《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第七話
水樹の部屋を出たディーネであったが、出た後に彼は重大な事実に気付いてしまう。
(……俺の部屋って一どこにあるんだ?)
そう。ディーネは意識を失った狀態で水樹の部屋に連れてこられた為、薫の部屋への戻り方が分からないのである。彼がドアを開けた先に広がっていたのは、全く見たことも無い廊下の裝飾。ディーネからしてみれば戸いの連続であり、いかにこの任務が過酷かという事を如実に示すいい出來事だと言えるだろう。
とはいえ、ドアを開けたところで止まる訳にもいかず、ディーネはそのまま廊下をあてども無く歩き始めた。とりあえず歩いていれば自分の部屋にたどり著くだろうというなんとも雑な考えである。雑ではあるが、彼にはそれしか出來ることが無いというのも事実。せめて自分に友好的な人と當たるようにと願っていた。
そして、彼のそんな思いは裏切られることとなる。
「おいおい、なんで雑魚がこのフロアにいんだよ? ここは選ばれた奴だけの居住區だぜ?」
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「雑魚だからきっと頭の回転もワリィんだよ、きっと」
「ほらほら、早く自分の部屋に戻れよ無能」
(……めんどくせ……)
あからさまなほどに面倒くさそうな集団に遭遇したかと思うと、その予想通りに廊下の真ん中で絡まれてしまったディーネ。どうやら神は自分に試練を與えたがっているようだ、と思わず頭を抱えてしまう。
唐突に絡んできた五人組の集団はいずれも不自然な髪をしており、それがまたディーネに不快を抱かせる。金髪など珍しくも無いが、なぜか彼らは絶的に似合っていない。まるで元々違った髪を無理矢理金に変えたかのような違和だ。
ディーネは彼らを鬱陶しくじたが、ここで本を曬す訳にもいかない為、『薫』としての対応で接する。
「えっと、僕はただミズキさんに呼ばれただけで……」
「はあ!? お前が水樹に呼ばれるはずねぇだろ!! 夢見てんじゃねぇよ底辺が!!」
當たり障り無い対応を心がけたのだが、何がいけなかったのだろうか。ディーネは彼らの逆鱗にれてしまったようで、彼らは更に激高してしまう。最大限の注意を払って名字で呼んだつもりなのだが、何がいけなかったのだろうかとディーネは自問する。
勿論、この認識の食い違いはお互いの常識の差違が生み出してしまった不幸な事故である。ディーネからしてみれば名字は後ろであるし、日本人の勇者達からしてみれば名前が後ろである。間違えてしまうのも仕方の無いことであるが、生憎現在のディーネは『古谷薫』である。金髪の集団はその事を知らない為、顔を真っ赤にして怒鳴ったのだ。
「だいたいなぁ、お前ごときが名前で呼ぶとかチョーシ乗ってんじゃねぇぞ。おい、コイツ引っ張ってけ。ちょっくらシメるわ」
「ほいほーいっと。んじゃ暴れないで……ねっ!!」
「グッ!?」
リーダーとおぼしき男の命令で、集団の一人からボディブローを貰うディーネ。勿論このレベルの腰もっていないパンチなど、彼からしてみれば蚊に刺された程度でしかない。ダメージはさして無かったが、『古谷薫』からしてみればそれなりの威力のはずである。その為、あえて苦しむような聲を上げるディーネ。
そのまま羽い締めにされた彼は、抵抗する事も無く引きずられて行った。
◆◇◆
數十分後。王宮の裏庭には、泥だらけとなって集団リンチをけているディーネの姿があった。
「オラ、これでどうだ!!」
「グッ、ガハッ!?」
強烈な蹴りを腹に食らう―これもノーダメージだが―ディーネは、いい加減同じ演技をし続けるのにも飽きていた。
馬鹿の一つ覚えのように毆る蹴るをひたすらけ続けていたのだが、最早やる気があるのかと思うほどの威力であった。威力だけで無く、心を折るような事も用意していない。あまりにお末すぎて最早ため息すら出てしまう程の退屈な時間であった。
が、そんな退屈な時間は男の一言で大きく変わる。
「ったくよぉ、大人しくあの時にくたばってればいいものを。なーんで戻ってくるかなぁ」
「……まさ、か」
ディーネが呟いた一言に耳聡く反応する金髪の男。ディーネの頭に足を乗せながら、勝ち誇ったように宣言する。
「そうさ、あの時お前を魔獣の目の前に導したのは俺たちさ!! あの時は傑作だったな、お前の怯える顔!!」
そう言って笑う男達であったが、ディーネは溢れんばかりの呆れのを抑えるので一杯であった。
當事者を目の前にして自分の計畫を暴するとは、もしかしたらこの男達はとんでもないアホなのでは無いだろうか。バカだバカだとは思っていたが、まさかここまでとは流石のディーネも考えもしていなかった。
 とはいえ、相手が愚かな分にはディーネとしてもやり易くなるだけであるので、歓迎すべきではあるのだが。ディーネは苦しむ演技を続けながら、報を引き出そうと試みる。
「魔獣なんて……ることは出來ないはずなのに……」
「生憎だなぁ!! 俺には指定の魔獣をる能力があるんだよバーカ!!」
 「なんでだ!? なんで僕をそこまで狙う!?」
「ああ!? そんなん目障りだからに決まってんだろ!! チョロチョロと水樹の周りをうろつきやがって……邪魔なんだよゴミが!!」
「ぐっ……」
 再び蹴り。き聲を上げるディーネに、男は唾を吐き捨てる。
「これに懲りたら、もう二度と水樹に近付くなよ」
「え、もう終わりか?」
「バカ、そろそろ堂が來る時間だろ」
「げっ、そうだったな」
 男達は各々スッキリした顔でその場を去っていく。後に殘されたのはボロ雑巾のようになったディーネだけだ。
 やがてゆっくりと起き上がったディーネは、『古谷薫』の立場についてようやく把握出來ていた。
 恐らく、このは彼等からイジメをけていたのだ。そのイジメが異世界でエスカレートした結果、薫が死ぬ結末となった。簡潔にいうとそういうことであろう。彼らの程度の低いリンチにもそれで説明がつく。彼等はバレないようにイジメを実行するため、あまり派手な事は出來ないのだ。
 はっきり言ってしまえば、彼らのイジメによるダメージは殆ど無い。かといって、これから何かある度に自分に絡んでくるのも、任務を果たす上で面倒な障害になってしまうだろう。
 ――邪魔になるなら、どうする?
 ――決まっている。暗部なら、道は一つしかない。
 と、そこまでディーネが考えた時、中庭に一人の男がってくる。
「君は……!!」
「ん?」
 ディーネが掛けられた聲に振り返ると、そこには一人のイケメンが立っていた。
 思わず心で悪態をついてしまったのはここだけの話である。
12ハロンのチクショー道【書籍化】
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