《ワルフラーン ~廃れし神話》強く在る
ユーヴァンやヴァジュラにはフェリーテが伝えてくれていたようで、彼等が魔人とは年にはばれなかった。ヴァジュラは尾さえ隠せばまだ分かるが、ユーヴァンに限ってはその収納出來ない大きな翼を捥いだ方が良いのではないか。フェリーテを連れてきたのは偶然だが、正解だと思う。妖が無ければ、ユーヴァンの翼を隠す事など不可能だからだ。
「へーここがアルドさんの船か」
「あまり『視る』なよ」
こんな子供にワドフの存在にばらされては、今までのアルドの苦労が水の泡となってしまう。最悪『アレ』を使う事になるが……初めての使用がこれなど冗談ではない。
釘を差しつつ、アルドは階段を下りて行った。
船は非常に簡素な造りで、ベッド、武立て、イス、テーブル、服掛けくらいしか無かった。この事から、アルドは雑多な部屋は好まない傾向にある事が分かるが、ツェートに言わせてみればどうでもよかった。
「まあ、そっちに座ってくれ」
椅子は向かい合うように配置されているため、二人は機を挾んで対面する形となっている。
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「もう座ってるぜ!」
「……ッそうか」
ツェートと話していると、どうも調子が狂う。一何故だろうか。子供を相手にした事がないから……は無い。年齢は違うが、キリーヤは子供だ。では最低限の禮儀が……これもない。使い方はアレだが、一応敬語は使っている。
では一何なのだろう。
「それで、お前は何故に強さを求める?」
アルドが真剣に尋ねると、同様の面持ちで年も答えた。
「俺の村さ、クダイ村って言うんだけど、馴染がいるんだ」
ツェートの村はクタイ村という名前で、その村にはツェートの馴染が居るという事だろうか。
どうも言いたい事を一辺に言おうとしているらしいが、いまいち分かりづらい。
しかしながら突っ込むのは會話のテンポを阻害する事に繋がる為、あえて気にしない事にする。
「それで?」
「で、俺の村には代々婚姻関係を結んでいる家があるんだけど、それがもう一人の糞野郎と馴染なんだ」
「ふむ」
「強くなりたいんだ」
……肝心な所が分からない。幾ら何でも説明が下手すぎる。
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「何故、お前は強くなりたい」
「馴染を助けたいんだよ」
「ほう、強くなってか。的にはどうするつもりだ?」
「そいつと戦って、奪い返すんだ!」
元々お前のものでもないだろうに。
ここまで言葉をわさなければ理解する事は出來ないとは。大した言語能力だが、非常に面倒くさい。別にウイットに富んだ會話や、皮の効いた會話、一定以上の教養がある―――即ち一般レベルの教養を持った人との會話ならば、特にストレスはじないが、これではあまりにもというか、酷い。特に教養事で問題を抱えている國は無かったはずだが、気のせいか。
話から察するに、曰く『糞野郎』に勝てば馴染とやらは解放されるのだろうか。
「程、そうか」
「教えて頂けませんかッ」
ツェートの真っ直ぐな瞳を、アルドは死に切った瞳で見據えた。
この年が自分の仲間となり得る事はあるのだろうか、この年の格を考慮すると、仲間にはならなそうである。
というかそもそも、弱い。特異質こそ持っているが、潛在能力は自分が見てきた弟子の中でも下の方にる。
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別に助ける必要もないし、ここで殺してしまっても何の問題もないくらいだが。
「お前は本當に馴染を奪いたいか?」
『馴染』にはアルドも思う所がある。おそらく彼は自分の事を忘れているのだろうが、自分は生涯においてあの恩を忘れる事は無い。
だからだろうか、種族関係なく、『馴染』という言葉を聞くと、斷れないのは。ジバルでもそうだったし、今回も―――
「ああ」
「それはその馴染の意思に反していないか?」
「んー、多分」
これは後で個人的に聞いてみるべきだろうか。まあそこまで仲良くなれる保証もないが、それは自分次第だろう。
しかし、こんな奴は久々かなと思う。自分がす馴染の為に、強くなって、その男から奪い取るなんて……
斷ろうとも思ったが、この年の発言で気が変わった。二人の意思がそうであるならば、何としてでも二人を結ばせて見せよう。
「良いだろう。ただし、一つだけ約束がある」
「何だ?」
「お前が一言でもを上げたらそこで訓練は終了。お前に教える事は生涯において無くなると思え
」
「分かったッ」
たとえ村を追い出されても、手段は二つ程ある。大陸侵攻にはあまり関係ないが、急ぎ足で行った所でいい事などあるかどうか分からない。
ならば今起きたこの出來事に興味を向け、関心を持ち、程々に楽しむ方がずっと良いに決まってる。
「では大陸につき次第、村に案しろ。特別に相手方の強さも測ってやる」
アジェンタ大陸の港、フェイリー港。活気とか貿易とかそういう港的な特徴は一切持っていないが、特筆すべき特徴はある。それは本來労われるべき老人達が働き、子供達がそれを指示しているという事だ。別に非難しようとは思わない。停滯昇華帝國がこの大陸にあるなら不思議でないし、何よりこの大陸では普通の事だ。この文化を異文化と謗るのは結構だが、業にっては業に従え。この大陸にった以上、文化にとやかく言う権利はないのだ。
子供に蹴っ飛ばされている老人や、死んでいる老人を目に、アルドは港を突っ切っていく。
「アルドさん、驚かないんだな」
「……まあ、見慣れてるからな」
ナイツ達には一歩後ろからついてきてもらっている。別に一緒に歩いてもいいが、ヴァジュラ辺りはこの年を殺してしまうかもしれない。意思とかではなく、彼の村の魔人の習的に。アルドなら逆に食べる……下品な話はやはりに合わない。やめておこう。
「アルドさんッ」
「何だ」
「どんな修行やるんだ?」
ツェートの眼は非常に輝き、意に満ちている。この顔が果たして修行で失われないか心配だが……アルドには関係ないだろう。むしろアルドとしては、技能よりも敬語を習得してもらいたい。
「だ。著いてから教えよう」
港のり口を通り、村へと歩いていく。街道から外れているが、ここからでも確認できる為、の村という訳では無いだろう。
「あれだよ、アルドさん。じゃあ俺が先陣を―――」
その時だった。ツェートの顔めがけて、五頭以上の魔が迫ってきたのは。
「え―――」
リスド大陸ではあまり魔と遭遇しなかったが、魔は普通に潛んでいる。特に街道を外れている所、森や谷、あるいは草むら。そこに潛み、引っ掛かった獲を仕留める。
大抵の魔はそのような行原理でいている。さて、これは長年の経験で気づいた事だが、この行原理を踏まえて立ち回れば、魔など容易に殺す事が出來る。
ツェートは不意打ち故反応できていない。その間も魔達の牙はどんどんと迫っていく。手遅れながらツェートは腕をの前に差させようとする。
「丁度良い。しだけ戦いというモノを見せてやる」
この魔―――狼と竜の混合種みたいな容姿の奴は、『バイトヘザード』。草原に潛んでいる事が多く、來る旅人に噛みつきにいく。咬合力は優に三百トン。殆どが不意打ちの為、一人前の剣士ですら死亡する事がある中位の魔だ。
に手を突っ込んでを抉り潰しても良いのだが、常人には出來ぬ蕓當だし、見せると言った以上は出來そうな蕓當にしなければいけない。
バイトヘザードが最大まで顎を開いたその時、アルドは素早く『カタナ』の柄を摑み一閃。開かれたその顎が閉じられる事は無く、バイトヘザード達は蒸発した。それと同時に、バイトヘザード達の後方に存在していた草木も全て蒸発。を剝がされた地面はそのを剝き出しにし、見るモノにそこであった事の凄慘さを語っている。
「……」
『カタナ』と居合程相の良いモノは無いが、今回はそれが裏目に出てしまった。手加減が出來なかったのだ。
「……」
ツェートの腕が止まった。剝き出しの地面がその威力を語っている為、言い逃れは出來そうにない。
「アルドさ……いや、師匠!」
突然の呼稱変更に戸いを覚えつつ、ぶっきらぼうに返す。「何だ?」
「どこから武出したんですか?」
「だ」
魔じゃないと言ってもどうせ信じないだろうし、ならば教えないのが吉だ。
「俺が解き明かしてもいいか?」
「勝手にしろ」
「じゃあやるよ!」
決意をにめ、年は笑った。男はそれを見、かつての自分を思い出した。
「ツェータ」
それが稱であると理解したツェートが元気よく返事をした。
「はいッ」
「必ず勝て。そして奪って見せろ」
それはかつての自分への後悔から來た言葉なのかもしれないが、この場にいる者達―――ナイツも知る由が無い事だった。
それを知っているとすれば、恐らく―――
クダイ村は鋼の生産に定評がある村で、この大陸の中では一番差別的ではない所だろう。まあ弱冠十歳の男子がを奪い取るとか何とか年齢不相応な発言をしている時點でそれは今更というものだが。
昇華とは年齢が一つ上がり、格が上がる事だが、通常では昇華回數が多いほど、偉い。そういう法は無いが、暗黙の基準のようなものだ。しかしここではそれが全くの対極。昇華すればする程邪険に扱われるのだ。首都の停滯昇華帝國においては、十五歳いろつきの王がある法令を定める始末。
全く持って理解できず、異端的な文化だが、國家的な強さはそれなりに持っているので、文句を言う事は出來ない。それにアルドも方法が違うとはいえ、昇華を停滯―――停止させてるので、とやかくいうことは出來ない。
あの子は自分の事を覚えているだろうか、いや、覚えている可能は低い。むしろ覚えていてほしくない。
それが彼の為だし、國の為である―――これからその國を滅ぼそうとする者の言う事ではないだろうが、それでもアルドは彼のを心配する事しか出來ない。
……出來れば出會いたくないが、魔王となった以上、彼に出會うは最早必然。ああ、それは実に、殘酷で―――
「著いたぜ、ここが俺の村だ」
―――その村はやはり十歳から十四歳の子供が、全的に街を仕切っていた。それ以上の者は、襤褸い服を著て、村のあちこちで何かしらの労働を強いられてるのが確認できる。
「早速俺んちに案するから、著いてきてくれ!」
良く考えればこの年は中々異端だ。ナイツ含めて自分の容姿などどう見ても十代には見えない筈。にも拘らずこの年は、あんまり使えていないが敬語を使ってアルドに接してくれている。
「アルド様、僕達への視線が」
「気にするな。この村、いや、この國じゃこんなもんだ」
背後からヴァジュラの呟きが聞こえてきた。そう言えばヴァジュラはこの國に來た事は無かったか。
「お前はを張って堂々としていればいい。それだけの力がお前にはある」
アルドもまた一瞥すらせずに、そう呟いた。
「おーいメイザー。客を連れてきたぞー。お茶を出せー!」
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