《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第四話

 駆け寄ってきた騎馬の一団は、やはりと言うべきかしっかりとした甲冑をに纏っており、元の徽章にはフリアエ王國の刻印がなされている。フィリスの能力でその報を知ったディーネは、改めて指示を飛ばす。

「やっと本家のお出ましか。今度こそ演技に徹するぞ」

「了解しました」

「全く、任務にるまでどれ程掛かったのやら…向こうの暗部ももうちょっと頑張って……」

 ブツブツと文句を言うディーネであるが、今さらそれを言ってもどうなるものでもない。フィリスも部下も安定のスルーで対応する。

 白銀の鎧を纏った彼らは、ディーネ達の前に並ぶと、い呼吸を隠そうともせずに馬から飛び降りる。

「フルヤ・カオル殿!! 本當にカオル殿なので座いますか!?」

「う、うん。その通りだけど、ちょっと顔近すぎない……?」

 先頭の騎士は鼻息も荒くディーネの元へと駆け寄り、まじまじと彼を見つめる。兜こそいでいないが、その兜ごしにも息遣いが屆くほどの距離で見つめられ、やや引き気味になるディーネ。

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「その奧ゆかしい態度……! 本のカオル殿で間違いないご様子。魔獣に襲われたと聞きましたが、お怪我は!?」

「大丈夫だよ。そこの彼が助けてくれたんだ」

 聲のトーンからしてだろうか。報告では能力の一つもなかった『古谷薫』であるが、どうやら関係には一日の長があったようだ。ディーネはこの騎士から心配以上の何かをじていた。

「なんと……貴が彼を助けてくれたのか。禮を言おう」

「何、大したことはしていない。森で行き倒れている所をし面倒見てやっただけさ」

 頭を下げる騎士に、鷹揚に手を振って応えるフィリス。が、直ぐに騎士はこちらへと視線を戻した。

「ああ、カオル殿! 服もボロボロになってしまって……折角質の良い服であったのに、お値段も張るのであろう?」

「う、うん。けど、命には変えられないよ」

「それに馬車の旅ということは、風呂にもれなかったのだろう? 勇者の為の大浴場も使えず…その上貴方が居なくなった事で、あの不良共が調子に乗ってしまって! ああ、なんとも腹の立つ!」

「えっと……そろそろその辺で、ね? 皆も戸ってるし……」

 ハッ、と気付いたように辺りを見回した彼は、周りの冷たい視線に気付くと、コホンと咳払いをして誤魔化そうとする。

「うむ、とにかく勇者様がお元気なご様子で良かった。彼ら騎士達も、私と同じ心持ちであろう」

((((((お前ほどじゃねぇよ!!)))))

 全員の気持ちが一致した瞬間であった。

◆◇◆

「コ、コホン。では改めて自己紹介を……」

 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、その場を仕切り直す騎士。今では兜もいでおり、その流れるような金髪と貌を晴天の元に曬している。

「フリアエ王國騎士団、一番隊隊長のメリエル・クロイツェフだ。王國ではカオル殿の指南役として任務に當たっていた」

 彼はフィリスの方向へ向き直ると、改めて頭を下げる。

「此度の働き、誠に謝する。この周囲の慘狀を見るに、盜賊からも守ってくれたのであろう? 王國の事を抜きにしても、私から禮をさせていただきたい」

「何、私は掛かってきた火のを振り払っただけだ。禮を言われることなどしていない」

「実に謙虛な武人なのだな……お名前を伺っても良いか?」

 メリエルの疑問に、フィリスは予め用意していた偽の素を読み上げる。

「私の名前はアメリア・ハートゴールド。しがない冒険者だが、一応S級という肩書きでやらせてもらっている」

「な!? 貴があの『染めの黃金ブラッディー・ゴールド』なのですか!?」

 そう、彼が今回騙る素は、S級冒険者という世界に十人といない冒険者の頂點、その一人であるアメリア・ハートゴールドだ。勘違いの無いように捕捉するが、彼がアメリア・ハートゴールドであることは事実だ。ただ、これは彼きやすくなるための表の顔とでも言うべきか。要するに、用意しておいた偽の戸籍が有名になってしまったという事だ。

 いつの間にか付いていた異名を聞いたフィリスは苦笑いを浮かべる。

「まあ間違ってはいないが……たるでブラッディーとは華の無いものだ」

「そんなことはありませんよ! 貴の憧れなんですから! 握手、いいですか?」

 いつの間にか敬語になってしまっているメリエル。今も顔は真っ赤だが、おそらく先程の恥ずかしさとはまた違った理由のせいだろう。握手を求めたかと思うと、その握った手をぶんぶんと振る。よほど興しているようだ。

 握手の後、ディーネと肩を組んだかと思うと、唐突に緒話を始める。

(か、カオル殿! まさか『染めの黃金』さんを連れてくるなんて夢にも思わなかったぞ! 來るなら來ると言ってくれ!)

(そ、そんなこと言われても……)

 ディーネとしては彼が來たとたん何故ここまでギャグ時空に放り込まれてしまったのかということが非常に疑問である。辺りには一応盜賊の死が転がっており、ほのぼのと出來る狀態ではないはずなのだが。

 端から見れば死を前に漫才のようなやり取りをしていた男が考える事ではないと思うが、彼からしてみれば何か違いがあるのだろう。それが他の人に理解できるかと言えば話は別だが。

「そ、そんなことよりメリエル。僕たちを迎えに來たんじゃ無いの?」

 余り深く関わられると、どこでボロを出してしまうか分からない為、やや強引に話を変えるディーネ。メリエルはそうだったと言わんばかりの表をすると、慌てて部下に指示を飛ばす。

「そうだ、カリル副隊長! 団長に見付かったとの早馬を飛ばせ! 急いで報告せねば…」

「もう飛ばしてありますよ」

「あ、そ、そうか……」

 目に見えて落ち込むメリエル。副隊長の対応からして、このようなことは日常茶飯事なのだろうか。カリルと呼ばれた彼は、兜の下で溜め息をつく。

「隊長。心配するなとは言いませんが、余りに気が抜けすぎです。カオル殿の事となると直ぐに暴走する……」

「うう……」

「カオル殿も、あまり甘やかさないで下さい。こちらとしても、せめて仕事はしていただきたいのですよ」

「あはは……」

 そんなん俺が知るか! と心の中で悪態をつくディーネ。そんな彼の心を知ってか知らずか、カリルは彼に耳打ちする。

「……隊長があそこまで心を許すのは珍しいのです。けなく見えますが、今後とも彼を宜しくお願いします」

 ディーネはその言葉に、心がスッと冷えていく覚を覚えた。

 自分は『古谷薫』であるが、決して本人ではない。あくまでその振りをした他人である。一方、彼が信頼を寄せるのは古谷薫本人であるのだ。そしてそれは、もう二度と葉うことの無い事実である。心が痛まないと言えば噓になるが、暗部であることによってその痛みには既に慣れきった。

 『古谷薫』は彼の言葉に、薄い笑みを浮かべる。

「……ええ。善処・・しますよ」

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