、アルドは侍の決まりやら信念に詳しくないので、口は出さない事にする。どうせ出した所でオールワークに説き伏せられるのだし、本當に無意味だ。
「で、デザインとやらは決まったのか」
「ええっと、候補を絞る所までは行きましたですね」
「……敬語が苦手なら無理に使わなくても良いんだぞ?」
「いえ、俺はアルド様のど―――違う、こっちは妄想―――侍ですから」
何か聞いてはいけないようなことを聞いてしまったような気もするが、敢えて無視する。『知らぬが仏、聞かぬが菩薩』とは、ジバルの言葉である。
アルドが群衆を掻き分けていくと、散する紙の中に、小さい丸が描かれている紙を見つけた。枚數は三枚。これが候補という奴だろう。
「アルド様、どれがよろしいですか?」
どこかで聲が上がった。
「そうだ、アルド様が決めてくださいよ」
「アルド様の決定なら文句は言わねえぜ!」
その聲は段々と膨大に。誰もがそれをんでいた。
……本來は自分で決めるつもりはなかったのだが、ここまで言われてしまっては答えない訳にもいくまい。
「ふむ、そうだな。私は―――」
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