《ワルフラーン ~廃れし神話》頼れるモノは己だけ
奇跡的に生存していた者には、他の幽世へ移ってもらう事にした。アルドが運ぶのも良かったが、自分には武蔵之介を屠り去るという使命がある。引き続き、ドロシアには幽世巡りをしてもらうとして、生存者の移送も彼に任せる事となった。
「それじゃあ先生、またね!」
「ああ」
ドロシアは杖に腰を乗せると、そのまま空の彼方へと昇って行ってしまった。ああも自由に飛び回れるのをし羨ましく思う。アルドが同じ事をするには、まず王剣を使って法則を上書きしなければならない。
「それにしても、お前は凄いね」
「何がだ?」
「幽世は神々の住まわりし神聖なる場所だ。ジバルとは全く違う文明が育まれている。それをヒトである君が蹴って壊すなんて、私にすれば驚くべき事だよ」
「面白かったか?」
「いいや。全く。驚くべき事ではあったが、面白くは無かったよ。見えていた結果だ」
アルド含めて常識人からすれば、見えていなかったからこそ面白いのではないのかという発想が一般的だが、曰く世界の理を知ってしまったシターナにその常識は通用しない。面白いのと見えているか否かは、全く別の話らしいのだ。その道理を詳しく説明された所で理解出來る自信が無いので、追及はしない。
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「それで、これからお前はどうするの?」
「どうすると言っても……『狐』の國に戻ってきてしまった訳だし、進捗狀況でも聞きに行くさ。その前に、お前を返しに行くけど」
元々が見るからに弱い彼を連れ回すつもりはない。今回連れて來てしまったのはり行きというか、その判斷をする時間すら惜しくて連れてきただけなので、一旦落ち著けば彼は足手まといとなる。酷い言い方だが、アルドは彼を抱っこしたままでの捜索を好んでいない。単純に手が塞がってしまうので、非効率的なのだ。
そしてそのことを気に病んだりする彼でもない。シターナは笑うみたいに口を開いた。
「しかしお前は、自分に自信が無いという割には、隨分とに好かれているみたいだね。そこまで好かれていて、どうして自信を持てないのかな?」
「自信…………ね。そんなもの、劣等の塊たる私がことなどにおいて持つ筈がない。好いてくれるのは有難い事だし、私もそれに全力で応えたいところだが―――皆、惚れているのは私ではない。アルド・クウィンツだ」
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全てを知る魔には隠した所で無駄。ここには誰も居ないし、アルドは自ら吐する形で、己のにめられた闇を垣間見せた。それこそ彼の持つ最大の矛盾。たとえ彼を心からし、救いたいと思う者でも、この矛盾が解決しない限り、アルドが救われる事はない。
何と皮な話であろうか。落ちこぼれと呼ばれ続けてそれが嫌になり最強を目指した。遂には英雄と呼ばれ、地上最強になるも、今度は英雄としてしか好かれなくなってしまった。
たとえ心の底から彼の事をし、理解していたとしても、彼の中でこの矛盾が解決されなければ、何も話は進まない。そして今まで生きてきた中で、アルドはずっと己の側にあったこの矛盾を放置してきた。目を背けてきた、ともいう。こんなものを間近に見てしまえば、もう二度とアルドは人をせない気がしたから。
「おや、同一視するべきではないのか」
「……同じだとも。だが、私が英雄だったからこそ助けられた命があまりに多すぎる。英雄であり魔王のアルド・クウィンツだからこそ解決出來た事が、あまりに多すぎる。本質的に、私には何の価値もない」
「『私』とは、誰の事かな?」
「『私』は私だ。それ以上でもそれ以下でもない。英雄に焦がれた、自己犠牲が趣味な男だ」
「自己分析はしっかりしているね。しかし、程。切り離して考えた場合、お前は今の今まで何もしていない事になってしまうのか」
「…………落ちこぼれは所詮、落ちこぼれなんだよ。英雄という仮面を被らなきゃ、何も出來やしないんだ」
英雄でありながら英雄ではない。
人でありながら怪でも無く、さりとて執行者でも無い。
魔王でありながら魔王でない。
生でも無いし、死人という訳でもない。生きても居るし、死んでも居る。
心のにめられた矛盾に合わせる様に、アルドは様々な矛盾をめる事となった。この世界を誰よりも平和にしたいと思っているが、このの存在価値は、世界が平和でない時にしか存在していない事も、またその一つ。
「…………」
シターナは何も言わない。それはきっと、自分に哀れみを掛けているからに違いない。アルドが王剣を突き立てて、再びあの襤褸屋敷に戻ろうとした直後。彼が急に王剣を摑んだかと思うと、何と突き立てていた刃を引き抜いて、特行使を止めてしまった。
「な、何を……!」
「気が変わった。非常に面倒だが、私もこの件に首を突っ込ませてもらう」
「は、は……は?」
言っている意味が分からなかった。あの極度の面倒くさがりで有名な彼が、自分から首を突っ込むなど、天災の前れを素直に疑うくらいには、予想だにしなかった言葉である。改めて彼の発言を呑み込んでから、アルドはシターナに問うた。
「突然どうした?」
「お前の矛盾は、とても危険なものだ。誰かが傍に居ないと、大変な事になる。だから私が傍に居よう」
「―――何を言ってるかさっぱり分からないが、アイツの捜索に協力してくれるんだな?」
「友人の頼みを無礙にする程、無知無能の魔も廃れてはいない。私が面倒にじない限りは、協力しよう」
この時、アルドは気付いていなかった。いや、気づいていた事は気付いていたのだが、には深度がある。気づかれていた箇所はほんの表層に過ぎなかった。し考えれば分かる事なのに、つくづくアルドという男は関連に弱い。彼の興味の対象からして、どうしてそんな行を取ったのかは一目瞭然であろうに。
シターナは再びアルドに抱え上げられる。極限にやせ細ったは、たったそれだけの干渉でも悲鳴を上げた。
「あ、すまん…………次からはもうし、優しくもち上げるよ」
「気にしないでくれ。お前の力をけて骨が軋むのはよくある事だ。むしろお前は、これから先の未來について不安に思っておくべきだと、忠告しておこう」
「未來…………? 武蔵之介と引導を渡す事か?」
「もっと先だ」
ドロシアでさえ知らなかった関係を、クルナが知っている道理は無かった。加えてシターナを抱きかかえている姿勢が不味かった様で、アルドがしっかり事を説明しなければ、危うく夫婦喧嘩が起きる所だった。結婚した覚えはないが、細かい事はどうでもいいのである。
『忍』達の報収集はまだ完全ではないが、それでもジバル全域を移したというだけはあり、全くの収穫が無い訳では無かった。たとえば宮本武蔵之介は、ここ數日海外の商人と何やら取引をわしているそうな。その容までは分からなかったそうだが、それでも彼が何をしようとしているのかが分かれば、行に先手が打ちやすい。
「どう思う、シターナ」
あまり考えるのは得意ではないので、アルドはすぐさま傍らの魔に話を振った。理由はどうあれ協力してくれる気になったのならこれ以上に幸いな事など無い。無知無能の彼が加われば頭脳面においてあちらを下回る事はないだろう。何せ彼は、全てを知っている。それこそ正に、インチキだ。
「答えは既に出ていると思うけどね。私は」
「答え?」
「しらばっくれなくても、お前が徳長達と関わりがある事は知っている。手紙でも読んだのかな……お前の柄が引き渡されないと、戦火をもたらすなんて書いてあったのか。ならその接は、武の輸。それも接は一度じゃないから、どうやら従えている部下まで居るらしい」
フェリーテ然り、最初から知っていたり、話の呑み込みが早いと、非常に會話は円になる。今の會話は明らかに心を読んでいるというより、過去を覗き見ているじだったとはいえ、知人に見られる事にはアルドもあまり抵抗はじていない。赤の他人ともなると、流石に躊躇いはする。
「ただ、アルド。お前に一つだけ言っておこう」
「ん?」
「宮本武蔵之介なる輩相手に、約束を守る必要はない。守るつもりはないみたいだから」
「どうしてそう思うんだ?」
まるで自分もその場に居合わせていたと言わんばかりに、シターナが滔々と語り出す。
「重要なのは近日中に、という言葉だ、文書という形式で脅迫狀を送っている癖に時期が明確じゃない。仮に要求に応じたとしても、これではいつの日にどうやって渡すのかが分からないだろう。つまりこの男には、端から契約を履行させるつもりはないという事になる。破らせれば大義名分が出來るから、それを狙っているのかな」
予測っぽく言ってはいるが、彼は全てを知った上でそう言い換えてくれている。有難い気遣いだが、アルドは申し訳なさをじていた。彼はあまりに知り過ぎてしまうから何も知ろうとしなかったのに、ここまで積極的に介すると、知りたくない報を知り過ぎてしまう事になる。それは刺激を追究する彼にとっては、唯一の拷問だった。アルドもそれを分かっていたから出來る限り介はさせまい(頼る事は頼るが)と思っていたのに、彼は何を思って首を突っ込んでくれたのか。
「……面倒だったら、やめてもいいんだぞ」
「―――お前に心配されなくても、本當に面倒だったら帰っているよ」
とてもつまらなそうに、シターナは手の平をアルドの甲に覆いかぶせた。骨と皮だけの悍ましい指先が、筋質な指に、絡みつく。
「勝手に心配するな。だからお前は自分の側面に苦悩する。悪い癖という奴だ」
「…………すまん」
「それもだ。自信を持つ気が本當にあるのかを疑いたくなる。お前は本當に矛盾した存在だよ。一番お前を嫌っているのは、お前じゃないか」
何も言い返せず、アルドはクルナの方にそれとなく視線を流したまま、唾をのみ込んだ。
- 連載中182 章
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