《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》暗部の躍
はるか高く聳え立つフリアエ王國の王城。その威容を離れた市街地の路地裏から、ローブ姿の人が見上げていた。
フードを目深に被ったその人は、壁にもたれかかったまま微だにしない。路地裏という土地柄においては、こういった何かありそうな人がいることは特に珍しいことでもない。なくともまともな王國の民衆は、こういった所に軽々と踏み込まないよういころから教えられているのだから。
そしてこんな場所にいつまでも居れば、まともでない人たちに絡まれても仕方のないことであろう。
微だにしないフードの人の前には、典型的な小悪黨が二人ほど立っていた。
「よお兄ちゃん、こんなところで何やってるんだ?」
「へっへっ、いつまでもこんなとこいると俺たちみたいな怖ーい奴らが來ちゃうんだぜぇ?」
嫌みったらしい言い方をしながら、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男達。が、目の前の人が起こしたアクションはフードを深く被り直すということだけであり、彼らの存在には目もくれない。やけにあっさりとした対応にプライドを傷つけられたのか、男達は不満げな表をすると、徐に自らの懐からギラリと輝くナイフを取り出した。
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「けっ、下手にでてりゃいい気になりやがって。おい、とりあえずそのぐるみ全部置いてって貰おうか」
「このナイフが飾りだとでも思ってんのか? 殘念ながらこいつはマジだかんな。そのキレイな顔に傷つけたくはないだろ?」
もっとも、悪黨達からの位置ではフードの奧を覗くことは出來ないが。
フードの人は彼らの持つナイフをチラリと見ると、初めて彼らへと口を開いた。
「……新品のナイフか。買い換えた可能もあるが、持ち方がなっていない。悪黨のなり損ないだな」
「あ?」
「お?」
フードの奧から聞こえた涼やかな聲に、思わず奇妙な聲を上げる悪黨達。男だと思って掛かっていった相手がだったと知り、二人は笑みを浮かべる。
「ははっ!! かよ。ならただで帰すわけにはいかねぇなぁ」
「しばかり俺たちの相手もしてもらおうか?」
「……はぁ。この國の悪黨共はと見るやすぐに犯そうとする。まあ、悪黨らしいと言えば悪黨らしいが」
ため息をついたフードのは、面倒を避けるように男達の間を抜けようとする。が、當然のように彼らが壁となって出ることは出來ない。フードの奧から彼らをねめつけたは、低めの聲で彼らに警告する。
「……今なら遅くない。今すぐ私の目の前から消えろ。その短い生命を終えたくなければな」
「はっ! こいつは傑作だ! このが今から俺たちを殺すってよ!」
「面白れぇ! ぜひともやって貰いたいもんだ!」
下品な高笑いを上げる男達。やはりわからないか、とはため息をつく。
「――忠告はしたぞ」
次の瞬間、男達の首には深くナイフが突き刺さっていた。
聲を上げる間もなくその意識と生命を絶たれた彼らは、そのままを吹き出しながら地面へと崩れ落ちる。その背後にいたのは、と同じくローブを著た人だ。彼は首に刺さったナイフを回収すると、へと向き直る。
「遅くなりました、すんません」
「遅いぞ、本當に」
文句を言った―フィリスはこめかみに手を當てる。呆れたように首を振る。彼の言葉にフードの男―者として潛したディーネの部下は肩を竦めた。
「しばかり市街地の把握をしていたんですよ。これからあちこちに忍び込むってのに、衛兵の巡回路とか知っとかないと問題でしょ?」
「それが原因であのような面倒な連中に絡まれたのだが?」
「俺がいなくても殺ってた癖によく言います……ってすんません、謝りますからそれは勘弁してください」
殺気を振りまきつつ、亜空間から剣の柄を取り出したフィリスにあわてて謝罪する男。
「冗談だ。さすがの私も仲間は斬らないさ」
(絶対噓だッ……!!)
冷や汗をかきつつ、剣を仕舞ったフィリスに抗議する男。もちろん心の中で。
「さて、隊長はうまく潛出來たようだが、問題は私たちだ。この國に來た以上、何かしらはしておかないといけないだろう」
「フィリスさんは一どうするおつもりで?」
彼は鼻を鳴らし、腕を組む。
「今の私はアメリア・ハートゴールドだ。私はこの國では多なりとも名を知られているからな。それを利用して表から々と工作させてもらうさ」
フィリスは組んだ腕を解き、ローブの奧から一枚の羊皮紙を取り出す。
「こいつはギルドがアメリア宛に出した依頼書だ。読んでみるといい」
「えーっと何々、『貴族の子弟たちの護衛任務』……なんですかいこれ。特に不思議なところもないですけど」
「不思議なところがないのが問題なのさ。本來なら私の格下であるA級冒険者でも果たせる依頼、それが態々私に向かってきたということは何かあると言っているようなものだろう?」
「なるほど、それに依頼者は王宮……匂いますねぇ」
男の手から羊皮紙を回収すると、フィリスは話を続ける。
「とにかく、私は冒険者ギルド伝いに勇者の報を追ってみようと思う。貴様はどうするのだ?」
「ま、俺は王宮以外の重要施設を回ろうと思ってますよ。そこに何がないとも言い切れないんで」
「ほう、その為の市街地の確認か?」
「そんなところですね。さっきそれで理不盡に怒られた気もしますが」
「何か言ったか?」
「いえ、何も……」
フィリスの圧に再び目をそらす部下。あまり彼を弄るのもリスクが大きいと考えである。普段から彼を弄っている局長のディーネはやはり々と凄いのだと実させられた。
「まあ、尾は出さないように気を付けろよ」
「そっちこそ、へましないで下さいよ」
お互いの拳を突き出し、打ち合わせる。
「「闇の許に」」
暗部においての合言葉を言ったのち、二人は別々の道を歩みだす。未だ日の出ている日中だと言うのに、彼らの姿は影に紛れて見えなくなった。
後に殘されたのは、虛しく放置された男二人の死だけである。この死も、路地裏ではよくあることとして共同墓地あたりに葬られるのであろう。
こうして影は、その姿を隠す。
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