《ワルフラーン ~廃れし神話》死んでも死にきれない
続いてドロシアが向かった幽世だが、ギルゾードとはうって変わって、如何にも文明が発展した様子の都が広がっていた。五大陸ともジバルとも違う文明だが、ドロシアは見た事がある。門と思わしき場所に守衛は居ないので、遠慮なく都にらせてもらう。別の世界では幽世は一纏めだったので、神々毎に違う幽世を作っているこの世界はとても面白い。噴水の上に浮遊している石を杖でつつくと、赤い魔力が広がって、都全に広がった。
程。これが所謂チャイムという奴か。てっきりこれが力源だと思っていたので、前言は撤回しよう。ドロシアは杖での浮遊をやめて、都の地に足をつけた。その瞬間、先程の赤い魔力が自分のに纏わりついてきたが、無意識に不快になった彼の心が異界秩序を発。十中八九、來訪者の分析を魔力で行いたかったのだろうが、異界秩序により法則の適用されないドロシアには、途中で中斷される事となってしまった。何よりも孤獨をじるこの質だが、限りなく便利ではある。後だしで適用させても通じる所が特に有用な上、そもそも自に害があると無意識的にでも判斷すれば自的に適用されるので、自分に対して何かを仕掛けようという試みは、執行者以外は推奨出來ない。
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「すみませーん!」
戦うつもりはないので、自ら存在を示して、対話を試みる。出來ればここの創造神……つまりギルゾードの様な存在に出て來てしいのだが、そこまで上手く話は進まないだろう。異界秩序の適用されてしまった今は、自分の存在は誰にも分析出來ないし、心を読もうにもそれが見えていない。チャイムは鳴らしたからこちらの存在には勘付いていると思うが、そこまで無警戒な人達では無い筈だ。坂道として作られた大通りを何気なく歩いていると、何やら側面から視線をじたので、チラリと見てみる。
子供だった。
背中に小さな翼が生えている子供は、堂々と道を歩いている自分を何やら珍しげに見ていた。今のドロシアはジバルに沿った格好をしているので、いつもの服裝ならばいざ知らず、この格好でもそんな風に見られるのは新鮮だ。同じ様な反応を返してきたのはアルドだけだが、彼はいつもの自分の服裝を知っているからこそ、著替えた事に驚いていただけであって、窓越しにドロシアを見遣る子供がそれを知る道理はない。もしかせずとも、幽世から外に出た事が無いのだろうか。
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ニコッと微笑みかけると、子供は間もなく奧の方からびてきた手に首っこを摑まれて消えてしまった。追ってみるのも良かったが、今は流をしている場合ではない。構わず歩き続けると、三人の翼を持った男達が、ドロシアの行く手を塞いだ。
「貴様、何者だ!」
いずれの男にも殺意が籠っており、案の定、魔力分析から逃れた自分を不審者と見ている様だった。杖を武とみなされても仕方ないので、一旦杖には幽世から退場していただき、両腕を上げた。
「私はドロシア。せん……アルド・クウィンツの弟子なんだけど」
「何? あの男の弟子……だと?」
「うん。えっと、敬語が使えないのはごめんなさい。慣れてなくて―――ここで一番偉い人に會いたいんだけど、會えるかな?」
「殘念ながら、それは葉わない願いだ」
ドロシアの言葉を否定したのは、行く手を塞ぐ男達の誰でも無い。突然上空から奇襲気味に落下してきた一人の男……宮本武蔵之介だった。彼は著地と同時に二刀を用いて三人の首を刎ねて、瞬く間に殺害。直ぐにこちらへ翻った。
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「何故ここに居る」
「…………どうでもいいでしょ、むしろ、何で貴方がここに居るの?」
「うむ。何やらアルド・クウィンツが外法で以てこの宮本武蔵之介を探そうとしているようなのでな。これでは相まみえる日に差異が起こる。故、こうして神殺しに勤しんでいるという訳だ。答えたのだから貴様も答えよ。あの時、木っ端の如く切り刻んでやった筈だ。何故生きている」
「私、そもそも生きてないんだ。だから死なないの。極一部の例外がかない限りは」
「ほう。即ち、不死と申すか」
「うん。もう一度殺したいなら勝手にすればいいよ。その時は遠慮なくお返しするから」
こちらの言葉に偽りが無いと信じた武蔵は、二刀を構えたまま距離を詰める事もせず、じっと立っていた。戦する気など端から無いドロシアも、その場に立ち盡くしていた。膠著狀態とは、お互いの気付かぬうちに始まっているものである。
「會えないってどういう事?」
「神殺しに勤しんでいると言った筈だ。既にこの常世の王は切り伏せた。貴様は無駄足を踏んだという訳だ」
「さっきの人達は?」
「この俺を探していたのだろう。今となっては言わぬだ、真意なぞ分からぬ」
「全滅させたの?」
「無論。生き殘りが居ると言うのならば是非教えてしいものだ」
誰が教えてやるものか。
本當に誰も居ないのなら零式魔を使ってこの幽世自を吹き飛ばしてしまえば、屠れなかったとしても彼をここに追放出來るので手っ取り早いが、生存者がいる事を先程確認してしまった。そんな荒業は出來ない。巻き添えの事を心配しているのではなく、この幽世という居住場所が無くなる事を心配しているのだ。巻き添え云々はどうにかなる。魔は同時に行使出來ないなどという法則は、自分には適用されていないのだから。
「私を殺すつもり?」
「そのつもりだが、怖いか? 死ぬのが」
「死ねないし、別に。貴方こそ怖くないの。殺すのが―――」
言い終わるか終わらぬかのに、武蔵が踏み込み、ドロシアの首に刃を當てた。その次の瞬間、武蔵之は滲んだ絵畫の如く全を消去され、そのまま虛空の中へと朽ち果ててしまった。後に殘るはただ、靜寂のみ。
「…………だから言ったのに」
切り刻まれる事に文句は言わないが、その景がアルドの心に罅をれてしまうのなら免被る。これで宮本武蔵之介は幽世から弾き出されたので、今暫くはこの幽世には戻ってこれないだろう。幸運な事に、今の一撃が通用した時點で、ドロシアは彼の強さのを理解してしまった。確かにこれは、まともに相手をするには強すぎる相手である。
「ドロシア!」
またも上空から落下してきた人だが、今回は武蔵ではない。あらゆる次元でたった一人だけの師匠、アルドと…………見覚えの無い。別世界でも確認出來ていない。今の所。
「先生。おはよう」
「お、おはよう……って違う! 宮本武蔵之介はどうしたッ? 大丈夫だったか?」
ドロシアはその場でターンを決めて、を張ってアルドに告げた。
「その人なら、私がついさっき追い払ったよ」
「追い払った……? 異界秩序か?」
「うん。あの人の攻撃に反応して発する様にして、時間と空間の両方向から消し去ったの。でもまだ死んでない。ここにもう用は無いみたいだから、來ないと思うけどね」
説明が今までの経緯を知らなければさっぱり分からない程度には酷かったが、「そんな事よりも」とドロシアは話を切り替えて、アルドが抱き上げているを指さした。別世界などの価値観で見てもみすぼらしい格好をしていて、とても健康な狀態とは思えない。どうして彼がそんな人を連れてきたのかも分からない。自分の知る彼の基準で言わせれば、絶対安靜の筈である。
「その人、誰?」
「ああ、こいつか。……自己紹介してくれないか?」
「面倒だ」
「頼む。私がお前を語るには後もう數年は必要だ」
は深い隈の殘る雙眸をこちらに向けて、抱きかかえられたまま、挨拶をした。
「初めまして、文字通りの異人さん。私は……シターナだ。一昔前は智慧の魔とも呼ばれていたが……今は無知無能の、こうして彼に抱き上げてもらわなければ碌に移もしない、自墮落なだよ」
聲も何だか掠れている。綺麗な聲の片鱗はじるのだが、それだけだった。ここまで來ると自墮落とかそういう段階では無い気もするが、アルドの心配そうな顔つきとは裏腹に、そのは何ら己の調に気を遣っていないらしかった。それよりも驚いたのは……こちらの事を、『文字通りの異人」と言い表した事だった。
「先生。その人に私の事話した?」
「いや、彼はこういう奴だ。無知無能というのも、正しくは全知無能と言った方が正しい。連れてきた理由については々あるんだが……まあ、巻き添えになったというか。それより、まだ死んでないというのは?」
「え…………ああ、そうだったッ。聞いて先生。あの人、何らかの手段で復活し続けてるの」
「不死、という事か?」
「違うの。死ぬ事は死ぬんだけど……死ぬ直前に戻って、やり直すの!」
ドロシアが時間からも干渉したのはこの為だ。干渉範囲は自分がこの幽世に到著するまでの時間も含めてあるので、あの攻撃を喰らった時點で、彼はドロシアがこの幽世に向かってから対峙するまでの何処の時間からも復活する事が出來ない。まだ死んでないというのは、つまり干渉範囲外で復活すればいいだけの話。
殘念ながら矛盾を回避する為に強引に時間の矛盾(彼が來たからこの幽世で神殺しが起こったので、彼が來なければ普通は神殺しが起きない筈である)を捻じ伏せてしまったので、この幽世は宮本武蔵之介が來なかった未來に変化しているにも拘らず、神々が死んでいる。矛盾を避けた理由だが、『そこに在る』という真理に反する事は自分でも出來ないからだ、
矛盾とは、一件立するようで立しない事柄を指す。つまりは『そこに無い』という事。なので自分にはどうする事も出來なかった。真理だけはドロシアにも、どうしたって抗えない。
「死ぬ直前に戻ってやり直す……だと? しかし、待て。それは死に大しての耐だろう。そんな消し飛ばさずとも、お前は時間の影響をけないんだから―――あ」
アルドは勝手に何かを言おうとして、勝手に納得した。これは彼にしか納得できない事であるので、ドロシアが首を傾げても仕方ない事柄である。自の笑みを浮かべて、アルドは「時々執行者が羨ましくなりそうだ」と言った。
「…………そうか。死ぬ直前に戻る事で無限に再戦し、やがては勝利を摑む。それが天下無雙の大剣豪のという訳か」
「うん。だからここの神様も多分―――」
「言うな」
彼の口に指を當てつつ、アルドは靜かに目を閉じた。応じる様にシターナも目を閉じ、狀況の把握出來ないドロシアも、取り敢えず目を瞑った。
「私が……せいで」
その言葉はハッキリとは聞こえなかったが、彼が再び自分を責めている事だけは、明確に理解出來た。
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